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32 お姉ちゃん


「わ、わたくしがリオ君の、お、お姉ちゃんなんだからねっ!」


謁見、じゃないな、王との面会後、エイダン大隊長に連れられて向かった先は、なぜかアーヴィルエール・トア・シグルヴァード王女殿下の私室だった。いや、ダメだろ。


「お、お母様がリオ君のママになったって、聞きました。な、ならば、ならばっ!わたくしとリオ君は姉弟、ということになる、でしょう?」

「いえ、王女殿下それは」

「だめー!だーめーでーすー!姉弟なのですからっ、そんな口調は、駄目、なんです」


面倒臭くなってきたな。可愛いけど。……可愛いなぁ。


「まぁ、確かに……滞在中はその、王妃殿下をママ、と呼ぶことにはなりましたが」

「口調ぉ!」

「あー、いやでもそしたら俺がお兄ちゃんじゃね?」

「おっ……お兄ちゃん……いいかも……うあーうあーどうしよう、って違う!違うのです!リ、リオ君はまだ、16歳なのでしょう?ちゃんとエイルに聞きましたから、16歳、ですよね?ならばっ!わたくしの方が年上です!お姉ちゃん、ですっ!わたくしはもう、18歳ですからっ!」

「……うっそぉおおぉ!?」

「むーーー!」


合法、だと!?


「さすがにちょっぴり失礼だと思いますけど!驚きすぎだと思いますけどぉ!」

「いや思うだろ。絶対一つか二つは年下だと思ってた」

「むー!ま、まぁ、いいです。それはいいです。とにかくとにかく、わたくしが年上なのです。なのですので!」

「はあ」

「お姉ちゃん、って呼んでください」

「お姉ちゃん」

「はぎゅ!うー、あー、なにかなー、すごくいいけど、なにかなー」


なんだよ。


「そ、その前に、名前をつけて言ってもらいたい、かな、とか」

「アーヴィルエールお姉様、とか?」

「ぷぎゅ!や、いい、いいですけど、うん、すごい、ですけども、ちょっと堅苦しいので」

「アヴィお姉ちゃん?」

「うあー、や、もう、うあー、すごい、すごいです。あー、でもー、あー、なにかなー」

「いやもうアヴィでいいだろ」

「それです」


それかよ。




「やっと、やっとお会いした時のようにお話しできるように、うん、なりましたね」

「いやもう面倒臭いからこれでいいかなと」

「め!めんどっ!」

「いや、いいんだよ。色々ありすぎて、ちょっと疲れたし、あまりアレコレ考えてもね」

「むー。まぁ、そうですね。エイルから今に至る経緯は聞きました。怒涛の展開?ですものね、リオ君。ならばわたくしは、お、お姉ちゃんとして、ですね、その、リオ君を癒してあげちゃおうかな、と、ですね」


ととと、と小走りで向かった先には、ピンクと水色の花模様が広がる愛らしくも豪華なソファ。

ぽすんと腰を下ろしたアヴィが頬を染めながらテシテシと自らの腿と叩く。


「どぞ」

「……」

「どぞ、です」

「……」

「……むー!どぞ、って言ってるじゃないですかー」

「なにがだよ」

「ひ、ひ、膝枕っ、です!」


耳まで真っ赤。挙動不審すぎて猛可愛い。


「いや、姉弟設定にしてもさすがにまずいだろ。王女だよ?」

「だっ、大丈夫です!二人きりですから!人目がありませんから!」


余計まずいだろ。

というか


「いや、あるだろ、人目。いるじゃん、そこ」

『なっ!?』


なっ!?じゃねえよ。窓際、ベージュを基調にしたこれも愛らしい花模様の分厚そうなカーテンの横……いや、隠形使ってるのはわかるんだけどさ


『みっ、見えているのですかっ!』


まぁ、薄らぼんやりとして心霊現象じみてはいるけど、見えないってことはないわな。夜に見たら変な声が出そうなホラーな絵面。


「え?あれ見えないとか、あるの?」

「あの、割とあるのです。わたくし一応その、王族ですので、あまりジロジロと不躾に室内を見回してはいけない、などと思われたりするようで人によっては全く気づかなかったりですね、あと、その……慣れてる人は、もう、なんというか、見えてない体で」

『見えてないテイッ!?』


うん。甘やかしすぎだろう。


「アヴィは見えてるの?」

「あ、はい。時々姿が揺らぐので、ああ、隠形使ってるな、とは思いますが……基本、丸見え、です」

『丸見えっ!?』

「いや、もう、鬱陶しいから隠形解けよ」

「あ、はい。失礼いたしました。アーヴィルエール王女殿下に侍女として仕えておりますアルヴァ・ソールリークと申します。ハドリー様には父と姉、それに」

「はぁ!?ソールリークって、ミルの妹、ってことぉ!?」

「あ、は、はい、その」

「うっそぉ」


隠形を解いた少女は、アーモンド型の黒い瞳に長い黒髪を二つに分けて胸の前に垂らし、身に纏うのはドレス、ではなく、暗いグレーに見慣れた刺繍文様の民族衣装。侍女、というより護衛か暗殺者、って佇まい。

整ってはいるものの地味な印象の顔つきに胸が……胸……どこ?あれ……ミルの妹、だよねえ?


「は……や、姫様っ!この男っ、駄目ですっ!今っ、わたしの、む、胸を見て、一瞥して、『うっそぉ』ですよ!?鼻で笑いながらの『うっそぉ』ですよぉ!絶対お姉ちゃんと比べた!お姉ちゃんの無駄に大きい「無駄じゃねえよ」くっ……こ、この男」

「アル、ステイ」

「はっ、やっ、も、申し訳ありません。取り乱しました」

「リオ君」

「ん?」

「やはりリオ君も大きいほうが」

「いやいや、あればいいよ。あれば」

「んなっ!それではまるで、わたしには、ない、と言っているようなものではっ」

「アル」

「はっ、申し訳ありません黙ります」

「ごめんなさいリオ君、彼女、最近まで軍に所属していたので、その、なんというか」

「はっ!申し訳ありませんガサツです!」


ホントにな。


「まぁ、でも、お姉ちゃんの方がもう少し」

「む、胸の話ですかっ!」

「いや、それはもう少しどころじゃないし「ぐはっ」そうじゃなくて隠形、陰魔装の話だよ」

「はっ、申し訳」

「それはいいから。お姉ちゃんの方がもう少し居場所が掴み難いというか、声の出処なんかもはっきりわからない感じだったな。アンタの場合は見えづらいだけで位置が丸わかりなのがね」

「はっ……はい……あの、ハドリー様は姉の陰魔装を」

「うん、見せてもらった。病床だったからね、ミルにとってどの程度の出来なのかは正直わからないけど」

「それで……ハドリー様も陰魔装を、って、え!?消え、は?ど、どこに……」


ミルの妹だそうだからね、参考までにサービスで俺の陰魔装を見せてみたけど、コイツ本当に見えてないな。

せっかくなんでまじまじと顔を見てみると、まあ、姉妹というだけあってどことなくミルヴァの面影はあるんだけど……多分、残念ながらちょっぴり父親成分が多かったのか、あそこまでの美人とはとても「むー」は?


「そんなにアルの顔が見たいのですか?」

「ああいや、ミルの妹っていうからほら、姉妹だけあって似てるなと」

「お姉ちゃんに!ホントですか!?」


ウソですが。


「って!姫様はハドリー様が見えてらっしゃる!?」

「ええ。ゆらゆらチカチカしてますけれど、お姿そのものは問題なく。その、ちょっと面白い感じです」


うん、ガン見してきているね。紫に銀の大きな瞳がキラキラとしてまるでそれ自体何かの魔法のように思わされる。

見蕩れて一瞬動きが止まった俺に小首を傾げてみせるアヴィ。爆可愛い。いや、そうじゃなくて。

それならと、身体強化フル稼働での高速移動でアヴィの視界から消え、られなかった。すごいな、この娘。


「リオ君、速い!すごいです!」

「……すごいのはアヴィだろ。ここまで視線を外せなかったのは初めてだよ」

「それはもう!姫様はすごいのです!齢18にしてすでに王国最強の魔法使いですからっ!って、本当に見えてるのですか?マジですか?」


王国最強?この愛らしいのが、最強?確かに俺の隠形がここまで通用しないのは驚きだが、「えへへ、見えてますー」とか言ってる可愛いのが、最強?


「どうしたのですか?眉間の皺がひどいことになってます。困りごと?」


隠形を解いた俺の顔を見て上目遣いに心配そうな表情をする最強可愛いアヴィ。可愛いのは最強でも構わないのだけれど……


「アヴィがこの国で最強の魔法使い、っていうのは」

「それ、は」

「そうなのですっ!姫様の氷魔法は、発動速度も威力もそれはそれは素晴らしくっ!まさにっ『シグリエルの至宝』との呼び名にふさわしくっ!!」

「うるさいよ「はっ、申し訳」それで、魔法の実力で『シグリエルの至宝』なの?容姿からかと思ってた」

「え、や、あの」

「両方ですっ!才色兼備、故に『至宝』なのですっ!」

「アル、やめてください。わたくしはそのような呼び方はされたくありません」

「でもなぁ、18歳の女の子が最強、ってのもどうなんだろうなあ。背負わせすぎだろ。もうちょっと大人が頑張れよ、って」

「「……」」

「なんだよ」

「16歳で誰もできなかった金瞳の入手をやり遂げたリオ君がそれを言う?って思いましたので」「ですっ!」


そこは転生チートがあるからなあ。……言えないけど。


「では……改めて」

「ん?」

「どぞ」

「あっ!わたくしは、はい、消えますのでっ!ごゆっくりっ!」


うわぁ……モヤモヤとした人影がサイドボードの下へモゾモゾと。

ホラーの度合いが上がっているのだけれど。


「え、と……人目がなくなりましたので」

「え、ええ?」

「二人きりですので」


テシテシ


「どぞ」




「残りの金瞳が引き取れない?」


ようやく会うことができたトゥンベリ工房長は、目に見えて憔悴、というか減っていた、髪が。


「なんとか最初に渡してもらった大鰐の金瞳は薬にできたのだが……残念ながら金瞳以外の希少素材が底をついた。大急ぎで素材採取に部隊を向かわせていて、能力の高い亜空庫持ちは軒並みそれに同行させている状況なのだ。なので、申し訳ないのだが、もうしばらくリオくんに保管しておいてもらいたいのだ」

「……それは構いませんが、あの、王女殿下の侍女のアルヴァとやらも『盗賊』ですよね?確かに珍しい真職だけど軍以外にもいそうな気がするんですが。あと退役した元軍人とか」

「アルヴァ……ああ、スバンの下の娘か。姉ならともかくあの娘では……無理、ではないかな」

「いや、あの採集容器って、そんなに大きくないですよ?少なくとも一つは大丈夫だと思いますけど」

「リオくん、どれだけ収納できるかを決めるのはサイズと重量だけではないよ」

「え?」

「収納する物が有する魔力の量も大きく影響するのだ。魔石のように魔力の状態が安定した物ならそれほど負担にはならないのだがね。今回の金目鰐の瞳のように放置すれば魔力が抜けていくような不安定な素材の場合には、その魔力の量に比例して亜空庫の容量を圧迫してしまうのだ。知らなかったかい?」

「……はい。今まで聞く機会もなかったし、気になったことも」

「エイルリルから君の生い立ちについても多少は聞いている。無理もないことだろう。今となっては色々と規格外すぎて、そんな知識があろうがなかろうが君自身にとっては然程関係なさそうではあるが。何しろそういうわけで人が足らない。アルヴァ・ソールリークにしても、なんとか収納はできるかもしれないが、そうすると他に魔力を回すことができなくなるだろうから殿下の護衛の役には立たなくなる」


ああ、やっぱりアイツは護衛扱いなんだ。侍女らしい仕事一切していなかったし、できそうにもないもんな。


「大体あの粗忽な娘に貴重な素材を持たせるなど考えたくもない」

「そこまで」

「上の二人は母親似だが、あの娘だけは残念ながら中身がスバンに似てしまったな」

「二人?ミルだけじゃなくて?」

「ああ、ミルヴァの一つ下の弟が今回の解呪薬で助かったうちの一人だ。受けた呪いが弱めだったので解呪も後回しになっていたのだが、彼も今日、無事に解呪できた。……あの父娘がテスルに向かったのは、彼のためだよ」


お姉ちゃん、頑張ったんだ。


「……もしかして、その弟さんも『盗賊』持ちだったり?」

「ああ、いや、あの家は女系でな、女性にだけ『盗賊』が遺伝するのだ。真職の遺伝など本当に珍しいことなのだが、特殊職には稀に見られるらしい。『金眼』との戦いで戦死したミルヴァの母親も優秀な『盗賊』だった」

「そう、だったんです、ね」


やっぱり、お母さんは。


「話が逸れた。こちらとしても、リオくんが滞在中に無為に過ごさずに済むよう、できる限りの手配はしたのでよろしく頼む」


手配?




「ヨォ、英雄さん!」

「チェンジで」

「うぉおおいっ!」


シニスを思い出すようなモブい女の子に連れてこられたのは、なんのことはない、先だっての訓練場。

しかも待っていたのは猫獣人マカ・フェリ。

いや、マカ・フェリはもういいんじゃないかな?


「オイオイ一応こっちは現役の百卒長だぞ?平時でも山ほどやることあるなかで時間やり繰りしてここに来てんだよ!チェンジはねえだろチェンジはヨォ!」

「え?特別手当とか出てないの?」

「イヤ……それは出てるけどその」

「チェンジで」

「待てーい!今更それは困るんだよっ!入ると思って使っちまったからよっ!って、なにが不満なんだよ」

「もっと強い人がいいかなと」

「……ホォ。そんなセリフは勝ってから言えよクソガキ」


「げぶニャッ」


煽って本気を出させてからが訓練だよね。




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