誕生日
「デコ!ジャン!遊んでないで薪割りしてよ!」
女の子が凄い剣幕で睨み付ける。
孤児院では子供だからと言っても遊んでなんていられないし、働かないと生きて行けないから冬が来る前に大量の薪を割る。
危険な仕事だからデコにはまだ早いと言われて、大人達が薪を割ってる姿を眺めていたのだけど。
最近、寄付された物の中に薪割り機なる物があった。
薪を薪割り機に入れ道具に付いている板を足で踏み込むだけで綺麗に割れる。
この薪割り機は加護の恩恵で作る事が出来たらしい。
「はぁ僕にも加護があればなぁ」
「なぁ!皆で薪割りやらない?」
「嫌よ!足が太くなったらお嫁に行けなくなるわ」
「…僕は気にしないよ」
「…俺も気にしないな」
もう一度女の子は僕達を睨み「今日は誕生日だからお菓子を作りたいの」と言って家に入って行った。
僕達と同じ孤児院に暮らしているお菓子の加護を持つ女の子で、加護解放の条件は白い粉だと言っていた。
白い粉とは何なのか分かる筈もなく、いつものように厨房で堅いお菓子を焼いているのだろうか?
今日が誕生日だと言っていた女の子に何か贈り物をしたくて、薪割りを終えると秋穫祭の露店を見て回った。
街では秋穫祭が行われ秋の実りを持ち寄り食べ物の露店が沢山並んでいて、僕はある露店で足を止めるとパンに白い粉が掛かった食べ物を見詰める。
「すみません。これ、どんな味がするんですか?」
「あぁ?そうだな、これはな幸せになる味がするんだ。とっても甘い幸せな味だ」
「幸せな味って?」
いまいち分からない。
「あぁ幸せな味だ食えば分かる心配するな。これは俺の加護の恩恵で作った物だ」
「え?何の加護なんですか?」
「そいつは秘密だ。加護は気軽に言うものじゃねぇ」
「…すみません」
「なぁに分かればいい。加護は教えてやれねぇが、こいつの名前は教えてやるさ。こいつの名前はドーナツだ!」
「ドーナツ!一つ下さい!」
僕はその名前に痺れた。
「毎度ぉ!」
急いで家に帰るとお誕生日会は始まっていた。
「デコ!何処行ってたんですか。皆、心配してますよ早くおいで」
僕にとってお母さんのような院長先生に怒られてしまったが、誰もご馳走を食べずに待っていてくれたみたいだ。
「院長先生、みんな、ごめんなさい」
そして僕とジャンと院長先生は女の子の方に顔を向けて「お誕生日おめでとう!」と言うと女の子から嬉しそうに「ありがとう!」と言う言葉が返ってきた。
「頂きます!」と言う言葉でお誕生日会が始まった。
孤児院の運営は寄付金で賄われている為、日頃は質素な生活をしているけど誕生日だけはご馳走を食べると決まっている。
女の子は「美味しかった。お腹いっぱい、もう食べられない」ご馳走を沢山食べて笑顔だった。