代償
しまった、やり過ぎたか!
私は熱さが収まると湯呑み茶碗の安否を確認する。
置いていた台は跡形も無くなっていたが
地面には湯呑み茶碗が転がっていた。
「おおおおおー!私の可愛い子!」
我が子を頬擦りしているとソリの下に隠れていた商業組合長が話掛けてきた。
「お姉様、訓練場が溶けちゃったよ?」
訓練場の屋根は溶けて無くなってしまっていた。
ひゅー。
寒空の下、風が訓練場に舞い込むたび やるねと言わんばかりに音を鳴らしていた。
ひゅーひゅー。
逃げ遅れた冒険者が冒険者組合に戻ると訓練場から逃げ出した人でごった返していた。
隣では天井が無くなって大惨事になっているのに、既に酒を煽っている奴もいた。
死にかけたせいか飲まずにいられねぇ。
だん!
「うめぇ」
瞳には涙が溜まっていた。
しみじみしながら飲んでいると同じ机に他の冒険者達が座った。
「許せねぇ、後少し遅かったら丸焦げどころか塵になってたぜ」
「一番先に逃げといて何言ってやがる。大体、組合長がそんな事する理由が無いだろ」
「だけどよぉ、一言合っても良いじゃねぇか」
「お前なぁ、組合長は魔法を放つ前にサーチで訓練場に逃げ遅れた奴が居ないか確認してたんだぞ」
「探索魔法のサーチか?」
「あぁ、一人逃げ遅れた奴がいたから そのまま魔法を放ってたら塵すら残らなかっただろうな」
そうだったのか、組合長!俺の為に。
瞳に溜めた涙が溢れて止まらない。
「でもなぁ、やり過ぎだよな」
「あぁ、やり過ぎだよ」
やっぱり組合長ー!
「やり過ぎだー」
ぱりっ、ずずずずず。
仕事の後のお茶は最高だ。
何事も無かった様にポテトチップスを食べながらお茶をすする。
「訓練場の件だが」
ぱりっ「うん、お父に聞いてみる」
私は一息着くと改めて湯呑み茶碗の性能に驚かされ、威力を抑えたとはいえ魔法が効かないとはな。
上級者用のスノーボードとソリはオリハルコンが使われていないが、魔法耐性については然程変わらないそうだ。
トレントの枝で訓練場を立て直せば私も全力を出す事が出来るかもしれないな。
とは言え大量のトレントの枝が必要になる。
どうせなら冒険者組合も取り壊して新しく建て直そうか、幸い冒険者も少ないしな。
教会の治療の先生は腕が良い。
数日で折れた腕や足が治ってしまったぜ。
「お前も治ったのか」
「お前もか」
半分になったソリを引いて道半ば倒れた急患、第一号二号として運ばれた者達は仕事を求め冒険者組合に向かう。
冒険者組合があった場所には看板が立てられていて移転しましたと書かれていた。
一号二号は無言のまま移転先に向けて歩き出すのだった。




