本物
チョコレートって?あれじゃねぇか!俺の家族にあれを作らせるつもりか!許せねぇ。
「ちび、てめぇは何でも作れるんだろうな」
「はい、私デコは献立表に書いてあるのは作れます」
「じゃあちび、チョコレートを作って貰おうじゃねぇか!」
「分かりました。私デコがチョコレートを作らせて頂きます」
俺はちびが作るのを見てたが達人の手つきで、俺が物を造るのと同じ職人の魂が込められていて、あれにも魂が込められた。
「出来ました」
「…」
ちびに作れと言ったからには食べないと示しがつかねぇが、しかしこれは…あれが渦を巻いている。
一番作っちゃいけねぇ形で、より本物のように見える…否、本物だ。
「家族の方にはこちらをどうぞ」
糸を何本も重ねたようにあれが重なっていて、まるで芸術品のようだ。
「ちび!家族のと違うぞ!なんで俺のだけ本物なんだ!」
「家族のはここで作ろうと思っているチョコレートです」
「なら俺のは?」
「遊びで作ってみました」
ちびー!遊びであれを作るんじゃねぇー。
でもきっと大丈夫だ、形は違えど一度あれを口にしているんだ…大丈夫だ、きっと美味しい筈だ。
俺は木こりの管理人が言った言葉を思い出した。
「お前はもしかしてラン先生か!」
「ラン、先生?」
何だ?急にちびの雰囲気が変わりやがった。
そしてちびは本物のあれに串を刺すと俺の口に入れようと動き出す。
目の前でよく見ると前に食べたあれよりどす黒い、肉ばっかり食べた日の奴だ!
無理だ、逃げるしかねぇが体が動かねぇし話す事も出来ねぇ。
何故だ!俺は魂の中で叫ぶ。
動け動け動け、動けーーーーぱくっ!
動くと同時に俺は本物のあれを食べていた。
舐めて良し噛んで良しで苦みが強く、甘さ控えめで堅めの口当たり、それでいて幸せを感じさせる大人の味だ。
そう、俺は本物を食べて本物の大人になったのだ。
俺はもう何を出されても動じる事なく、本物のあれを食べた強者として語り継がれるであろう。
ぱりっ!ぱりっ!
家族の方を見るとあれの芸術品を食べていて、ぱりっ!ぱりっ!ぱりっ!と美味そうな音を立てて笑顔になっている。
俺も一つ食べてみると、ぱりっ!ぱりっ!ぱりっ!とあれの音が気持ち良い。
芸術品のあれは舐めるのでは無く噛んで食感を楽しむ奴で、後からほろ苦さと甘さが押し寄せる。
最高だ!あれの味を噛み締めていた。
ぱちぱちぱち!
俺はちびの職人魂に惜しみない拍手と称賛の言葉を贈った。
「ありがとう」
こうして食堂での調理は終わり宿泊施設の仕事の内容も教えられ、複合施設の開店まで俺の家族は生きる為に必死に覚えたのだった。




