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16 荒縄


もうね、一度思う存分に揉ませてみればいいんじゃないかとね、提案してみたんだよ。

ん?だからトーラさんの乳を俺に揉ませろと。揉み尽くさせろと。

そしたらホラ、慣れるじゃない?その異常な存在感とエロスを撒き散らす狂乳にも。結果トーラさんと対面しても落ち着いて目を見ながら話せるようにもなるんじゃないかと。

怒ったね、アトグリム。「揉んでも揉んでも揉み尽くすなんてことはないんだよっ!」って。怒るとこソコ?

まあ、その後も「こんな不埒な男と何日もっ!」とか騒いでいたけどね、ダンジョンを囲む壁の門を潜れるのは兵士と冒険者だけだから。置き去り。メソメソ泣いちゃって色男が台無しじゃないか。

トーラさんはエイルリルさんを説得するのに忙しかったみたいでアトグリムのことはほぼ放置。別れ際も「言ってくるー」と軽いノリで振り向きもせず。いいの?

そして俺たちはダンジョンの入り口を塞ぐように築かれた砦の前に集合したわけだが。



「フザけんなッ!連れてくわけねェだろッ!!」

「ギャー!汚いー!ツバ飛んだー!エイリー!このオッサン焦がしていいー?」


人間は焦がすもんじゃないだろ。たとえ汚いオッサンでも。

なんでもエイルリルさんの話では、炎槍スバンとトーラさんの早くに亡くなった両親は戦友とも親友ともいえる仲であったそうだ。そのせいか赤毛のオッサンはトーラさんに対してどうにも過保護気味で、それはもう、実の娘にたいしてよりも過剰であったそうで、彼女にとってはそれがもうウザくて仕方なかったそうだ。ウザいを通り越してキモいくらいに。

最悪だったのが国軍でスバンの部隊にトーラさんが配属されてしまったことで、というかスバンが手を回して自分の部隊に引っ張った、ってのが真相らしいんだけど、あからさまに自分を危険から遠ざけようとするオッサンの振る舞いにトーラさんが爆発、上官であるスバンを焼き殺しかけて結果彼女は除隊。え?それ除隊で済むの?

そしてここ、テスルダンジョンでもスバンは彼女の同行を拒否。結果は失敗。素材は手に入らず、スバンは自身の娘でありトーラさんの親友でもある『盗賊』ミルヴァ・ソールリークをパーティから失い、再度の挑戦すら叶わなくなる、と。


「いきなりダンジョンに潜るなんざァ、認めるわけねェだろッ!」

「てめーの許可なんざーいらねーですよーっだぁ!」


うん。なんかどうでもいいな、こいつら。

マジで俺一人でさっさと片付けてしまいたいくらいだ。


「リオくんおひさー」

「模擬戦ぶりぶりー!今日もいい毛並みしてるわねー。ナデナデしちゃおー」

「あれ?『白兎組』のお姉様方じゃん。今日はダンジョン?」

「えー?聞いてないの?アタシたちで『翠嵐』のポーターやるんだよ?」

「ポーター?」

「うん、『二の関』までね」


ダンジョンの話をしよう。

この世界には大きく分けて二種類のダンジョンが存在する。

遺跡型と洞窟型だ。

遺跡型は魔族の祖である魔神ギヴィエルナヒアによって世界各地に遺されたものだ。当然、旧い。その全てが人の歴史の始まりと遠くない時代に造られたらしい。石造りの回廊に鍵のかかった扉や宝箱、そして仕掛けられた数多の罠と階層ボスという、コマンドで戦闘できないのが不思議なくらいゲームっぽいダンジョンだ。ちなみにこのセロナルス王国には存在しない模様。残念。

片や洞窟型は自然発生するダンジョンだ。気がついたら其処らに出来てたりする。そんでほっとくと氾濫する。ウザい。

稀に同じような洞窟が延々と続くだけのものもあるが、ほとんどがこのテスルダンジョンのように蟻の巣状に広がっていて、いずれもその最奥にダンジョン核を持つ。そして、ダンジョンがある程度の規模に成長すると、新階層が発生する。

ちなみにこの新階層の発生前にダンジョン核を破壊すればそのダンジョンは消滅するが、新階層が出来てしまうと完全に消滅することがほぼなくなるらしい。潰しても潰してもすぐそばに再発生すると。そして死んだダンジョンの洞窟だけが増えていくと。

そういうわけで階層の出来たダンジョンの核の破壊は推奨されない、というかほぼ犯罪扱いになるそうだ。

潰せないならいずれ世界はダンジョンだらけになる?どうやらダンジョンにも寿命があるらしいんだよね。正直、まだよくわかってないらしいのだけれど。


で、「二の関」の話なんだけど。

蟻の巣状に広がるダンジョンでも、階層を繋ぐのは通常一箇所の通路だけで関所とか関とか呼ばれている。

魔物の分布はおろか気温すら変わる二つの階層の狭間は、なぜだか極めて魔力濃度が低くなるために魔物が発生しない。その性質を利用して、通路を塞ぐ砦を築き、魔物の氾濫に備える防衛施設と探索の安全地帯としての関所を設けているわけだ。

ここまでの俺たちの探索では、浅層は最短ルートで抜けるため、中層との関所である「一の関」に留まることはなかった。

だが今回は深層の奥への探索になる。中層と深層を繋ぐ「二の関」をベースキャンプとするために、相応の量の食料や消耗品を運び込まなければならない。

さすがにパーティ全体の分を俺の亜空庫で、というのは無理なので「白兎組」に依頼をして「二の関」まで運んでもらうと。


「ちょっと!いつまで撫でてんのよー!替わりなさいよー!」

「リオくんの毛並みの良さにはアタシたちの自慢のケープも敵わないわよね」

「頬ずりしちゃうー」

「あ!?ちょっと!やめなさいよー」


四人組の「白兎組」だが、彼女たちは兎の獣人というわけではない。兎獣人なんてものは存在してないし。

ユニフォームのようになっているお揃いの白いケープを羽織っていることからつけたパーティ名なのだそうだ。あれ?パーティ名に合わせてユニフォームにしたんだっけ?忘れた。

ちなみにケープに使用されている白い毛は、南の湖周辺を縄張りにするワギナギという魔物の鬣らしい。白背猿とも呼ばれるワギナギだが、猿というより動きの速いナマケモノという感じのキモい中級の魔物で、テスルの近場で現れる魔物のなかでは結構強い部類になる。見た目も動きもホント気持ち悪いんだけど、後頭部から背中にかけて生える白く長い毛は、艶のある美しい見た目に加えて、魔力を通すと汚れ難いという特色からファッション系の素材として重宝されている。

森の中で真っ白いケープとか目立ち過ぎるだろうと思うんだけど、彼女たち的には「可愛さ優先」なのだそうだ。


「そういえば『二の関』ってさー、お風呂あったよねー」

「えー、もしかしてリオくんと一緒に入れちゃうー?」

「「「きゃー!!」」」


え、マジ?

風呂があるとは聞いてたけど複数人で入れるレベル?

ヤバくない?


「もぉ!アンタたち!あんまりリオくんをからかわないのっ!あんな狭いトコ一緒に入れるわけないでしょ」

「えー、でもー、二人ならー」

「やだミリニったら本気度高過ぎじゃないー?」

「ナーナスだって目が血走っちゃってんだけどー?」


ちなみに彼女たちは……いや、俺、本人の性自認を尊重したいと思っているので彼女たち、って呼んでるけど、生物学的には同じサイドっていうか、その、俺と同じ突起がある方のチームのメンバーなわけで……その、目を血走らせるのはちょっと……勘弁していただきたいというか。

あ、そういうわけで、彼女たちのセリフの脳内音声再生時には1オクターブ下げを推奨いたしますです。はい。


「リオ!ちょっと来てくれないか。紹介したい人がいるんだ」


エイルリルさんの声に振り向くと、彼女に並んで立つのはロングコートのシブいオジサン。

年齢は三十代後半くらいかな?後ろに立っているクラムと同じくらいの長身だけど、ヒョロいクラムと違ってコートの上からもその体躯が鍛え込まれていることがわかる。もう立ち姿で背筋の強さがわかる感じ。

そしてイケメン。しかも俺の憧れのワイルド系ケツアゴ揉み上げダンディ!え?マジで憧れですけど?前世もどちらかというと中性的な見てくれだった俺だけど、理想は渋くて男臭いタイプだったんだよね……いや、成長すればその可能性は……ないな。両親ともに整った顔立ちはしていたけれど、線が細くて軽薄そうな印象でね、あとなんというか存在感がペラい人たちだった。その二人の息子だからねえ。まあ、俺もペラかったんだろうな。


「今回の探索の助っ人を頼んだグラザ氏だ。二つ名は『荒縄』、ランクは4級だ」

「よろしくな、少年。んフッ」


クッソ渋いバリトンだし。後ろで白兎どもがキャーキャーと黄色い声(1オクターブ下げ)を上げてうるさい。


「あー、『盗賊』のリオっす……よろしくです」

「フッ、臨時だが同じパーティメンバーなんだ、言葉遣いは気にしなくていい。わたしのことはグラザと呼び捨てにしてくれ。なんなら『荒縄』と呼んでくれても構わない」


濃い青の瞳に暗い紺色の癖毛、元は黒髪に水属性かな?そこそこ魔力量は多そうだけど、足元に置かれた大きめのザックから飛び出した武器のものらしき柄を見ると前衛っぽいな。まあ、この鍛え方で魔術師ダブルとかはないよね。というか『荒縄』ってなに?武器ですか?なんにせよ4級って……大物じゃん!


「……わかった。アンタがそういうなら気にせず話させてもらうよ、グラザ。さすがに年齢もランクも随分と上の先輩にタメ口は気がひけるけどね」

「いや!小僧ッ!俺には最初ッから思い切りタメ口だったよなァ!?」


スバンがうるさい。赤毛のオッサンはホラ、ダンディじゃないから。なんか汚いし。


「わたしもリオと呼ばせてもらうよ。わたしの真職は『回復士』と『戦士』だ。前衛も張れるが、今回期待されているのは回復役としてだろうね、フッ。あとはそうだな、んんっ、水属性持ちなので水筒役も任せてもらっていい」


おお、優秀。

水属性といえばクラムもそうなんだけど、ホントに水筒並みだもんなぁ。それも一人分。

グラザの魔力量なら飲み水の心配はいらないかもしれない。ダンジョンは水の補給が結構ネックになるんだよね。これは助かる。


「スバンもトーラも喧嘩はいい加減にしてグラザ氏に挨拶を」


まだ喧嘩してたの?って、トーラさんがマウントポジションからのパウンド!?しかもスバンが少し焦げてる?


「トーラでーす。このロートルに代わってメインの火力役を務めまーす」

「ザけんなこのッ!どきやがれッ!!」

「ギャー!!オッパイ触ったー!死ね変態ー!」


うん。どうでもいい……いや、あれは羨ましいな。替われよオッサン、俺もトーラさんにマウント取られたい。


「……なんというか、すまないな。クラムとシニスにはもう会っているから……」

「そうなのか?」

「アタシたちがグラザさんに連絡に行ったんだよぉ」

「ほら、リオが模擬戦の頃から僕たちしばらく街にいなかっただろ?あの時だよ」


朝食の時もそんなこと言ってたけど……モブいからな。いなかったと言うならいなかったんだろうな。いないことが気にならないモブさとは。


「あとは今回ポーターをお願いした『白兎組』の皆だな」

「「「「きゃー!」」」」

「んフッ、よろしく、お嬢様方」

「「「「ぎゃー!!」」」」

「濡れるー!」

「濡れたー!」

「「バシャ濡れー!!」」


なにがだよ!?いや、知りたくはないが。

いや、でも


「……『戦士』と『回復士』の組み合わせって珍しいよね?まぁ、そもそも『回復士』が希少なんだと思うけど」

「そうだな。グラザ氏は『回復士』の真職を得るために大変な苦行を積まれたそうだ」

「苦行……?」


思わずこぼれた俺の言葉に「フッ、大げさな」と柔らかい微笑を浮かべるグラザ。いちいちダンディが香るぜ。


「常に全身にきつく荒縄を巻きつけ、痛み傷つく皮膚を回復し続けるという苦行。そんな荒行を今も続けながら回復の術の研鑽を重ねているという。そこからついた二つ名が『荒縄』だそうだ。実に尊敬に値する御仁だ」


うん、変態。

誇らしげな笑顔のエイルリルさんと周りの連中の表情のなさの対比が痛い。


OK。構わないさ。4級だぜ?立派な戦力だ。しかも『回復士』なんてレア職だもんな。自己回復力がバグってしまった俺には全く必要なさそうだけど、皆のリスクが減るんだ、大歓迎だぜ。


しかしアレだな。

ザックを持ち上げようと前屈みになったときにコートの中が見えちゃったんだけど、こっちにもあるのな、亀甲縛り。




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