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21 テスルダンジョン5


「ちっさ……」


ちょっ!シニスさん!?聞こえたよ?聞こえましたよ今の一言。君はちょっと、サイズにこだわりすぎなんじゃないかなあ。

……確かに小さいけれども。


目の前に立つのはコートを脱ぎ捨てたグラザ。身につけるのはその身を縛る一本の縄だけ。

うん、下も穿いてないんだねえ。そしてやっぱり、亀甲縛りだったのだねえ。いや、知らないけど。ソレっぽいってだけで。


「んフッ」


どこをどうやったのか、一瞬で解け足元に落ちる縄。イリュージョン的なナニカ?


「いやあのグラザさん、思ったよりも縄が長いんで驚いてはいるのですが、その、いくらなんでもその縄であの鰐のところまではですね、ちょっとばかし無理じゃないかしらんと」


だめだ、狼狽しておかしな喋りになっている。あと、解けた縄が20メートル以上ありそうなのも動揺に拍車をかけている。落ち着け、俺。20メートル程度じゃ使い物にならない。大丈夫だ。


「フッ、この縄は1本に見えてはいるが、実は3本の縄を撚り合せたものでね、こうやって魔力を通して操作すると」


ブワッと撚り合せた縄が解け、3本の細い縄が広がる。

そして、解けた瞬間に縄の間に溜まっていたと思われる謎の汚れもブワッと撒き散らされ、合わせて何年モノやら知れない強烈な刺激臭が広がり俺の目と鼻を苛んだ。ここまで心身にダメージを受けるのは大裂谷以来かもしれない。


「この縄は黒森の深層に潜む希少な魔物の吐く糸でできていてね、解くと細いようだが、これ1本で竜をも吊るせると言われるほどの強度を持つのだよ。んフッ、ちょっとした自慢だが、この1本の縄で王都に家が建つよ」


建てろよ、家!そんなもん、股に通して喜んでんじゃねえよ。あと、洗えよ!


3本に分かれたように見えた縄は1本の長い縄を折り畳み撚り合せていたようで、解けた縄の長さは70メートルほどもあるだろうか、ギリギリ段差の端から鰐まで届きそうな……いやコレ、届いちゃうなあ。厭だなあ。


「緊急時にはここを引っ張れば簡単に解けるからね。んっ、慌てないように」


全身に縄の跡をつけた全裸にブーツの中年男に縛られ中。今が緊急時ではないだろうか?

縛られた胸元から立ち上る臭気がキツい。どの部位を縛っていたかは考えないようにしている。辛い。

あと羽織れよコート。なんで小ぶりなソレを見せつけるように全裸なんだよ。なんでちょっと嬉しそうに頬を染めてんだよ。いやなんかちょっと膨らんできていませんか!?ナニとは言わないけど勃ち上がろうとしていませんかねえ!?




「まだ眠っているのか……動きはないな。リオ、本当に、大丈夫……なのか?」


イロイロと大丈夫ではない。

気のせいだろうか。ようやくコートを着てくれたグラザの顔が、若返ったかのようにツヤッツヤしてる。ナニか吸われたのかもしれない。


「こっちで僕が縄を送り出すから、リオも小さく縄を振って反応する、反応がなくなったら引き戻す、っで、いいんだよね?」

「まあ、いくら隠形使ってても縄の先見てれば見失うことはないと思うんだけど……」


そんなことより、コレ、素手で持たなきゃならないのかぁ……マジかぁ。え?ちょっと湿ってる!?

……早く終わらせよう。二の関に戻って風呂に入りたい。切実に。


段差を下り、薄らと魔輝岩の光に照らされたホールのような空間を息を殺して進む。

視界がひらけてくると、壁面に、このホールへ至るいくつもの開口部があるのがわかる。前回リルたちが流れ落ちてきたのも、このうちのどれかかもしれない。

いや、結構いるな。

俺のお粗末な気配察知でも、この空間に相当な数の金目鰐が潜んでいることがわかる。救いは気配が遠いことか。これなら乱戦は避けられるだろう。


あ、呪毒の有効範囲に入ったな。空気が変わった。

あとは……うん、腹の辺りに魔法陣の光が透けて見える。

そして痛みが……や、ちょっとコレ……ガッ、いでっ、待ってコレっ、いだっ、痛すぎっ……ひっ、ぐっ……

……

……

……


「ぶっはっ!!ぐっ!っくせえっ!!」


ヤバかった。少し死んでた。呪いヤバいわ、ってブフッ!縄がっ!縄が顔にっ!

ビチビチと頬を叩く縄を顔から遠ざけ振り返ると、ものっ凄い顰めっ面になってる中年男二人に残りはなんか号泣。シニスの顔が汚い。あの涙と鼻水での汚れっぷりを見ると、結構な間、死んでた?服をめくって腹を見てみると魔法陣は消えている。じゃあ、イケるな。


「「「「……!? ……!!!」」」」


囁いてんだか、叫んでんだか、あんまり騒ぐと鰐が起きちまうじゃん。

なんか面倒になったので両手に筒を構えてスタスタと鰐の面前に。うん、慣れたな、コイツの呪い。よし、大丈夫。


「おい」


うわはははっ!すげえ吃驚してやんの!


「せい」


驚愕で見開かれた金色の両眼に筒を打ち込む。押し込めたっ、収納っ!


「ギィ■ー■■ッ!」


はっ!?はや


「ぐっ、はっ!」


動きが速すぎるっ!マジかっ!

避ける間もなく突進を腹に受け体が宙に舞う。


ト、トッ


間髪を容れず鰐の腹に打ち込まれる2本の矢。連射でこの精度、いい腕だ。

続けて頭部にトドメの矢が突き立つ。

これで


「がはっ!?」


着地しかけた俺の体を真横から凄まじい衝撃が襲う。

はあっ!?

ナニ!?

黒光りする硬い皮に金瞳……さっきの奴よりふた回りはデカい大鰐。

ちょっと待てよ、なんだよこれ、こんなデカい気配見逃すはずが……


隠形!?


「ふっ、ぐっ……」


至近距離で俺を睨む金色の瞳。呪毒の強さのケタが違う。魔法陣も発動していないのに心臓が止まりかけるのがわかる。いや、発動する!?なん、でっ


「ざっ、けんなっ!」


眼窩に手刀を突っ込み眼球を引きちぎりながら亜空庫に収納っ!ざまあっ!これで呪いはっ


「■ギャ■ッ!」

「ぐはっ!!」


ちぎれる!ちぎれるからっ!喰いちぎりにきやがったっ!下半身がなくなってしまうっ!未使用なのにっ!!


ト、ト、トン

続けざまに大鰐の胴に矢が突き刺さる。

僅かに緩む顎。

毒ガスメロンを叩き込みたい、けど下手したらあいつら全滅しちゃうし……くそっ!

黒鋼の槍3rdを亜空庫から取り出し、空いた眼窩にねじり込む。力が入んねえっ!


バチッ


トーラさんの射程に入った!?って、俺も痺れてるけどっ?

緩んだ顎から地面に放り出される。

次々と突き立つリルの矢。

逃げ出そうとする大鰐だが連続して打ち込まれる矢と雷魔法に動きを阻害される。

持っている矢を射切ってんじゃねえの?ってくらいの攻撃を受け、ヤマアラシのようになった大鰐が黒鋼の槍3rdを突き立てたままゆっくりと地に伏し、残ったもう片方の眼から金色の光が消えていく。


……こいつは片付いた。だけど、これ不味いよね。

そりゃまあ、こんだけ大騒ぎしてるんだ、遠くにいた残りの鰐連中も集まってくるよな。

いくつもの金色の光が集まってくる。呪いの光だ。あいつらのところへ行かせるわけにはいかない。

動けるように身体を……早く治さないと、って、ちょっ、あだだだだだだ


「引っ……ごぼっ」


ああもう、肺がやられて声が出ねえ。

わかるけど!俺を引き戻そうとしてくれてるのはわかるけども!なんかもうシニスの顔ひどいし!だけどホラ引っ張るとっ!ちぎれるからっ!!

ええと、これ?これだっけ?これ引いて……おう、解けたぜ。

なんかクラムが大騒ぎしてるけど、ちゃんと縄は回収しろよ?王都に家が建つほどの超高級品だぜ?


さて。

あとは鰐どもが集まる前に俺の身体が治るかどうか、ってとこなんだけど。

うん、今まさに激痛とともに凄い勢いで治ろうと、っていうか繋がろうとしてるんだけどね、無理かなー。間に合いそうにないかなー。

隠形でやり過ごしたいところだけど、そこで転がってる大鰐といい大裂谷の火竜といい、上級上位から完全に隠れるのはどうやら厳しいみたいなんだよね。さっきの騒ぎで完全に俺のこと認識されちゃってるっぽいしなー。

しかも鰐どもの後ろからゲイルとかゲイロンとかも走ってきてるしなー。


……ナンデ?


壁面の開口部からも次々と魔物がなだれ込んでくる。

金目鰐の群れに突っ込んできたトカゲどもが呪いを受けたのかバタバタと倒れる。

叫び声に顔を向けるとスバンが周囲の魔物を炎で吹っ飛ばしているのが見えた。

あいつらも魔物に囲まれちまったか。まあ、でも、トカゲ程度なら問題ないな。

鰐どもはトカゲの死骸に進路を塞がれ停滞している。なんだか大渋滞だな。時間が稼げるぜ。

よし、間に合った。

治ったね。

『超順応』による超回復。

下半身が戻ってきたぜ。


「お前ら全滅なっ!!」


大鰐にぶっ刺さったままの黒鋼の槍3rdは諦める。抜いてる暇がない。残念だけど、本当に残念だけど諦めるっ!

取り出した黒鋼の長槍で、ゲイロンの太い胴体を乗り越えてきた先頭の鰐の下顎から脳へと突き通す。

死骸を蹴り飛ばしてそのまま踏み台に、周囲の鰐どもの頸部を斬り飛ばす。俺、強くなってる。長槍が全然重くない。よしっ!こいつらはここで片付ける。こいつらの呪いは面倒だ。俺以外には危険すぎる。

暴れた。暴れまくった。はっちゃけたと言っていいくらいのレベルで大暴れした。

周囲の金目鰐を全て始末、残るは後方の数匹の群れ。遠いな。なら。

毒ガスメロン遠投。

これだけ離れていれば影響はないだろう。着弾。うん、バタ狂ってんな。巻き込まれたトカゲどももバタ狂っとりますね。悪いけど、先には進ませないよ。

全部、死ね。



「悪い、待たせた」

「「「「リオ!?どこ!?」」」」

「グラザっ、俺、金目鰐の体液まみれなんだけど大丈夫?近づいて平気?」

「おぉリオ、よかった、ああ、それは大丈夫だ。眼球も含め体液に毒性はない」

「よかった」

「リオっ!」「「リオくんっ!」」


俺の人生でこんな風に女子?に囲まれ抱きつかれる日がくるとは。


「ちょっ!なんでアタシだけっ!防御されてんのぉ!?アッ、アタマ掴むなっ」

「シニスはまず鼻水を拭け」


なんか顔、ドロドロだし。


「で、グラザ。これって、やっぱり」

「ああ」


グラザの棍棒がゲイルの頭部を血煙に変える。


「迷宮氾濫、だ」




「中継地に戻る、はないよな。リル、二の関までの最短ルートはわかる?」

「ああ、それは大丈夫だ。ここからだと、そう遠くはない」

「じゃあ俺が先頭で道を拓く。隠形で消えてるけど魔物の死体で居場所はわかるだろ?方向はリルが後ろから指示してくれ」

「いやっ、ちょっと待て。リオは大怪我をしていた筈だ。せめてわたしが治療をしてから」

「大丈夫、治った」

「んんっ!?いや治ったって、そんな……治ってるな……ふっ、さすがはリオ、というところか。なんとも凄まじいな」


いや、荒縄の破壊力も凄まじかったぞ。臭いとか。


「ああ、それと申し訳ないのだが、巻く時間がないのでそこに纏めて置いているのだが……リオの亜空庫に入れておいてもらえるかな、わたしの縄」


……これ、「いやですぅ」とか言って泣いたら勘弁してもらえたりするかな。





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