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Φ≪ファイ≫  作者: RPM
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第1話 出会い(前編)

光があれば、影が生まれる。

セレスティア島――

数多の浮上島の中で、繁栄の象徴とされるこの島も例外ではない。

立ち並ぶ高層ビルの陰には、光を嫌う者たちの街が多く息を潜めている。

セレスティア島12番街 グレイ地区


細い路地を抜けると、一本の通り(ストリート)に出た。

そこは表の大通り程の大きさではないにしろ、一目でこのあたりの主要道路だということが見て取れる。

前を歩く男の背を追いながら、少女は自らの軽率さを悔やんでいた。

(つい、その場の流れで「依頼を受けてください」なんて言っちゃったけど...この人が信用できる保証はないし、あとから大金を請求されるかも……?)


その不安は表情にもはっきりと表れていたが、探偵はそれを一瞥しただけで、歩みを止めようとはしなかった。


少女は、男への不信感だけでなく、その場の居心地の悪さも感じていた。

高層ビルの陰で、日中も薄暗いこの通りはじめじめとしていた。

道の両脇には、ホームレスたちが寝転がっている。


ふいに探偵が足を止めた。

そこは二つの通りが交差する角にある、小さな事務所の前だった。

「セレスティア探偵事務所」

乱雑に書かれた看板がドアの横にかかっている。

どうやらここが彼の事務所のようだ。

探偵が入口への階段を上り始めたので、少女もあわててその後を追った。


「お...お邪魔します。」

中は外観に反して整然としており、家具はすべて計算されたかのように置かれ、棚に並ぶ書類や道具も乱れひとつない。そこから、この探偵の几帳面な気質がうかがえた。

「帰ったぞ。」

ようやく探偵が口を開いた。少女は彼が一人で事務所を切り盛りしているものだと思い込んでいたため、その言葉にわずかな驚きを覚えた。


「おかえりなさ――ってお客さん?」

奥のほうからひとりの女性が姿を現した。

少女より少し年上だろうか。落ち着いた佇まいは、彼女の見た目以上に大人びた印象を与えていた。

「そうだ、飲み物を頼む。俺は彼女と話がある。」

探偵はそれだけ告げると少女に視線で合図し、事務所に入ってすぐの大きな机へ座らせた。

「...さてと」

探偵が向かいの椅子に腰を下ろす。

少女は無意識のうちに背筋を伸ばしていた。

目の前の男は自分よりはるかに大きい。

温かみのある事務所とは裏腹に、このサイボーグの存在は少女の胸を否応なく強張らせた。


「あっ、あの...」

「ん?」

「……その、依頼料とかは……」

少女はかねてよりの不安を口にした。

「なんだ、そんなことか。」

探偵は意外だったかのように言う。

「うちは相談無料だ。じゃなきゃこんな辺鄙(へんぴ)な場所でやっていられん」

少女の肩から、わずかに力が抜けた。


「名前は?」

探偵は机に置かれていた書類の束から、一枚の紙を取り出した。顧客リストのようだ。

「エリナ・イアハートです。」

「イアハート、か。」

むき出しとなった金属製の手が、紙にすらすらと文字を書いていく。

「俺はエドワード・シャーロックだ。さっきのは助手のイザベラ。」

探偵は名刺を渡すわけでもなく、ただ淡々と名乗った。


「それで?依頼内容を聞こうじゃないか。」

赤く光る男の眼に見つめられ、少女――エリナは自らの目的を思い出す。

「このペンダントなんですけど......」

「あんな荒くれものに立ち向かうとは、ずいぶん貴重な物のようだな。」

エリナは先ほどの出来事を思い出し、思わず頬を赤らめた。

「お恥ずかしいところを見せてしまって...」

だが次の瞬間、彼女の顔から自嘲の笑みは消え、悲しげな色がその瞳に宿った。

「でもこれは、私の父が行方不明になる前に残した最後のものなんです。」

一方探偵の目は赤い光を放ったままである。

「それと......母曰く、父はいなくなる直前にこの手紙を残したそうなんです。」

そういって少女は鞄から一通の手紙を取り出し、探偵に渡した。


『銀に隠されし碧の光が、汝をその会わんとする者へ導くであろう。』

手紙には達筆な字でそう書いてあった。

「随分と堅苦しい言葉で書いてあるな。」

「私もそう思います。どうせ書くならもっとわかりやすくすればよかったのに...」


イザベラがカップ2杯の紅茶を持ってきた。

「砂糖はいるかしら?」

エリナは好意に乗ろうか迷った後

「いえ、大丈夫です。」

と丁重にお断りした。


「それで?その銀色の謎を解いてほしいというわけか?」

「はい。」

少女は探偵の表情をうかがった。だが残念なことに相手はサイボーグである。依頼を受けるつもりか、受けないつもりかその顔からは判断できなかった。


「その『会わんとする人物』ってのはあなたのお父さんなの?」

紅茶を運んだトレーを机に置き、イザベラが探偵の横に立つ。

「私はそう思います。幼いころから私、父のことが大好きで......父もいなくなる前、しきりに私のことを気にかけていたと聞きました。」

もう戻ることのない、幸せな記憶を少女は思い返す。

しかし、探偵の興味は銀色のそれに向いたままであった。


「その銀色、見せてくれるか?」

言われるがままエリナは探偵にペンダントを手渡した。

掌に収まるほどの大きさであるそれは、しずく型で、表面にはなにかの文様が描かれていた。



「......シグマ―工業か。」

それまでとは打って変わり、随分と暗い声で探偵がつぶやいた。

「シグマ―って、あのシグマ―?」

横の女性が問い返す。

「この模様を見てみろ......ほら、これはシグマ―のマークだ。」


シグマ―工業。その単語は3人に、ある一つの出来事を思い出させた―――

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