31 竜殺し
「ホントに……すごい子。困っちゃう」
俺の頭を撫でり撫でりしながら眉をヘニョらせる王妃殿下。
すごいのは貴女のママみです。困っちゃう。
「いや、俺も扱いに困っていたので、引き取ってもらえれば助かります。あ、サービスで上乗せとかいらないんで、適正価格でお願いしますね」
「もぉ……そんなわけにはいかないわよ、これがどれだけこの国の助けになるか……。エイルは絶対嫌がるからやめろ、って言ってたけど、本当に爵位くらい受け取ってもらわないと格好がつかないんだけど。どう?伯爵くらい、イっとく?」
「そんな軽く言われてもイかないです」
後ろのほうで「なぁんでだよぉ!そんなコト言わないでイっちゃいなよぉ!」とか騒いでる国王がウザい。ひたすらウザい。
「まぁ、リオちゃんならそう言うわよね。だけど、なにもなし、ってわけにはいかないの。それでね、槍、なんてどうかな?」
「槍、ですか?」
「うん。あのね、これもエイルから聞いたコトなんだけど、リオちゃん、テスルダンジョンで愛用の槍をなくしちゃったでしょ?ええと、大鰐と戦った時?だからせめてその代わりになる槍を受け取ってもらえないかしら?」
……槍か。正直、魅かれる話ではある。
テスルに帰ったら探しに潜ろうかと思ってたんだよね、黒鋼の槍3rd。
あのクラスの槍が手に入るのなら……
「ギヌ軍団長、お願いしますね」
「はい、只今。エイダン大隊長!」
「はっ!」
扉が開き、何本かの槍を並べたデカい台をゴロゴロと熊さんが押してきたクマ。
いやぁ……すっごい、熊だな。フツーに熊だ。ほぼベアー。
「お初にお目にかかります!カヌーズ・エイダンと申します!」
すっごい爽やかな熊だった。
「どれでもいいのよ?一番リオちゃんが気に入ったモノを選んでね」
俺の眼前に並ぶ5本の槍。
いや、これ、どれを選んでもヤバい気配がするんですけど。
黒鋼の槍3rdに似た槍もあるんだけどね、おそらく黒鋼製の。ただ全体に刻まれた魔法文字がもう、これ、ただの槍じゃないですよ感をこれでもかと、ね。
その両隣には推定ミスリルなこちらも魔法文字がゴリゴリに刻まれた銀色の槍とガラスみたいに半ば透き通った謎素材の青い槍。こんなの人前で平然と持つ勇気ないんですけど。
残りは全く同型の紫色の2本の槍。違うのは色味だけで、片方が黒っぽい地味目な紫で、もう片方が銀混じりで光沢のある紫。
で、だ。
見た目で選ぶなら暗い紫一択だ。地味だし。
だけど見た目に反してこいつが一番ヤバそうな気配がするんだよ。
格が違う。そんな気がする。
とか言いながら、そもそも俺に武器の目利きなんざ出来るわけないんだから悩んだところでどうにもならんだろう、というのも事実としてあるわけで。
なにか助言とか解説的なものとかないのかしらんと周りの連中の顔を見ると、全員サッと目をそらしやがる。もれなくニヤニヤしているのがムカつく。鳴らない口笛吹いてんじゃねえよ王妃様。ベタすぎんだろ、可愛いけど。
と、いうことで。
結局、見た目的にこれしかないので暗紫色なわけなのだが。
ヤバい気配?気のせいだろ。俺にそんなもんわかるわけないじゃん。
握る。
部屋にいる全員が息を飲む気配。ヤバい。しくった。
って、重くて持ち上がんないじゃん、と思った瞬間にゴッソリと魔力を吸われる感覚そして……スッと持ち上がる槍に「おおぉ」と周囲から声が漏れる。ヤバい。絶対しくった。
「ゥニャアァ?なに、コレ……」
俺、一番地味だからコレ選んだんだよ?
なんで……なんで光ってんの?
いや、光る槍とか恥ずかしくて振るえないですけど。
「そう、なるの、か……」
驚愕の表情の竜人。
え?わからないで出してきたの?呪いのアイテムだったりしないよねえ?
「リオ殿……その槍は、自分とギヌ軍団長の二人掛かりでなんとかその台に乗せることができたのですが……か、片手、ですか」
熊がなんか言ってるようだ。声が爽やかすぎて熊から出てきてるとは思えないんだよ。語尾にクマーとかつけろよ。
「リオちゃん!しゅごいぃ!さすがはわたくしのムスコねっ!」
いつ貴女の息子に!?王様が狼狽して「え?なんで?産んだ?」とか言ってるし。産んでねえよ!……産んでないよね?
「いや、この槍、魔力通したら持てましたよ?そういうモノじゃないんですか?」
「「「「……」」」」
「え?ちょっ、やめてくださいよ、なにこの空気!?俺、なにかやっちゃいました!?」
「「「「……」」」」
なんか言えよ。
「あー、ハドリー君。実はその槍ね、一人で持てた人いないの。建国以来」
建国以来、ってナニ?
「その槍ね、聖紫龍シグリス様がね、こう、ご自身の角から削り出してお作りになられたらしくてね、ってホントかどうかは知らないよ?500年も前のハナシだし。僕、見てないし。ただ、そういう謂れが伝わっているってことでさ。一応、伝えられている銘は『竜殺し』って言うんだけどね、ひどいよね?もうちょっと捻ろよ、って感じじゃない?あ、隣の銀紫のやつはその時の削りカスとミスリルを混ぜて作った7本の複製のうちの1本ね。誰でも持てるやつ。まあ、なにしろシグリス様、竜が大嫌いだったらしくてね、この槍で竜どもをブチ殺せ、ってことだとかなんとか」
伝承によると、この槍には謂わゆる『竜特効』が付与されているそうだ。誰もこの槍を使えなかったので未だ効果のほどは不明だそうだが。
ちなみにこの世界、『龍』と『竜』は別物だ。
『龍』とは、この世界を創った『始まりの聖龍』とその子孫のことで、これらは神だ。聖紫龍シグリスもその一柱だ。
対して『竜』は魔神ギヴィエルナヒアにより生み出された『龍』の姿を模した魔物だ。不細工な超劣化版。それでも人間にとっては最大級の脅威になる。
まあ、この世界では常識と言えるこんな話も、テスルで『翠嵐』の仲間から聞くまでは知らなかったんだけどね、俺。クラムがたどたどしく話してくれたのが、もはや懐かしい。
孤児院?あそこ、というか本体の宗教国家は『龍』の話に触れたがらない。
この世界、『龍』が神であることは否定できない。だって実在しているから、『龍』。
だから連中の信仰する『女神教』では、『龍』を古い神として扱う。できるだけ、触れないように。
それはさておき。
『竜特効』なんて付いたバリバリ実用的な武器を、宝物庫に寝かしておいても仕方がないわけで、これまでに数多の槍使いにそれこそ事あるごとに下賜しようとしてきたらしいんだよね。
なんならそこで呆然としている竜人エイ・ダ・ギヌ軍団長も、その昔勲章と共に授与されるところだったらしい。
まあ、持てなくて断念したわけだが。
そんな代物を、隣の国の下っ端冒険者である小僧が持ててしまったと。
え?いいの?
「うん!いいっ!すっごい似合ってる!リオちゃん専用、って感じ!」いや王妃様……
「素晴らしいです!リオ殿っ!雄々しいっ!」だから熊……
「うむ。見事なり」なり、じゃねえよギヌ……
「まぁ、ほら、他に持てる人いないんだから。いいんじゃない?持って行きなよ」軽すぎるだろ陛下……
こんなモノもらっても、上級冒険者になるまで亜空庫に死蔵じゃね?
「しかしこれで『竜殺し』の使用条件というか資格のようなものが見えてきたかもしれませんね」
熊が賢そうなことを言う。だから語尾にクマーと
「うむ、儂にもリオ殿から大量の魔力が『竜殺し』に流れていくのは感じられたが……やはり魔力量か?」
「いえ、確かにあれだけの魔力を流せる者は槍使いには珍しいのですがいないわけではありません。近いところではリオ殿の槍の師匠にあたる、と聞き及んでおります『炎槍』スバン・ソールリークも『竜殺し』の試しは経験しております。当時の彼の保有魔力量は、現在のリオ殿と同等あるいはそれ以上でありましたが、そのスバンからも魔力を吸われたという報告はありませんでしたし、もちろん、持つことは敵いませんでした」
「ならば……うむ、もしや、竜殺しか?」
「ええ。竜を殺すこと、今回のケースでいえばリオ殿の成し遂げられた火竜の単独討伐と複数討伐。このいずれか、あるいは両方が『竜殺し』を使うための条件である可能性は低くないかと思われます」
ええ……竜を殺せるやつに『竜特効』持たせるの?殺せないやつでも殺せるようにしたようがよくない?
「大嫌いな竜を始末したことへのシグリス様からのご褒美というコトかしら?」
「えー?コレやるから竜という竜を全てブチ殺してこい、的なハナシじゃないの?」
そんなの御免なのだが。
「なんにせよ500年越しに使用者が見つかったのだ。我らにとっても『竜殺し』にとっても喜ばしい話であるな」
「だよねー!さすがに国宝だからさ、僕がもう少し身体を起こせるようになったら授与式とかやりたいよねー」
「あら、素敵ね!リオちゃんにもカッコいい礼服作っておめかししてもらっちゃお!」
「それは良いですねっ!」
「待てい」
「「「「?」」」」
「今……こ、国宝、って……言った?」
「「「「うん」」」」
「……」
「「「「……」」」」
「もらえるかっ!!」
「「「「えー!?」」」」
馬鹿じゃなかろうか!
繰り返すが俺は『隣の国の下っ端冒険者である小僧』だ。
そんな小僧に、国宝?16歳のガキが国宝?
ない!それは、ない!
「こっちにします」
『竜殺し』を台に戻し、隣の銀紫の複製を掴む。
うん、魔力を通しても光ったりしない。ちょっと派手だが一番無難。
「あのねハドリー君、それ返されても使える人いないんだよ?だったらハドリー君が使っちゃえばいいじゃない?いくら国宝って言ったって、使えない武器に価値などないよ」
「だったら使えるようにすればいいじゃないですか」
「使えるように、って」
「竜種の単独討伐と複数討伐しちゃえばいいんですよ」
「「「「それは無理」」」」
無理じゃない!為せば成る!……死ぬかもしれんけど。
「うん。いいですね、この槍」
重さもサイズ感もちょうどいい。ミスリルだけあって魔力の通りもすごくいい。これでいいじゃん。
「銘とかあるんですか?」
「え?それ?それね……あるの?」
王様使えねえな。知らないんだったら黙ってろよ。
「うむ。それは『七三』であるな」
シチサン?髪型?
「7本の複製の3番目にできたもの、と伝わっておる」
「えー?どうなのそのネーミング。だからもうちょっと捻ろうよ。せっかくハドリー君にあげるのに『七三』って。この機会にハドリー君にピッタリの名前つけちゃえばいいじゃない。あ、ほら、銀に紫。これってアヴィの色だよ。え?それで選んだ?もしかしてアヴィっぽいからコレ、選んじゃった?うわー大胆。父親の前で。でも仕方ないよね、アヴィ、女神だから。崇め奉ればいいよ。うん。あ、いいの思いついた。『神槍アーヴィルエール』って、どう?うわ、カッコ良くない?どう?」
「却下です。そんな名前つけたら雑に扱えないでしょうが。彼女の名前がついた槍で魔物の首を飛ばせと?お断りです」
「あ!や!そうなの?そんな、愛しちゃってんの?やだなー父親の前で臆面もなく。えー?じゃあ、なっちゃう?息子に。ハドリー君、シグルヴァード君になっちゃう?あー、でもなー、アヴィは僕のだしなー。え?僕のだよ、アヴィ。だからいくらハドリー君とはいえそう簡単にはあぶひっ」
王妃様。グーで。グーパン、で。
「嫌だわ、血がついちゃった」
拳に、血。
「ごめんなさいね、夫が、鬱陶しい馬鹿者で。猿みたいでしょ?ホント、虫」
普通?の夫婦喧嘩感を出そうとはしてますけど、その人、陛下ですよね?
素知らぬ顔の軍団長と大隊長はそれでいいのかな?……いいみたいだな。
「あの、陛下、動きませんが」
「大丈夫よ。殴ると同時に回復魔法かけてるから。気を失っているだけよ」
手慣れてる!?
「リオちゃん」
「はい」
「そこのウザい男の言うことは気にしなくていいの。ただね、わたくしから一つお願いがあってね」
「何なりと」
「ホント、いい子ね。あのね、改めてトゥンベリ工房長からもお話があると思うのだけれど、リオちゃんにはもうしばらくシグリエルに滞在してもらいたいのね。あ、これは国からのお願いね。それで……わたくしからのお願いなんだけどね、わたくし、子供はアヴィ一人でしょ?そう、娘だけなのね。実はわたくし、ずっと、その、男の子のお母さんにもなってみたい、って思っていてね……その、ここにいる間だけでいいから、リオちゃん、わたくしの息子、してみない?」
「え?や?それは」
「ママ、って呼んで?」
「はい!ママ!」
陥落。
秒で。




