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36 金眼2


ホントこの槍……どうしてくれよう。


魔力が枯渇して身体強化が切れるだなんて大裂谷に落ちてからこっち経験が無いような……いや、言うほど前のハナシでも無いよな。あれから1年も経ってないじゃん。


「ん?……来ねえのかよ」


死んだと思った。

『金眼』を前にして魔力枯渇でフリーズ。いい的だ。

あの鋭い爪を振るうなり、巨大な足で踏みつけるなりすれば俺は終わったはずだ。

改めて『金眼』の醜い面を見上げる。


……デカいな。火竜の1.5倍ってとこか。

火竜よりは細身に見えるプロポーションにカマキリじみた頭が乗っている。いや、カマキリというよりカマキリっぽいゴブリン?な、感じの顔だな。本当にこの世界の『竜』ってヤツは不細工だ。いや、そもそも魔物全般が不細工なわけだが。

そんな不細工カマキリ顔の『金眼』なのだが、先刻までのニヤついた表情が、今はどこか困惑したように見える顔つき?になっている。

……ああ、そうか、コイツの前に立って平気な生き物を見たことがないのか。

この距離で目を合わせれば普通は死ぬもんな。

なんで立っていられるのか理解不能なんだろうな。

それで手を出しかねたと。

警戒しちゃったと。

一歩踏み出してそのデカい足で磨り潰しておけば、さすがに俺でも回復不能で命を落としたと思うよ?半端な知恵が邪魔したな。残念。


「ガ■■ーッ!」


吠えた。威嚇のつもりか?ヘイヘイ!マジでビビってんなコイツ。

そんなことしてる間に俺の魔力は戦える程度にまで回復しちゃってるけどな。


『竜殺し』を構え一歩踏み出した俺を見て、呪竜はパニクったように両腕を振り回した。ガキの喧嘩かよ。

細身の呪竜の四肢はやけに長い。加速のついたその長い腕の質量を受け止める気にはならなかったので、一旦躱した後に追うように切り払ってみた。


「ギャ■■ッ!?」


驚いた。

呪竜の巨大な指が骨ごと斬り飛ばされる。

『竜特効』は伊達じゃなかった。


ヤツの右手の指の一本は切り離され、隣の一本は皮で辛うじて繫がっているだけだ。

火竜で竜種の硬さは身に染みていただけに、この槍の『竜特効』の威力には衝撃を受けた。

本物じゃん。


あくまでも推測という前置きは付くが、呪竜には火竜のようなブレスは無い、らしい。

そりゃあ、目を合わせるだけで呪い殺せるんだからブレスとかいらないよな。俺にはもう、呪いは効かないわけだが。

やはり俺は毒系に特化した魔物には相性がいい。呪いが脅威では無くなれば、コイツも俺にとってはデカいだけの


「んニャーッ!?」


凄まじい速度で飛んできた瓦礫を間一髪で躱す。

このヤロウ、俺が一番やって欲しくないことをやりやがった。


そのデカい尻尾と腕を振り回すことで、建物を叩き壊してその破片をこちらに飛ばす。

単純な物理攻撃。

『戦士』や『闘士』のような前衛職なら耐えられないほどのものではないだろうが、強固な『魔装』を持たない紙装甲な『盗賊』の俺には効く。致命的なレベルで効いてしまう。

俺の防具は大裂谷の二体目の火竜の素材から最近作ったばかりの軽鎧だ。ウィールヴァーサ王妃殿下の紹介で王室御用達の職人に超特急で作ってもらった逸品。なんだけど、こんな事態は想定していなかったからね、動きを阻害しないように手甲と臑当メインで胴体は胸と背を申し訳程度って感じなんだよ、これ。え?下腹部?勃ったらバレるくらいに無防備だよ。七分丈のクロップドパンツは一応火竜の飛膜製だからそうそう破れやしないとは思うけどね。


「ニャぐっ!」


うん。破れはしないけど衝撃は伝わるわな。

同じく火竜の飛膜で作った矢避けのマントを慌てて羽織る。これで少しは凌げるはず……って、オイ!?ちょっ!?は?マジか!?


逃げる、だと!?


「ざけんニャよっ!!」


長い腕と強靭な尾を振り回し、周囲の建築物の悉くを粉砕しながら黒森への逃走を図る巨大な竜。

いや、本当にふざけんなよ。




「ギ■■ッ!」

「うるせえ!腰抜けっ!いつまでも逃げてんじゃねえよ!!」


一抱えはありそうな太さの針葉樹が束になって飛んでくる。土や石や岩と共に。岩はやめて。

大きく蛇行しながら手当たり次第に障害物を飛ばしてきやがる。前に出られない。鬱陶しい。

誤算だったのが呪竜の速さ。一歩がデカいからね。変に脚が長いし。絶妙に前に出られないくらいの速さなんだよ。


「ちっ!」


一旦横に跳んで大きく距離を取る。

……凄えな。

一瞬で、自分が数多の上級魔物たちの標的にされたことを感じ取れる。

いやこれマジでヤツを斃したあとの方が大変なんじゃないのかな?

ていうか、かれこれ5時間くらい追いかけっこしてる気がするんだけど、俺、どこにいる?

シャレにならないくらい奥まで来ちゃってない?

ここ、黒森だよ?


「クソ竜がっ!いい加減に止ま、へっ?」


バチンッ、というか、ドパンッ、というか、重たい、湿度の高い打撃音がして。


『金眼』が吹き飛んだ。

木々を、森を巻き込んで。

もんどり打って。


視線を戻すとそこには……そこにも『金眼』がいた。


吹き飛んだ呪竜よりも一回りは大きな体躯に……半ば潰れた左目。

その金色の光を見た瞬間に、心臓を掴まれるような感覚。

コッチじゃん。コッチが『金眼』じゃん。

『真・金眼』じゃん!


え?ナニ?コイツら親子とか親戚とかそういうアレ?

それにしては剣呑というか険悪というか……殺意が凄いんだけど。『真・金眼』の殺意が物凄いんだけど!

って、『偽・金眼』?なぜこちらをチラチラと?「ホラ!見てくださいよアイツ!ヤっちゃった方がイイんじゃないすかね!」的なチラ見を……テメエ、わざわざ俺を『真・金眼』に擦りつける為にここまで引っ張って来たってコトかぁ?それ、竜がやるコトかぁ?姑息すぎるだろ!


「あ……」


目が合った。

膝をつく。

鼻血が吹き出す。

考えろ。

二体を続けて殺すことはできない。

間違えたら、詰む。まあ、ほぼ詰んでるわけだが。




『真・金眼』は完全にターゲットを俺に絞った。『偽・金眼』のことなど一顧だにしない。舐められてるぞ、『偽』。

その『偽』は先刻まで逃げ惑っていたのが嘘のように、じっとこちらの様子を窺っている。漁夫の利狙いがあからさま過ぎるな。なんだっけ、あの顔、この姑息でイラっとする感じ……ほら、アイツ、大裂谷の時の鼠顔……トナン!違ったラシオ、ラシオだ。トナンは猿だった。ラシオね。アイツに通じるなんか腹立つ顔。って、どうでもいいな。現実逃避はやめよう。考えろ、俺。

だって、ホラ。

くる。


「ガ■■ッ!」


速い。

躊躇なく殺りにくる。喰いにくる。『偽』とは違う。ヌルくない。

だけど


「召し上がれーいっ!」


火竜と戦った時よりも格段にアップした俺の身体能力から放たれた毒ガスメロンが見事に『真・金眼』の喉奥……じゃなくて目!右目!右目に命中した!狙い通り!


「ギィ■ッ!?」


目を潰されながらも突っ込んでくる大きく開かれたその顎門を躱し、腹の下に潜り込む。

『竜殺し』の光る穂先が呪竜の右の踵の上を切り裂いた。


「グ■■ッ!」


崩れ落ちてくる巨体をすんでの所で回避、浮いた左脚の腓骨を下から叩き斬る。

悲鳴。手応えは十分。痛みにのたうち回る呪竜の太く長い尾が辺りの木々を地面ごと巻き込んで吹き飛ばす。

ありがとう。

注文通りだ。


宙を舞う障害物に身を隠しながら『偽・金眼』の足元に辿り着いた俺は、夜の闇の中になおも黒いその鱗に覆われた軀を一気に駆け上る。

驚愕に見開かれる金色の眼。

虫に纏わり付かれて慌てる子供のように長い腕を振り回す『偽』。

やっちまったな。

余計な事を考えずにただただ逃げていれば命は助かったかもしれないのに。

本物の『金眼』を始末できるかもしれないと思っちまったと。

成り変われると。

自分こそがこの森の主になると。

阿呆が。

その半端な知恵が、欲が、お前を殺すわけだ。


「せいッ!」


振り回す腕をすり抜け、慌てふためきイヤイヤをするように頭を振る『偽・金眼』の顎下に『竜殺し』を突き入れる。


「ブ■■ッ……」


脳には届かない?なら……思いつきで『竜殺し』に全力の魔力を叩き込んでみる。


「うわ」


『偽』の両眼が弾け飛んだ。

魔力を勝手に吸うくらいなんだから余計に注入したりしたらどうにかなるんじゃない?くらいの軽い気持ちでやってみたらエグい結果に。

凄いぞ『竜殺し』!とか言ってる場合じゃなくて。

崩れ落ちる巨体。

俺の身体も3階建くらいはありそうな高さから一気に重力に引かれ落ちていく。


このくらいの高度からの落下なら、今の俺にとっては大したダメージにはならない。本来は。


「ひぐぅうっ」


竜種の莫大な魔力を喰う痛み。

二体の『金眼』を連続して斃せない理由がこれだ。

片方の命を奪った時点で俺が痛みで動けなくなることが確定なんだもんな。

あまりの下腹部の痛みに受け身の姿勢を取ることも叶わず、ただ落ちる。

中学生の頃のいつか、学習塾のオッサン講師が尿道カテーテルの痛みを力説していたことを思い出す。いや、そんなの思い出さなくていいよね?多分、今の俺の方が痛い、っていうか生死の境で思い出すようなことじゃないよソレ。余裕、無いよ!?


「ニャぎっ!」


落下地点は比較的柔らかい腹側、胸の辺りか。

期せずして『偽』に抱っこされているようなカタチに。

ラッキー?いやいや50メートルほどド正面に『真・金眼』の顔があるんですけど!ガッツリ目が合ってんですけど!そんで下腹の激痛が最高潮なんですけどっ!!

って、大丈夫。『真』はまだ動けない。そのために先に両足を切り裂いておいたのだから。俺が動けるようになるくらいまでは余裕で大丈夫なはず。大丈夫……だよね?


「グゥ■ォオ■■ーッ!!」

「うっそぉおおーっ!?」


下半身を引き摺りながら無理やり自衛隊的キビキビ感の匍匐前進?で突っ込んでくる『真・金眼』。キモい。潰れかけた左目と毒で爛れた右目で睨んでくるのも相まって更にキモい。若干ホラー風味。そしてそんなことに構っていられないくらいに腹の底が痛過ぎる俺。いや構わないと死ぬよ?俺、死ぬよ?動かない。動かないんだよ身体が。5秒くれ!!あ、コレ!まだあったコレ!!


「ふぐっ」


妙な声を出してしまった。亜空庫から物を取り出すだけでも気合がいるんだよ。痛過ぎて。

そして身体を丸める俺の股座あたりから転がり出るのは残り僅かとなってしまった毒ガスメロン。

『偽』の死骸の腹の上をコロコロと転がり落ちる毒ガスメロンを見て急ブレーキをかける『真・金眼』。


「ギィ■ッ!?」


ビビってる。「え?産んだ?」みたいな顔してる。産んでないよ。尻のところから亜空庫を開けただけだよ。


「ゲェ■」


うん。メロン破裂しちゃったね。臭いよね。君の口臭も相当なものだけどね。こっち向くなよ。もう悪臭ダブルで大変なコトになっちゃってるよ。息を吸うのが辛いんだよ。

で。

痛みが耐えられるレベルまで落ち着きました。8秒かかったけど。

動くよ?動いちゃうよ?終わらせちゃうよ?


「ラス1なんだ。よく味わってくれたまえ」

「ギィ■■ッ!」

「せいっ!」


気がつけば最後の一つになってしまっていた毒ガスメロンを『金眼』の生臭い口中に投擲。さすがに外さない。10メートル先に俺がすっぽり入るくらいの大口開けてんだからね。誤算だったのは、この至近距離ではもう、こちらに突っ込もうと勢いのついたコイツの動きを止められなかったことで……次の瞬間、『金眼』の右フックを受けた俺は宙に浮いていた。


「グギ■■ーッ!」

「ぐニャ!」


カウンターで切り裂いた腕から吹き出す大量の血を浴びながら、『偽』の背後、その死体をバリケードにするような位置に落下する。

外れた肩と折れた肋骨が拷問じみた痛みを伴いながら治っていくのを歯を食いしばりながら待つ。息を潜めて。

二体の竜種が暴れた此処は、木々が薙ぎ払われ、深い森の中とは思えないくらい頭上が開けている。そして満天の星。眩しいくらいに。いや本当にちょっと眩しい。

順応することを意識すればするだけ『超順応』が仕事をする、この国に来てようやく気づいたその事は、どうやら夜目の効きにも影響するようだ。そんなもの眼の仕組みの差を超えることはないだろう、そう思っていたのだけれど……今の俺、獣人族より暗視能力が高いと思う。多分。

だからほら、星空を背景にして『偽』の骸越しに俺を覗き込む『金眼』の醜い顔が、妙に増感された、というか無理やり明度をあげたような見慣れない視界の中でくっきりと見え、その牙とか舌とか喉の奥から溢れてくるそのゲェ?


「ゲルォ■■グゥ■」


うん。効いたね、毒ガスメロン。

確かに俺のせいなんだけど、だからって頭から吐瀉物ってのはないんじゃないかな。

しかも主要な構成物が毒ガスメロン。なんだろう、返品的な?お返しします、ってこと?失礼しちゃうな。

それにしても、臭すぎるよ。

俺、今、人生で最高に臭いかもしれない。

と、思いながらも、もしかしたらそうでもないかもしれないという事実に愕然とする。

人生が、臭すぎる。


力を失った首が俺の側まで垂れてくる。

ワンチャンこの毒と悪臭が周りで様子を窺う魔物たちを牽制してくれるかもしれない。だといいな。

そんなことを思いながら『金眼』の側頭部に『竜殺し』を突き込む。

槍に魔力を注ぎ込む。

金色の眼球が吹き飛ぶ。

腹の底を重ねて襲う堪え難い痛み。

そう、『金眼』を殺し切った痛みだ。



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