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12 テスルの休日1


「はいよ!もりもり食べなよ!」


種蒔き亭の女将マーナさんが、運んで来たデカい皿を俺と地味顔カップルの前にドスドスと重そうな音を立てて置いていく。

香辛料の香りが強い、ハンバーグというか肉団子というか、トルコ料理のアレだな。あんな感じ。端の方に申し訳程度に何かの葉っぱが乗せられている。


「これ、朝飯なんだよねえ?」

「なに言ってんだい?朝なんだから朝飯に決まっているじゃないか。寝ボケてんのかい?」


そう言ってドスドスと重そうな音を立てて去っていくマーナさんのデカい尻を見送る。

いや、朝だよ?起き抜けだよ?脂っぽい肉団子の山盛りって?

マジかよと思いながら正面を向くと、モブい二人が当たり前のようにもりもり肉団子を食っていた。

アレだな。シニスはお泊まりだったからな。カロリー消費が激しかったということか。


「リオくん、なんか目がヤラシイんだけどぉ」

「安心しろ。シニス相手にそんな素敵な気分になることはない」

「失礼しちゃうなぁ。女の子の扱いがなってないよね。そんなんじゃ、彼女なんてできないよぉ?」

「俺に彼女なんてできるわけねえだろ」

「……そんな風に思ってんの?」


そりゃそうだろ。なんたって「ねこまじり」だぜ?

心の中で「俺の嫁」と呼ぶくらいが関の山だ。

いいの。上級冒険者になって金で嫁を買うから。


「結構訊かれるよ?リオくんのコト。ほら、黙ってれば結構カワイイ系のイケメンに見えるみたいだし、腕も良さそうだって、なんだか話題の人になりつつあるよ?」

「誰が話題にしてんだよ」

「ギルドで顔合わせる女性冒険者とか……一部、男性冒険者も」


ええ?その「一部」ってのは身の安全のためにも知っておいたほうが……いや、知りたくないな。


「エイルリルさんとかトーラさんとかも可愛いって」

「いやそれペット枠だろうよ」


シグルヴァード王国人の感性はナニかおかしい。いや、正しいのか?猫耳は正義のハズだしな。


「じゃあナニ?シニスは俺に彼女ができると思うの?」

「口が悪すぎるから無理じゃない?顔はアタシは好みじゃないからわかんないけどぉ」


……この女。


「まぁ、俺の話はいいんだよ。そんなことより仕事の話だ。森での狩りはいいんだけどさ、あの鬱陶しいダンジョンはどうなの?そろそろ深層行けるのか?」

「うーん、どうだろぉ?リオくん、森だと上級冒険者ばりの活躍だけどさぁ、中層だとホラ、なんかパッとしないじゃない?」

「ぐっ……って、いや、お前の彼氏もだろうよ」

「あはは、面目ないなあ」


笑いゴトじゃねえよ。

あれから数回ダンジョン中層に潜った。一度は泊まりで。

初回の反省を踏まえて、2回目からは常時隠形状態で臨んだものの、その成果は微妙だ。

確かに被弾は減るものの、飛んでる虫を槍で突くというのは、こちらの姿が見える見えないに関わらず難易度が高い。

あいつら避けようとして避けてるわけでもなさそうだし。

なんならこっち目がけて突っ込んで来てくれたほうが当てやすいくらいで。

結局シニスの重力魔法で動きが鈍ったところを倒していくという。そしてシニスにドヤ顔をされるという。


「うん、わかってるんだけどね、リオくん一人なら多分無傷で中層を突破できるって。でも、それじゃあダメなわけじゃない?」


確かに今の俺なら隠形状態で深層までいける。睡眠中も『陰魔装』を継続できることはダンジョン泊中にクラムに確認してもらった。見張りの交代まで爆睡していたようなんだけど、どうやら俺の居場所がよくわからなくて危うく踏んづけるところだったらしい。ただ、絶対に大丈夫かと言われると、そこまで自分の能力に信を置いてないので、さすがにソロで安眠はできない。いや、ダンジョンは安眠するところじゃなかった。


「まぁ、俺としては思ってたより魔石で稼げてるからいいっちゃあいいんだけどさ」

「確かに稼げてはいるんだけど、毒消しのポーション代が結構痛いんだよね」

「あれ以上進むとアタシの魔力ももたないから回復ポーションもいるよねぇ。うーん、節約するっていってもさすがにあの痒さは我慢できないしなぁ」


あのデカい蝿の鬱陶しいところに、刺されたり噛まれたりしなくても近寄るだけで痒くなるというのがある。

なんか撒いてる。毒系の魔物には良くあるらしい。大裂谷の蜘蛛もそうだった。


「リオはあまり痒がってないよね?というか毒消し使ってないよね?」

「慣れた」

「へ?」

「もう慣れた。あの毒はもう効かない」

「「えーっ!?そんなこと、ある!?」」


仲良いな。



「ああ、そうだ、シニスの地魔法って、他になにができんの?」

「ん?そうねぇ、地形把握とかもできるよ?」


な……コイツ、意外と使える……だと?


「エイルリルさんみたいに索敵ができるわけじゃないから自分でも微妙かな?って思ってるけど」

「いやそれ落とし穴とかもわかったりするんじゃないの?」

「わかるわかる。ここのダンジョン、そういうのないから関係ないけど。それにさぁ、重くするやつもずっと使ってると魔力量的に厳しくなっちゃうからさぁ、地形把握とか使ってる余裕ないんだよね」


なんか厭だな、有能なシニスとか。

確かに結構な回数使ってんだよなあ、あの重力魔法……ほぼ使いっぱなしだもんな。


「もしかしてシニスって魔力量多い方?」

「今更なに言ってんのぉ?伊達に『魔術士』ダブルで持ってないよ?そもそも髪も瞳も地属性の色だよ?」

「え?それ遺伝じゃねえの?普通に一番多い色味じゃん」

「うちの家系は金髪碧眼だよっ!」

「げえっ!?似合わねえ!」

「だから失礼だってのっ!」


この世界、髪色の比率は前世の地球と似たようなものだと思う。多分。そんなに世間を知っているわけではないので断言はできないのだけれども。

ただ、天然物の金髪は前世に比べると遥かに多い。1割近くいるかも。あと銀髪とか白髪とかも結構いる。エイルリルさんも地は銀髪だし。見たことないけど紫髪の血統とかもいるらしい。一族総おばあちゃんヘア?

そんな遺伝による地の色に加えて、魔力量が多いと属性色というのが瞳と髪に出る。瞳の方が出やすくて、髪にまで出るのはそれなりに魔術が使えるレベルの魔力量の持ち主だということになる。真職で『魔術士』取れるくらいなら大体が属性色がかった髪色になるんだけれど、地の色がわからないレベルというのはそうはいない。赤毛のおっさんとか……シニスも、ってことになっちゃうのか。

あれだな……普通は属性色出ると派手になるんだけどな。地味になるとかある?……あるんだなぁ。


「……なにジロジロ見てんのよぉ」

「いや……すごいな、シニスの地味力」

「「地味力ってナニ!?」」


ほんと、仲良いな。




「いつもすまないねえ」


どこのお爺ちゃんだよ、っていうセリフを呟きながらダンジョン産の小さな魔石を数えるアトグリム。

俺は魔石に関してはエイルリルさんに倣ってケルノン商会に売ることにしている。

当然ギルドに納めた方が昇級の面では有利なんだけれど、とりあえずエイルリルさんと一緒にいる間は彼女に合わせようと思ったからだ。そう長い期間の話でもなさそうだし。


「小さくて申し訳ないんニャけニョフゥ」

「いやいや、この大きさでもゴブリンよりもずっと上位だからね。中級には届かないけど、これだけの量を持って来てもらえるとこちらとしても大助かりさ。中層は慣れた?」

「ニャれるというか、ウッ、鬱陶しさは変わらニャアァフッ」

「トーラ、商談中のお客様にセクハラはやめてもらいたいのだが」

「えー?ブラッシングしてるだけだよー?」


そう、俺の背後では爆乳ストロベリーブロンドが俺の美麗なる尻尾のブラッシングに勤しんでいた。それはもう好き放題に。俺、お客さんだよ?


「接待なのだー」


なるほど。ならば仕方あるまい。

それにだ。そちらは思うがままに俺の尻尾をモフり倒しているつもりだろうが、獣人由来の尻尾というのは手指に匹敵する感覚器官なのだ。うねる尻尾の先が貴様のたわわの先っちょを摩り「んふ」などと声をあげさせているのは決して偶然などではないのだよ。


「ああ、そういえば、使用期限の迫った毒消しポーションが結構あってね、君の亜空庫なら劣化させずに保管できるだろう?中層だと必須のものだし、どうだい?うん、持ってくるからちょっと待ってて」


そう言って店の奥へと向かうアトグリムの背中を見送っていると、耳元でいつもの能天気さの消えたトーラさんの声がした。


「リオくんって『盗賊』持ちなんだね……」

「ん?……そうだけど、気になる?商品ちょろまかしたりは、しないよ?」


販売業に嫌われる真職No. 1だからね。もしかして背後に張り付いているのは監視かな?


「ううん……そゆことじゃなくて……ミルの代わりができちゃうんだなーって、ね」

「それは良いことじゃないの?代わりができちゃマズいのかな?」


ミルヴァといいトーラといい、奥歯に物が挟まったような言い方しやがって。

気に入らねえな。

憂さ晴らしにその揺れるたわわを尻尾の先で持ち上げてやろ……重いな……尻尾が埋まっていくぜ。


「や、それは、うん、ありがたいと思う……思わなきゃいけない。欲しいものが全部手に入るわけじゃないことくらい、わかってるつもりなんだけどね……ごめんね、変な言い方しちゃって……」

「いいけど……」


いいけど。それはいいんだけど。なぜ両手で俺の尻尾を握りしめているのか。結構クるんです、ソレ。微妙にその、ニギニギしてるのがヤバいんですけど。


「それはそうとリオくん」

「……はい」

「あたしは知っているですよ?この尻尾の先の触覚がそのギュッと握ったお手手並みだとゆーことを」


ひいっ


「おいたをしすぎましたね」

「あっ!?ちょっ!こすっ、こすらなフミィイィッ!」




「少しはこちらにも魔石を納めていただけると昇級も早くなるのですけれど、ね」

「あー、えー、スミマセン」


午前のうちにケルノン商会を出た俺は、トーラさんに弄ばれたダメージによる脚の震えをこらえながら、近場の森で10級らしく薬草摘みの依頼をこなした。

パーティで稼いだ貢献点はメンバーのランクによって振り分けられる。『翠嵐』の場合は、エイルリルさんが6級、クラムとシニスが7級なので、10級の俺に与えられる貢献点は僅かなものである。これは寄生によるパワレベ的昇級を防ぐための措置なので仕方がない。

なのでパーティの休日にはソロで低ランク向けの依頼をこなして貢献点を稼いでいるわけだ。

ほら、俺の場合、『超順応』のおかげで回復力が爆上がりしてるから。休みとかいらないの。いや違う、これが俺の休日の過ごし方なの。

決して休みなのに一緒に過ごす相手がいないとか、なにをして時間を潰せばいいかわからないとか、そういうことではないので。ほんとに。


そんなわけで薬草の納品に来た俺の前にはギルド職員のシールアさんがいるわけで。


「登録時に説明申し上げた通り、魔石の納入による貢献点は別計算になりますので、低級であることのデメリットは少ないのですよ?」

「あー、んー、まぁ、そっすね」

「ケルノン商会ですね?」

「やっ、まぁ、それはー、そうなんすけど、ね」

「トーラさん、ですか」

「やっ、ん、んん?」

「大きいですものね、彼女」

「えっ?なっ?」

「無駄に」


ひい


「……ハドリーさん、『翠嵐』は確かに元から優秀なパーティです。ですがあなたが加入して明らかに……一人加入しただけとは思えないくらいに成果が上がっています。中級上位、もしくは上級の冒険者が加入したかのような成長振りです。トーレアノンさんはご自身の階級を上げることに消極的ですが、ハドリーさんは違いますよね?そして我々ギルドの立場としても優秀な冒険者の方には、実力に見合った階級に上がっていただきたいと考えています。そのためには、わたし個人としても立場が許す限りの」


「おい小僧っ!いつまでシールアちゃんの手を煩わせていやがる!」


え?ここにきてのテンプレ的ギルド内絡まれ展開?忌避されすぎて絡まれることすらなかった俺には新鮮ですらあるな。

そして


「『ちゃん』付けなんですね……」

「……なにかおかしなことでもありますか?」


ないです。

『シールアちゃん』です。


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