不幸
「食べてみて」
私は自然と塩バタークッキーを手に取る。
ざくっ「うまい!」
これは想像以上に美味しい。
私が作った焼き菓子と昔食べた堅い焼き菓子の中間ぐらいの堅さでざくざくして食感が良い。
粉にしたと思っていたが粗さが残っていて塩を感じる事が出来るうえに塩気のせいでバターと砂糖がより引き立っている。
ぱりっ
間違えなくS級だ。
ぱりっ
小さな子供はぱりぱりとチョコレート芋を食べている。
ぱりっ「食べないのですか?」
「いえ、頂きます」
手が震えるが恐怖に打ち勝とうとする時と同じで、不味いと分かっている物を食べるのは恐怖しかない。
騎士団でも様々な恐怖に打ち勝ってきたがこれは一番の恐怖だ。
ショコラポテトチップスを手に取り口に入れるだけだ。
「食べないと手が汚れますよ」
「自分の間合いで行かせてくれ」
ぱりっ
時が経ち過ぎて手がべとべとになっていたのだった。
「新入りにお菓子を食わせたのか?」
「仕方が無かったんだ」
「確かにあれは食い物じゃねぇ」
「毎日作ってんのに上達しねぇな」
「新入りのお菓子は美味しかったな」
「お菓子作りの感覚がいんだろうな」
皆で作ったお菓子は皆で食べる。
掟を破り皆で逃げて新入りにお菓子を押し付けた。
そのお蔭で新入りがS級のお菓子と小さな子供に出逢う事が出来たなど知る由もない。
そして彼等には必ず訪れるという不幸が待ち受けていた。
「おい!聞いたか」
「そんなに慌ててどうした?」
「ラン先生の新作お菓子が出来たんだってよ」
「それは一大事だな」
生徒達は急いで料理教室に向かい、其処には新作と思われるお菓子があった。
「黒光りしてるな」
「俺が最初に作ったお菓子みたいだ」
「あれはひどかったがこれはチョコレートで黒光りしてるんだ」
生徒達全員に一つずつ行き渡り、まるで計算されたかのように。
「よーし!皆で一斉に食べるぞ」
お菓子を手に持ち掲げる。
「頂きます!」
ラン先生の新作を狙っているのは生徒達ばかりでは無い。
まるで獣のように聴覚、嗅覚、視覚を研ぎ澄ませ一番に新作お菓子の元に辿り着く。
皿には山盛りの新作お菓子があったが、怪しまれないように二個だけ持って其の場から姿を消した。
「お姉様、新作のお菓子を持って来ました」
「そうか」
私はお菓子を美味しく頂く為にお茶の準備をする。
「今日はお菓子を調べないのか」
「うん、もうあんな事件は起こらないからね」
少し前迄は私が言っても調べる事を辞めなかったのだがな。
「それではお茶も淹れた事だし新作のお菓子を頂くとしよう」
食べようとすると異変に気付き、このお菓子はラングドシャに溶かしたチョコレートを掛けたようだ。
何故そんな事する?チョコレートは挟むだけでいい筈で、それにこれが新作とは思えない。
ばたん!
考えを巡らせていると人が倒れるような音がした。




