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30 シグリエルの至宝


「だから無理だって!謁見とか絶対に無理だから!」

「いえいえ謁見なんて大げさな話ではありませんから!陛下もまだ寝台から動けませんので!ただ一言お礼をと」

「いやだから礼ならエイルリルさんとか炎槍とかにしてくださいって」

「そのトーレアノン殿からのお話でリオ殿がー」

「いやなんで!?リルもなんでそんな無茶振りを?ホントに無理だから!あのね、俺って失礼なの。もう、そういう生き物、失礼な生き物だと思って欲しいの。なんていうか、絶対に無礼な振る舞いをするから。相手が王様でも非礼極まりないから」

「ですからこちらは感謝申し上げる立場ですから、少々礼を失したくらいでそれを咎めることなどありえませんから」

「違うの!そうじゃないの!嫌だろ?自分たちが尊敬する王様が無礼な態度を取られるとか」

「陛下はそれほど尊敬されていないので問題ないです!」

「んニャ!?」

「王妃殿下は王国一と言えるほどの尊敬を集められてますし、王女殿下は誇張なく国中から愛されておられます。ですが陛下は言うほど敬愛されておりませんので無礼があったところで本気で腹を立てるものなどおりませんよー、ハハ」

「ニャにを……?」

「あー、正直言ってしまうとですねー、今現在のシグルヴァード王国民にとっての重要度はリオ殿のほうが上ですから、陛下よりも、ハハ。なので本当に大丈夫なんですよ、陛下が陛下であることなんて気にしなくても。いやー本気で陛下を尊敬しているなんて言ったら笑われるレベルでグハッ」

「儂は本気で尊敬しておるぞ?一応」

「……一応とか言ってしまっているではないですかー」


グローブのような巨大な手でテルマルクの後頭部にデコピンをかましたのは、いかにも軍人然とした雰囲気を纏った竜人の男だった。デカい。マジ、デカい。身長2メートル半くらいある。


「お初お目にかかる。儂はエイ・ダ・ギヌと申す。見ての通り、国軍に所属する者だ。故にリオ殿にはどれだけ感謝しても足りぬのだ。諦めるしかなかった我が戦友たちの命を救っていただいたこと、心より御礼申し上げる」

「だからそれはエイル……」

「うむ、儂は立場上その話についてはトーレアノンより詳細な報告を受けておるのだよ。リオ殿とて此度の功績が貴殿抜きでも挙げられたなどと言うつもりはあるまい?どう控えめに見積もったところで第一功は貴殿であろう」

「いや俺は」

「トーレアノンもソールリークも功を押し付けられて良しとするような者たちではなかろう。諦めて受け入れられるがいいと思うのだがな……英雄殿」


英雄、ではないよ。絶対に違う。

犠牲を出さずに金瞳を得ることができたのは間違いなく俺がいたからだ。それはわかっている。

だけど俺はリルやミルを死なせたくなかっただけなんだよね。

好きな女の子たちを助けたかっただけなんだよ。

あのオッパイを守りたかっただけで……英雄、とか呼ばれると正直ツラい。

……もう隠形使って逃げちゃおうかな。


「それで閣下はなぜこちらへー?」

「そんなもの、リオ殿のお迎えに決まっておるだろうが。いや、テルマルクが迎えに出たという話を聞いて、トーレアノンがそれは無理ではないかと、な。相当にリオ殿が抵抗するだろうからと」

「あー、まー、面目ありませんなー」

「それでな、トーレアノンが言うには、儂が跪いて頭を下げでもすればさすがに、と言うのでな」

「やめて!マジやめて!なに言ってんだよあのヒト!や!重いっ!身体起こしてっ!行くっ!行くから!」


いや、ホントに跪こうとするからこの竜人。

こんなお偉いさん臭漂う壮年のオッサンを跪かせたりしたら俺へのヘイトが高まりすぎるわ。別にいいけど。うん、それはいい。

ただ竜人族にはなぁ、なんというか負い目というかなぁ、ほら、大裂谷で竜人部隊の装備をネコババしてるから。猫だけに。そういえば金貨とか銀貨とかまで……いや、大昔の竜人部隊だろうから、このギヌとかいうオッサンとは関係ないとは思うんだけど、なんだか強く出にくいんだよねえ。

しかし慌てて支えた身体のゴツいこと。これ、絵面的には俺が襲われているようにしか見えないのでは?

そして「イクイク」連呼するカオス。


「これはかたじけない。テルマルクの言うように、礼など要らぬこと、言葉も普段通りで良い。なんならリオ殿が謁見してやろうくらいの心持ちで構わぬのでな。なに、陛下が偉そうなことを吐かすようなら儂が畳んでやるので心配するな!」


うん、陛下とやらの扱いは大体理解した。




さすがに国王陛下の寝所ともなると、衛兵に守られたいくつもの扉を抜けて辿り着く事となる。

面倒臭い。帰りたい。

ギヌの後ろに隠れるように歩いていたのだが、どうやら既に面が割れているようで、衛兵の横を通る度にキラキラした瞳で目礼をされるのが俺の帰りたい度を爆上げしていた。ツラい。

ちなみに城内は、ベルサイユ的華やかさは微塵もなく、質実剛健な最前線の防衛施設といった印象が強い。


その印象は王の寝室に入っても変わらず、確かに配されている調度などは上質なのだろうが、なんというか、落ち着いてるを通り越して地味にすら感じられた。

いや、違う。

彼女のせいだ。

部屋の中央、天蓋付きの寝台の脇に佇む、薄桃色のドレスを纏ったライラックの少女。

彼女以外の全てが、色褪せた背景でしかなくなる。


『シグリエルの至宝』


そう、アーヴィルエール・トア・シグルヴァード王女。

俺が好きだった女の子。

5分にも満たない時のなかで、出会って、惹かれて、恋をして、諦めた。

会いたくて、会いたくなかった女の子。


白いレースがあしらわれたベビーピンクのドレス。

彼女の控えめなサイズの胸の下で切り替えたハイウエストなデザインが可愛らしい。

シフォンのような柔らかそうな生地が、ふわふわとした藤色の銀糸の髪と相まって、なんかもう、童貞殺傷力が高すぎるというか、とりあえず俺は死ぬ。

そして目が合った。死ぬ。

好きすぎる。死ぬ。


「あ……」


掠れる彼女の声。

口ごもらせているのは、多分、俺だ。

初めてアヴィと呼んだ時の笑顔はない。

眉尻を下げて、笑おうとして、笑えなくて。

そんな顔をさせているのも、多分、俺なんだろうな。


なんだかもう、全部ぶん投げて……攫うか?


違うな。それは違う。

俺のせいで彼女が何かを失うなんて駄目だ。

俺が足りてないだけなんだ。


って!

ちょっと待て俺!


だから5分も話してないんだって!

恋人じゃないから!

そもそも気持ちを確かめ合ったことなんてないんだから!

……思い込みが激しすぎて我ながらヤバいことになってるんだけど。

落ち着け俺。

彼女はアイドル。

俺ドルオタ。

そりゃ好きだよ。推しだもの。


だからそんなに見つめないでくれないかな。

ただのファン、君のファンの一人ってだけなんだから。


「……リー君?あの、ハドリー君?」


煩いな。殺すか。


「ひっ……」


しまった。睨みつけちゃった。王様を。


「あ、失礼しました。え、と……」

「いやリオ殿、礼を失するのは構わぬが、さすがに陛下を弑するのは勘弁してもらえんかな」

「いや、そんなこと」

「殺意高すぎて、儂、思わず抜きかけたぞ」

「すみません、ちょっとその、考え事というか……」


彼女を見つめていたかっただけだ。

彼女のアメジストの瞳を……見つめていたかっただけなのに……


「リオ殿リオ殿っ!また殺意がっ!殺意が高まっておるぞっ!!」


おっと。

変だな。

落ち着け、俺。


「すみません。もう、大丈夫です……多分」

「あ、あー、本当かい?大丈夫?いやもう、召されちゃうかと思ったよ。怖いよハドリー君。まだ心臓がドキドキしてるよ。ドキ胸だよ。せっかくハドリー君のおかげで冥府の入り口から引っ張り上げられたばかりなのに、そのハドリー君に即座に叩き落とされる、みたいな?あれかな?上げて落とす、的な?違うか。いや、わかるよ?アヴィ可愛いし。ずっと見ていたいよね?僕も。僕もずっと見ていたいもの。まあ僕の場合はほら、父親だから。父親と娘だから。ずっと見ていても許される立場だったりするんだけど」


ウザい。


寝台の上で寝具を背もたれに上体を起こしたその男には、病で窶れてはいるものの、確かにあのカゲモノ、王弟殿下の面影があった。

あまり老けても見えないのは長命種のエルフであるがゆえか。

その髪色は紫で……紫?もしかして地の色が紫?じゃあ王女の髪は紫ベースで属性色が銀……氷?いや、それは今はいい。問題はその王の紫色の髪に手を伸ばし


「いだっ!」


引っ叩いたその女性


「お礼を申し上げるのではなかったのですか?そもそも名乗りもせずに一方的に語るなど……呪いで脳が腐れ落ちましたか?」


タイトなシルエットのボルドーのドレスにウェーブのかかったアイスグリーンのロングヘアー、そして


「この人はハルムバルド・オズ・シグルヴァード、この国の国王です。一応。こんなのでもアヴィの父親なのでよろしくね」


そのドレスの、ハートカットの、む、胸元、ってこれ、こんなこと、あ、ある?のか?


「わたくしの名はウィールヴァーサ。アヴィの母です。ついでに王妃で宰相でもあるわね」


まさかの、まさかの『トーラ超え』だと!?


「よろしくね、リオちゃん」


ママみ!?『トーラ超え』プラス、ママみ!?


「よろしくお願いしますっ!!」

「まぁ、いい子ねっ」

「いやちょっと僕に対してと態度が違いすぎやしないかな!?ねぇ?ちょっ!聞いてる!?」


聞いてない。興味ない。

しかし……恐ろしいのは目測トーラ比2割り増しのボリュームがありながらウエストサイズはそのまま据え置きですよ、なボディラインの超メリハリっぷり。


「此度の解呪薬の素材、本当にありがとう。シグルヴァード王国を代表して心よりのお礼を」

「ちょっ!それ僕のセリフなんだけどっ!」

「話に聞いていた通り、本当に可愛い男の子なのね。びっくりしちゃった、フフ」

「ガン無視っ!?」

「それでね、今日お話ししたかったのはね、リオちゃんへのお礼のコト」

「や、それはだからエイルリル」

「うん、エイルから話は聞いているわ。リオちゃんがね、自分が『翠嵐』、だったわね?そのパーティメンバーとしてやるべきことをやっただけだ、っていう、そういうスタンスなのはわかるの。でもね、これほどの恩を受けておきながら、それに報いないわけにはいかないの。個人の心情としても国のありかたとしてもね」

「しゃ、爵位とかどうかなっ!?」

「ケルノン商会のアトグリムからもリオちゃんのお話は伝わっていたのよ?冒険者ギルドでの昇格を遅らせてまでケルノンに魔石を納めてくれる、って。そのことでも、いつかお礼ができたらいいな、って思っていたの」

「アトグリムが?どういう関わりで?」

「無視ィ!?無視されてるぅ?」

「あら、聞いてないのね……この国は黒森との境界に長城を築いているでしょう?だけど壁を登って来られるものもいるし、空を飛ぶ魔物だっている。その備えに長城全域に障壁魔法を展開しているの。弱い障壁だけど、破られることがあればそれで敵の位置も知れるから素早く対処ができるのよ。この国の防衛上欠かせないものになっているわね」


この障壁を展開するために大量の魔石が必要だそうだ。

以前は時折現れる竜種を討伐することによって特大の魔石を使用できたと。

それが40年ほど前に『金眼』が現れて以来、他の竜種の姿を見なくなったらしく、結果として竜種の特大魔石のストックはなくなり、今では上級や中級の魔石を掻き集めてなんとか障壁を維持している状態だそうだ。

ちなみに魔石のサイズが小さくなればなるほど寿命も効率も激しく低下するため、現状では竜種の魔石を使用していた頃に比べると重量にして50倍から100倍の魔石が必要になっているらしい。

そうか。

竜種の魔石か。


「それなら……報酬の代わりということで、これ、買い取っていただくということでどうでしょう。どうにも処分に困っていたのでちょうどいい機会かと」

「それは?」

「火竜の魔石、ですが」

「なっ!?」


小走りに駆け寄る王妃殿下。揺れる。暴れる。なんかバチュンバチュンなってる。


「やだ、すごい、これ」


おお、魔石を持つ俺の手が王妃殿下の白く柔らかい手のひらに包まれ……良い、匂い。

緩く編み込まれた白緑の長い髪は、色さえ違えど、そのふわふわと柔らかそうな髪質がアーヴィルエール王女の母親であることを強く意識させる。

そして恐ろしいほど整った目鼻立ち。

なるほど母娘だねえと王女に目を遣ると、なんだか頬を膨らませてこちらを睨んでいる。可愛い。


「リオちゃん、こんな立派なモノを……一体どうしたの?」

「あ、大裂谷で火竜をブチ殺した時にですね」

「大裂谷!?」

「あ、ちなみにもう一つあるんですが」

「二つも!?」


うん、近い。

二つの魔石を「しゅ、しゅごいぃ」とか呟きながらガン見してる王妃殿下のドレスから押し出されそうな二つの膨らみをガン見する俺。


「むー」


おや?なにやら可愛らしい鳴き声が


「むーーー!」


顔を上げるといつの間にか至近距離で頬を膨らませてる王女。可愛い。


「お母様っ、ばかり、ズルいですっ!」

「あ、あら、ごめんねアヴィ。アヴィも見たかったのね?」


「見られたいんですっ!!……や、違くて……その、えと……ひゃああぁっ!」


逃げた。


「……」

「……」

「……えと」

「……」

「うちの『至宝』……可愛い、でしょ?」

「え?あ、はい……」


ポンコツ可愛いです、『至宝』。


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