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13 テスルの休日2


「おら!無視してんじゃねえぞっ!」


振り返るとそこにはむさ苦しいオッサン三人組。依頼帰りで薄汚れているせいか、なんというか全体的に土臭くて茶色っぽい感じ。そういう種類の動物だと言われればそうなのかな?って思ってしまうくらいだったので


「ごめん、俺、この三匹の区別つかないかもしれない」

「なっ!?匹ってなんだ匹ってヨォ!」


随分と興奮しているようだ。噛まれないようにしないと。


「お前ら、落ち着け!餓鬼相手にみっともない」


そこにもう一人茶色っぽいのが加わった。ああ、駄目だ。加わった途端にどれだかわからなくなってしまった。


「……提案なんだが……色違いのネッカチーフとか巻いてみないか?」

「ハドリーさん、煽りすぎです」


煽ってないよ!?


「それに『黄金旅団』の皆さんもカウンター業務の妨害は罰則規定もあるのですから控えてください。ハドリーさんとお話しされたいのであれば酒場なりギルド外なりでお願いいたします」


すげえパーティ名だな。黄金というより黄土色なんだけどな。輝きが絶無。

エイルリルさん、『翠嵐』なんてカワイイもんですよ?

それとシールアさん


「そこは新人10級冒険者を守ってビシッと止めるべきでは?ギルド出たら襲われちゃうかもよ?」

「そんな卑劣な真似をするような方々ではありませんから。それにハドリーさんなら襲われても返り討ちにするだけでしょうに」


え?なんで煽ってんの?「ほう……返り討ちってか」ほら、凄い顔になってるし。繁殖期で気が立っているのかもしれない。落ち着かせないと。


「申し訳ない。俺はどうも他人の顔の区別がつきにくいようであなたたち四兄弟の」

「兄弟じゃねえよ!?」

「ああ、すまない、特に中年男性の判別が」

「まだ20代だが!?」

「なっ!?ええっ!?」

「いや驚きすぎだろっ!こいつ失礼すぎないかっ!?」


よく言われます。


しかし、どうだろう?全員が同じようなショボくれたモブ顔にむさい無精髭とボサボサ頭。俺じゃなくても個人の判別は難しいのではなかろうか。


「皆んな違う感じにハゲてたりしてたらわかりやすいのに」

「なあっ!?おまっ!」

「なんてことをっ!」

「ひでえー!」

「あ……よく見たらそろそろ危ない人が」

「やっ!やめっ!!」

「いやっ!お、俺じゃねえヨ!?」

「こっち見んなっ!お前だろっ!?」

「シ、シールアちゃん、俺は大丈夫だからねっ?」


「煩い」


「「「「申し訳ありませんっ!!」」」」




「模擬戦だってよっ!障壁持ち呼んでこいよっ!」

「ほら!あの子っ!リオくんだよっ!!」

「相手?ほら、あの、黄金だよ。光らない黄金」

「えー?旅しない旅団?あいつら一応6級だろ?10級と模擬戦?」


さして広くもないギルドの訓練場の一面が、見物の冒険者どもで埋まりつつある。暇なのか?

訓練場の壁面は対魔法も含めて城壁並みの強度があるらしいが、観覧席があるわけでもなし、見物人はその身を曝すことになる。

そこで盾持ちや障壁魔法持ちを並べて、その後ろに隠れながら見物するという。わちゃわちゃして楽しそうだな。


「いやだから模擬戦とか師匠に禁止されてんだよ、俺」

「さっきも聞いたがこっちから持ちかけた話だ、魔装も身体強化も好きに使えばいい。格下に手抜きされても困るんだよ」

「大体ヨォ、陰魔装使ったら勝負にならないって俺らのことナメ過ぎだろォ?」

「そこまで言うならちょっと使ってみなよ」

「そーそー、見せてみな?」


ウザい。心底ウザい。

ああ、そうか。隠形使ってそのまま帰っちまえばいいのか。

ほい、陰魔装オン、っと。


「「「えええええぇっ!!」」」


「消えた!?」「いや、あそこっ、影が」「マジ見失うんだけど!」「どこ行った?」「あっ!帰ろうとしてるっ?」

「「「はあああぁっ!?」」」「誰か止め」


「ハドリーさん」

「え?なんで?」


訓練場からの脱出を阻止したのはまさかのシールアさん。

マジで、ナンデ?


「先ほどの薬草の納品をもって9級に昇級となりましたので一旦タグをお預かりいたします」

「……俺程度の隠形じゃあ、シールアさんには通用しない、と」

「いえ、確りと見えているわけではありませんよ?そもそも出口はここだけですし」


いや、目が合っているのだけれど。

やむなく隠形を切ってタグを渡す。


「すぐにお持ちしますので」


帰るな、ってか?

なんだろうね?皆んな、何を期待しているのかな?

ボコればいいのか、ボコられればいいのか……そもそも『黄金旅団』の皆さんは、俺の隠形を見たうえでホントに戦うつもりなのかね?


「おおー!漲るぜー!」

「マジで消えてたな!」

「模擬戦でここまでテンション上がるのは久々だなっ!」

「ヤるヨ?ヤっちゃうヨ!?」


……旅団の皆さん、盛り上がってんな。


「改めて名乗らせてもらおう!『黄金旅団』リーダーのアラドだ!」

「セイルだ。よろしくな」

「カリオだ」

「ミロンニョシヌルハナソインチョスだヨ!」


えっ!?待って?外来種が混ざってる?ああ、もう、どれだかわからなくなってしまった。


「武器は模擬戦用の刃を潰したものでいいな?」

「ああ、それは構わないが……(区別はつかないが)誰とやればいいんだ?」

「全員だが?」

「え……と、順番に?」

「一度に、だが?」


「「「なんだとう!?」」」「4対1?」「恥ずかしくねえのか!?」


おおう……ギャラリー大炎上。

って言うか「格下に手抜きされても困る」とかってのはドコ行った?


「馬鹿野郎っ!!タイマンで勝てるわけねえだろうがっ!」


「「「……ええぇ」」」「そんな情けないセリフを大声で……」「恥ずかしくないのかよ」


「強え奴はランクなんか関係なく強えんだよおっ!!」


茶色い誰だかが俺を指差す。


「アイツは!リオの野郎は間違いなく強え!半年後、一年後には、もう手がつけられないくらいに強くなっているかもしれないっ!そしていつか、上級冒険者に届く男だっ!」


え?ちょっと照れるんだけど。なに?あの茶色い人たち、もしかして俺のこと好きなの?


「今ならまだ勝てるっ!今のうちに勝っておいてっ、将来アイツの名前が売れた時に『あー、上級のリオね、模擬戦で鼻っ柱を圧し折ってやったことがあるぜ』って言ってやるんだよおっ!!」


「「「セコいっ!!」」」「でも……アリだな」「俺たちも……」「ああ……旅団の後で……」


「それになっ……あのエイルリルちゃんのパーティメンバーにしてもらったばかりかシールアちゃんにもやたらと構われやがって……許していいのかよっ!」


「それは……「「許せねえな!」」」「俺、見たぜ!アイツ今日、トーラさんにブラッシングしてもらってたぜ!」「「「なにぃ!!」」」「ミルヴァちゃんのパジャマ姿も見たらしいぜ!」「な……嘘だろぉ!?」「酔っ払ったスバンさん情報だっ!間違いねえっ!ミルヴァちゃんの胸を舐め回すように見てたらしいぜっ!」「「「ぶっ殺!!」」」


師匠……とは呼びたくねえな。あの赤毛。何を触れ回ってんだか。


「わかるだろおっ!シメるなら今のうちなんだよおっ!!」

「「「おおおおぉっ!!!」」」


そうか。「今ならまだ勝てる」つもりなのか。

わかった。ボコればいいわけだ。

そして、ギャラリーが不穏。

とっとと茶色い害獣を駆除して訓練場から脱出だな。


「リオよぉ!槍はこれで構わないか?」

「ああ、いいぜ」


模擬戦用の槍を掲げて俺に声をかけた茶色の一人が、その槍を高く放り上げる。


「リオが槍を持ったら模擬戦開始なっ!!」

「「「おうっ!!!」」」


「はあっ!?」


セコい。セコいがそこは6級パーティ。即座に散開、位置どりに迷いがない。

槍を受け取らずに一旦流す選択肢もあったけど、せっかくなので乗ってやる。乗ったうえで、潰す。

俺は世間知らずだ。冒険者としても経験が浅い。足りないものだらけだ。自覚している。

だけど単純に戦闘力として評価をするならば、自己評価はそんなに低くないよ?

俺の戦闘力は、上級に届く。竜種をソロで倒すということは、そういうことだ。

え?あー、メロン?うん、ほら、アイテムの使用も実力のうちだし?ねぇ?

なんにせよ、いい歳して6級で燻ってるようなオッサンどもには負けてられない。


「20代だっつってんだろ!」


声に出てた!?どこから?


「20代でもオッサンだろ?」


槍を掴むと同時に陰魔装と身体強化をフル稼働、って「危ね!?」絶対この矢、槍の落下点狙ってフライングで射ってるよなぁ!?ギリで躱して距離を「ちいいぃっ!?」地面が柔らかい?土質の操作!?

一瞬、踏み切る足を滑らせたものの、身体を投げ出し回転しながら『黄金旅団』のフォーメーションを確認。

前衛は二人、あれは剣?と槍……じゃねえな?斧槍?ハルバード的な奴だ。ホントに模擬戦用か?

後衛は移動中の弓に……地面に手をつけている奴が土魔術士か。

全員あれだけ土っぽいんだ、そりゃ土魔術士の一人くらいいるよなぁ。って、いうか


「もしかして四人とも土魔法使えたりする?」

「んなわけねえだろっ!どんな上級パーティだよっ!」

「いや、全員属性色でそんなに土っぽいのかと」

「失礼過ぎだヨ!?」

「うおっ、とぉ」


これだけ地面を柔らかくされると、踏ん張りも利かないし足跡もごまかせない。

足跡から先読みして射られた矢の2連射を辛うじて躱したところにリーチを生かした斧槍の薙ぎ払い。キツい。

側転気味にギラつく斧の刃を避ける。いやマジでコレ模擬戦用?殺りにきてない?

避け切ったところに当然、まぁ、来るよね、残りの一人。剣持ちの前衛が脇構えに引いた剣を?


「ニャアァアッ!?」


剣じゃねえし!投網!?模擬戦で投網?だけどっ!!


「素人の投げた網なんざぁっ!」

「残念!玄人っ!!」


頭上で驚くほど大きく広がる投網。

ヤバい。負ける?土臭い害獣どもに?

ナメてた?いや、まだっ!!


「実家は南の湖の漁師だぜいっ!網闘士カリオとは俺のこ、とっとっとぉ……」

「少々狙いが遠過ぎたニャ」


マジ、ギリギリ。槍を亜空庫にしまってほぼ四つん這いで手綱側に全力ダッシュ。視線が俺を捉えてなかったからこそ抜け出せたけど、網を手元に引き戻されてたら終わってた。

素早く取り出した槍を網闘士とやらに突きつけるが、手綱を投げつけながらのバックステップで逃げられる。いや尻尾に網が引っ掛かってんじゃん!焦って思わず噛んじまったじゃん!


「おおおぉっ!!」


目の前の茶色が雄叫びをあげ、今度こそ剣を振りかぶる。左後方から斧槍の気配。同時に右後ろからの2連の矢が本命、と見せかけての真後ろ「バレてたっ!?」地面から突き出る土槍を躱して一息に土魔術士との距離を詰める。


「魔力探知かっ!?」

「タイミングを合わせたかったんだろうけど」


トン、と穂先で軽く胸を突く。


「魔力の溜めが長過ぎたね」

「えー?アレでかー?ちょっとだろー」


いやいや「ちょっと」は長いよ。「一瞬」で済ませないと。


「さてと」


動きの止まった残りの三人。奥の手はあるかな?


「グェ」

「がっ……」

「ひぐっ」


……なかったらしい。


「……どうなったんだ?」「旅団が倒れてるから……まあ、そういうことだろ」「いや最後わかんねえんだけど?」「最初からわからんかった」「それもどうよ?」


ギャラリーの皆さんにも楽しんでいただけたようで?


「お疲れ様でした」

「……シールアさん」


この人もなにがしたいんだか……


「こちら新しい9級のタグになります」

「あー……あざっす」

「それと」


まだなんかあんの?


「今回の6級パーティ『黄金旅団』との模擬戦の結果は、ギルドの認めた能力評価としてハドリーさんの記録に残ります。これにより8級昇格時の技術評価試験と7級昇格時の戦闘能力評価試験が免除となります。あとは貢献点を積み重ねていけば自動的に中級冒険者へ昇格となりますので今後ともギルドへのご協力、よろしくお願いいたします」

「……え?いつの間にそんな手続き……」

「おー、よかったじゃんよー」

「リオは友達少なそうだからなぁ、これでソロになっても安心だな」

「え?どういう……」

「7級試験はソロだとキツい時があんだヨ。まあ、運だけどナ」

「やっぱりシールアちゃん、コイツのこと甘やかし過ぎだよな。許せん」


なんだろう?なんだか……


「とは言え無理は禁物ですよ?どうぞご安全に活動なさってくださいね、リオ・ハドリーさん」


……だからその笑顔は反則だって。


「ということで」


あれ?なぜ両肩をガッシリ掴まれているのだろう。


「6級パーティ『ギニースの剣』だ。手合わせ願おうか」

「7級パーティ『白兎組』だよ。その次、よろしくね?」

「7級パーティ……」「……」「……」


ご安全に活動できそうにないのですが。


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