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18 テスルダンジョン2


「みんな気をつけて帰ってね!油断しちゃぁダメだよぉ!」

「あらあら泣いちゃって……ホントに可愛い娘ね。シニスこそ無事に戻ってくるのよ?アンタはもうアタシたちの仲間、名誉白兎の称号を与えたのだから、魔物ごときに負けちゃダメよ?」

「もぉ……姉さんたちだって泣いてるじゃん!」


シニスと『白兎組』の姉さんたちがえらく仲良しになってるし。

なんだよ名誉白兎って。結局、白ケープ貰っちゃって。これ、「翠嵐」解散後は「白兎組」加入の流れ?え?クラムも白兎化しちゃうの?うん、いいかもね(適当)。




中層は予定通り3日で突破、トーラさんの電撃殺虫結界のおかげで戦闘らしい戦闘をしていないので、怪我はおろか疲労もあまりない、ようだ。

俺とスバンは疲れてるよ。作業だもの。飽きるし。

スバンは野営時のダメージのほうが大きいかもしれない。俺とトーラさんが繰り広げる『豪炎渦旋』ごっこにブチ切れてたから。

「ごーえんかせーん!」「ヒュー!」「ってめ!こ、このッ」「「真っ赤ー!」」って感じで。


スバンの言い訳によると、集団戦で大技を使うときは宣言しないと周りがわからないだろう、ってことなんだけど、いやそれ直前に告げても意味ないじゃん。回避できないじゃん。俺の尻尾、焦げてるじゃん。

ちなみにオッサンくらいまでの世代には技名シャウトな人たちが結構いるらしい。トーラさんは「恥ずくてー」と言っていたが、エイルリルさんは顔を背けていたので実はシャウトな人なのかもしれない。「翠嵐」と言うパーティ名すら恥ずかしがるエイルリルさんが思わず必殺技を叫んでしまい羞恥に悶えるゴチソウサマな姿とか、是非この目の前でお願いしたい所存であります。うわ、今の俺、かなり気持ち悪くなっているな。駄目だな、彼女が絡むとたまに正気を失うことがある。……たまに?


辿り着いた「二の関」は「一の関」とは規模も堅牢さも比較にならない、まさに砦だ。

そして、俺たち翠嵐イレブン11人程度の人数ではガランとしてるなと感じるくらいに余裕のある造りで部屋数も多い。迷宮氾濫の際には多くの兵士がここに詰めて戦うのだろう、そう考えればこの広さも理解はできるのだが、如何せん、利用者が極めて少ないために室内は埃濡れだ。

おかげで到着した日は終日掃除に費やすことになって、当然のように俺たちも埃濡れ。寝る前に風呂に入れて本当に助かった。

え?一人で入りましたよ?うん……鍵があってよかった。扉の外の気配が、というか息遣いが、本当に怖かった、です。




「本気でこの先も付いてくるつもりなのかよォ?」

「しつこい」

「だがトーラ……アトグリムのことも」

「しつこいって。エイリー、あたしはあなたのためにここにいるわけじゃない。あの子たちを無事に上まで連れて帰るためにいるんだ」

「そっ……それ、は……」

「グラザさんに全部ぶん投げるの?二人とも無責任だよ。ふざけないで」

「「……」」


シグルヴァード王国組がなにやらシリアスな空気を醸し出しているのだが……トーラさん、その厳しいセリフと表情がですね、その、コスチュームに甚だしくマッチしていないというか……もう、エロすぎて正視に耐えないレベルなのですが。いや、視るけどね!


ダンジョンでは階層が変わると気温すら変化することは珍しくない。このテスルダンジョンも中層から深層へ下りると、秋から夏に戻ったくらいの気温の上昇を感じる。

で、まあ……脱ぐわけですが。


お洒落ハーフコートを脱いだエイルリルさんはいつもの斥候装束なんですけどね。

トーラさん、竜革チューブトップですよ。しかも前が開きかけですよ。もう、飛び出る。絶対、飛び出る。いいから君ちょっとそこで跳ねてみなよ、っていう、ね。さすがにこれはおかしいだろう。うん、俺もおかしくなっている。

シニス大好きな微乳派クラムも、この全開暴れ北半球には動揺を隠せず視線を彷徨わせ……え?今「怖い」って呟いた?ふむ、クラムの人生になにがあって貧乳シニス礼賛に辿り着いたのか……いや、興味ないな。

荒縄グラザは……ロングコートは脱がない、と。

そして、コートの下の革パンは脱ぐのね。

コートの裾から覗く毛脛かぁ。……ザ・変質者って感じのコーデですね。

多分、本人も自らの姿の不穏さはわかっているとは思うんだけど、それでもコートを脱ぐよりはマシってことなんだろうなぁ。コートの下は公序良俗に反しまくってやがるんだろうなぁ。見たくないなぁ。見ないで済むといいなぁ。


「お三方とも」


シリアス三人組に激渋バリトンな声をかける変態ロングコート。絵面が凄い。グラザ&トーラが同じフレームに存在すると本当にカオスですね。


「ここで……んっ、深層で我らがやるべきことをはっきりさせよう。可愛らしいカップルはなにも言わずにトーレアノンに従うのだろうけれど、最大戦力であるリオに明確な目的を示さないまま先に進むのは得策ではないよ?わたしも確認しておきたいこともあるしね。それと、このパーティのリーダーは炎槍でもケルノン夫人でもなくトーレアノン、あなたで良いのだね?」

「……っ、あ、あぁ、お見苦しいところをお見せした。申し訳ない。三人にもここまで碌な話もせずに連れてきてしまったことを詫びる。……ふぅ」


グラザの言葉に虚を突かれたように動揺で瞳を揺らしたエイルリルさんだったが、瞼を閉じ、一つ息を吐いたあとに開いたその眼には強い意志の光が見てとれた。嘘。まだなんか躊躇ってんな。めんどくせえ。


「パーティのリーダーはわたし、エイルリル・トーレアノンだ。わたしが決断し、責任をとる……そう、だな。責任など、とりきれるものではないのかもしれないが、力を、貸して欲しい。よろしく頼む」

「こちらこそ、エイルリルさん」

「アタシたちがどれだけ役に立てるかわかんないけど、できるだけのことはやるつもりです」

「……まぁ、付き合うよ、リルリル」


めんどくせえけど、しょうがねえよなぁ。


「……リオはなんでそこまで面倒くさそうな顔をしているんだ?あぁ、あと『リルリル』はやめてくれと言った記憶があるのだが……それはもう固定なのか?」

「えー?じゃあ『リル』で」

「え?や、うん、そ、そうか……うん、じゃあ、それ、で」


赤面!?デレた!?くっ、こっちだったのか……最初からこう呼んでいれば今頃はもう……


「エロい妄想が顔に漏れ出ているエロ猫くんはあたしのことはなんて呼ぶのかなー?」

「……『痴女』で」

「なんだとー!」


「んフッ、話を進めてもらっても良いかな?」


んフッ、申し訳ない。


「先ずは……『金眼』の話になるのかな?」


キンメ?煮付け的な?




「そうだなァ……もう40年も前になンのか。あの『金眼』……金色の瞳を持つ呪竜のヤツが黒森から現れたのは。俺ァまだガキだったけどよォ、あン時の街の空気は、忘れられねェ」


オッサンどものする話というのは総じて無意味に長い。要するにシグルヴァード王国は40年前から度々現れる呪竜とかいう竜種に大きな被害を受けていると。呪竜というだけあって呪いをかけられると。呪いは毒や病気と違って薬や自然治癒で治ることはなく、定められた手順で解呪するしかないと。そして呪竜の呪いを解くにはその金色の眼球が必要。そのために、このテスルダンジョン深層に現れる


「金目鰐?竜じゃなくてワニ?」

「いやお前ェ、国を挙げて討伐しようとして敵わなかった相手をこの面子でどうにかできるかよォ」

「呪竜と同じ、黒い軀に金色の目を持つ上級魔物だ。やはり呪竜と同じく呪いをかけてくる。前回の探索で……ミルヴァが呪いを受けてしまった。斃せない相手とは言わないが、危険度は高い」


魔物に進化の系統樹なんてあるとも思えないけど、竜と鰐が同じような呪いの性質と姿を持つって、ねえ?とか思ってたら金目鳥とかまでいるらしい。同じく呪い付き。探すのが現実的ではないレベルでレアな上に、目玉も小さすぎるので解呪の素材としては考えられていないらしいけど。


しかし、呪い、ね。

毒ではない?魔法?わかんねえな。

問題は俺の「超順応」でどうにかできんの?ってとこだよな。

どうにかできないのがわかった時には……もう詰んでるよね?


「あれ?ということは鰐の居場所はわかってるってこと?僕らはそこに真っ直ぐ向かう?ってことですか?」

「あぁ、いや、大凡の深さはわかっているのだけれど、当時のわたしたちは敗走中にたまたま逃げ込んだ場所で金目鰐の群れに遭遇してしまって……なんとか生還できたもののマッピングなんてできる状況ではなかったのでね」

「ミルヴァが傷を受けて意識もはっきりしねェ有様だったからよォ、命からがら逃げ出した、ってハナシでなァ……あン時のことは今でも夢にみるぜ」

「ん?ちょっと待って?敗走?リルとオッサンとミルヴァで?」

「……ちいと厄介なカゲモノと当たっちまってなァ」

「はぁ?カゲモノに負けたの?」


カゲモノというのは洞窟型ダンジョン特有の魔物で……いや、あれを魔物と言っていいのかは微妙なんだけど、ダンジョンで命を失ったものの成れの果て、とでもいうのかな?冒険者や兵士がダンジョンで命を落とすと、その最期の姿と能力を持ったコピーのような魔物?としてそのダンジョンに、基本的には落命した場所と同じ階層に出現するようになるんだよね。疑問符の部分っていうのが、こいつら魔物っぽいけど魔石がないんだよ。一応、魔物の定義に魔石の存在があるから、まぁ、微妙っていう。

そしてカゲモノは一定の損傷を与えると崩壊してダンジョンに還る。一度斃せば、そのカゲモノは二度と現れない。


ちなみにカゲモノになるのは遺体を放置してダンジョンに吸われた場合でね、ダンジョンの外まで連れて帰れたならその人のカゲモノが現れることはない。だからこそ、皆、なんとかして亡骸を地上に運び出そうとするし、まぁ、万が一自分が斃れた時には遺骸だけでも連れて帰って欲しいと願うわけだ。

二度も殺されたくないからね。




俺がカゲモノのことをそれなりに詳しく知っているのは、その始まりから終わりまでを目の当たりにした経験があるからだ。


キーラス領フリス、小規模ダンジョンを抱える街。キリーアの東、セロン大河にもほど近いその街は、港があるわけでもなく大きな街道が走るわけでもなく、ただダンジョンがあるために仕方なく存在するような寂れた街だ。

実入りの悪いショボいダンジョンに、それに見合った低級のガラの悪い冒険者たち。10級のままキリーアを出ることになった俺にはお似合いの場所だろうと思ったんだけどね、まぁ、なんと言うか、最低だったな。


まだ両手で足りるくらいの回数しか潜ってなかったんだけどね、出会しちまったんだよ、女性冒険者が複数の男どもに、って場面に。

大声で叫んで、石を投げて、逃げ回って叫び続けて、ようやく聞きつけた他の冒険者パーティが現れて。

結果として連中はギルドを除名になって、ああ、他の領へ行けば再登録できちゃうくらいの緩い罰則だよ?だけどどうにも俺のことが許せなかったらしくて……逆恨みというやつだね。


ダンジョンの奥で、5人に襲われて、皆殺しにした。


10級の逃げ回ってるだけの「ねこまじり」なんて、どうとでもできると考えたんだろうな。自分たちも低レベルのくせに。暗いダンジョンでの対人戦、迷わず殺す腹が決まれば『盗賊』は弱くないんだよ。


ダンジョンの出口に連中の仲間らしき姿があったこともあって、しばらくはそのままダンジョンに潜伏することにしたんだけどね、2日くらいたった頃かな……出たんだよね。

塑像、っていうのかな、粘土の人形?光沢のない、黒に近い灰色で、ただ粘土みたいな重さは感じないというか存在感が希薄というか……そんな感じの、俺の槍に頚動脈を裂かれた男のカタチをしたモノが、生前とは違い、全裸で。

吐いた。

殺した時には平気だったのに。禍々し過ぎた。3人目あたりで慣れたけど。


そう、全裸なの。武器も持ってないの。

だから戦士系はホントに弱い。いろいろ壊れてるし。

魔術士系はちょっと厄介。思考力がないから、ひたすら魔法を暴発させる。ただダンジョンの魔力を使うから無尽蔵。でもまぁ、頭の悪い魔法使いとか、敵じゃない。


だからおかしい。

いくら高レベルの冒険者のカゲモノでも、その3人が敗走?考えられない。




「王弟殿下のカゲモノだったのだよ。殿下がその……あのようなお姿で、その、直視できないというか……」


やんごとなき丸出し、ですね。




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