お菓子
切り替えて行こう!
昨日は大変な一日だったが、心配なのは売り物にならなくなった片栗粉の弁償で、買い取る事になった片栗粉の使い道が分からない。
取り敢えず腐る物でもないのでラングドシャを作る事になった。
と、その前に昨日、店で僕とぶつかったという女の子が僕が孤児院の人だと知り謝りたいと連絡がきた。
僕はジャンとランと一緒に女の子が来るのを待っていた。
院長先生とその女の子が入って来て、女の子は僕を見つけると「ごめんなさい」と謝ってくれたので僕にも悪いところがあったと思い「ごめんなさい」と謝った。
「僕達はこれからお菓子を作るんだけど一緒に作らない?」と女の子に声を掛けてみると女の子は戸惑っていたけどジャンとランも「一緒に作ろう」と言うと女の子も「はい」と頷いた。
「まずは自己紹介からね。僕はデコ」
「俺はジャン」
「私はラン」
「私は…ドーナ…ドナ!」
「ドナだね!なんだかドーナツが好きだからドナって名前みたいだ」
「デコと一緒にするな!」
「デコと一緒にしないで!」
二人から一斉に言われたがドナの顔が真っ赤になっているのを見て僕は「当たりか」と呟いた。
ランが先頭に立ってお菓子作りをするが、初めて作るお菓子でも加護の恩恵で材料や作り方が分かる。
僕には分からないのでランの言う通りにすると、あっという間にお菓子の生地が出来た。
ドナを見ると泣き腫らした目元と比べて楽しそうな笑顔があった。
生地を焼くと家が美味しそうな匂いに包まれ「いい匂い早く食べたい」等の声が聞こえてきた。
僕は目を瞑ると、これはいつもの堅いお菓子では無い、感じるんだ僕を優しく包み込むような匂が…
堅さなど無い、さくさくでほろほろ口の中で溶けて無くなり僕は目を開ける。
「うまい!」
「まだ食べてないのに何言ってるんだ?」
「熱でもあるの?大丈夫?」
「デコっておかしいね」
しまった!目を瞑って考えていたら食べた気になっていた。
僕は冷静に「食べなくても分かるよ。絶対美味しいから!」と言い訳してジャンとランには冷たい目をされたがドナは笑顔で「そうだね」と言ってくれた。
お菓子が焼き上がりランも声を上げた。
「これがラングドシャよ!」
これがランの加護で作ったお菓子で、僕は急いで院長先生を呼びに行く。
出来立て、熱々が食べたいという思いが皆を席に集め号令を掛ける。
「頂きます!」
皆が手を伸ばし皆が口に入れる。
僕は泣いているのか?涙が流れていた。
生まれて初めて食べる本当のお菓子で、もっと食べたいと思って涙を拭い手を伸ばすが皿の上には何も無い。
消えてしまった!山のようにあったラングドシャが一瞬で!
そんな事があるのか!涙を拭いただけなのに!
僕はふと皆の顔を見て美味しそうに食べている。
僕はふと皆の手を見てラングドシャが沢山握られている。
「やられた!」
僕は常識に囚われてしまった。
一枚一枚、手に取って食べるのが常識だと。
ラングドシャに常識は通用しない。
僕は泣いているのか?涙が流れていた。