世直し
私は望月秋菜。さっきまでは22歳の人間でした。なんで過去形かっていうと、ある過激派組織の爆破テロに巻き込まれて、死んでしまったの。22歳になったばかりで人生これからという時に勘弁して欲しいものだ。私は頭が良かったので大手企業の内定も決まってたところだ。人生って儚いなほんと。
そんなことを思っていたら、いつの間にか死後の世界にいた。ここでは神による「天地裁判」という裁判にかけられて、前世の行いがよければ天国、悪ければ地獄というよく見るありきたりなものだった。
「はい次の方。」
神に呼ばれたのでこれから裁判を受けるのだろう。
「お願いします。」
「そうだなぁ。君は22歳で亡くなったのか。死因は爆破テロによる事故死。まだ志半ばの言ったところだろう。君はこの人生で悪いことをしてない。特別に君は神になって、この世界を手直ししてほしい。」
「か、神様!?私は別に特別なこともしてないし、世界を救うようなこともしてない。そんな人間が神なんかになっていいのでしょうか?」
「確かに私は神になってから一度も人に神の座を与えたことはない。君を神にするのは、私がただ世界を変えてくれそうな感じが君からしたからだ。今の世界は腐りきっている。私1人では手に負えん。だから君の力が必要なんだ。神になってくれないか。」
私が...世界を救う...。
「私が神になれば、世界は救われるんですね?」
「そうだ。お主が神になれば、世界は変わるはずじゃ。」
「わかりました。神になります。」
私の神ライフはここから始まったのだ。
神になったので、天界から人間を見下ろすのかと思いきや、まさかのもう一度人生をやり直すことになっていた。
「おーい。聞こえるか、秋菜?」
「なんだこれ!直接脳に話しかけてきた!」
「神である私と繋がっておるからのぉ。脳内に声を送るのも、簡単じゃ。」
「神すごい!」
「感心しとる場合じゃないわ!これから大事な話をする。お主はこの世でもう一回人生を送ってくれ。そこでお前はこの世界の神になるんじゃ。」
「神になるってどうやって?」
「教祖じゃ。教祖になるのじゃ。」
「はあ?」
「新しい宗教を作るんじゃ。名前は神教宗で、お主が教祖じゃ。」
何を言ってんだこの神。
「心の中で言ったとしても全てわしに筒抜けじゃ。」
「まじかよめんどくさいな。」
「おお、開き直りおって。まあとにかく頑張るんじゃぞ。」
なんだあいつ。神になるってなんだよ。宗教なんでどうやってやるんだよ。今の時代、信じる奴なんかいるのか?まあとりあえずやるしかない。この世界を立て直すためにも、やるしかないんだ。
私はとりあえず困ってることがあれば神教宗に行って話を聞いてもらえば救ってくれる、この世の中に疑問を持つべき人は私の元に。などのいかにもなワードを盛り込んでネットに神教宗の本拠地の住所とともに流した。東京の一角に神の使い(この世にいる)によって建てられた、いかにも宗教らしい建物。そこが神教宗の本拠地となる。
少し待ってると実際に何人か悩みを持った人がきた。そして私は神と繋がっていて、あなたの悩みを聞けば、神が救ってくれると言った。
「最近仕事がうまくいかない」とか「人間関係がうまくいかない」とか「この世の全てが敵に見える」とかそう言った悩みを持った人が、大量に現れた。そしてそんな人たちの悩みに神が脳内に送ってきた言葉と同じ言葉を説いて最後に、「この世の中が信じられないならば、私を信じなさい。」と言って帰らせた。このセリフをみんなに必ず言った。そしたらそれがなんとまあみんなの心にハマり、入信したいと言う人が後をたたなかった。そいつらは私を神と崇めた。どんな人も頭を下げて、私を拝む。
快感。
体の隅から隅まで快楽が回る。気持ちいい。これが神になった気分か。
私はどんどん布教していった。自分も忘れて、無我夢中になりながら、私を拝んでくれる人を増やしに増やしまくった。神の声ももう届かない。あの神すらも私には、及ばない。
「おい、秋菜!やりすぎだ!もうこれ以上いい!取り返しがつかなくなるぞ!」
神の声なんか無視。そんなのどうでもいい。私を神と謳い拝んでくれればそれでいい。私は世界を変えることなんか忘れて、自分の快楽のためにとにかく増やした。ああ、人がゴミのようってこういうことか。
私の世直し事業(快楽のため)は日本どころか、世界にも及んだ。日本政府は私を止められなかった。日本人のほとんどは、私の世直し事業のために協力してくれた。さらに私はアジアに属する影響力のある国も巻き込めばさらに、入信者が増えると思った。実際、入信者は飛ぶように増えた。異国の人までもが私を拝む。もう誰にも止められない。
アジアが、神教宗に飲み込まれさらに勢力を拡大していく。それを見たアメリカやイギリスなどの先進国が、この緊急事態をなんとしてでも止めようとした。そして国連により、信仰の自由がなくなった。それでも私は、止まらなかった。フル無視で増やした。もう私は快楽の奴隷になってしまったようだ。そんな私に神は何も言わなくなった。止めもしないし、また応援もしない。私は宗教を作れと言っといて、応援してくれない神に腹を立てた。
暴走する私の元に国連から、今すぐやめて、思想を元に戻せ。やめなければ、お前の命はないと言う警告文(半分脅迫文)が届いた。そこで私はやったことの重大さに気づいた。私は今、暴走しすぎたせいで死にそうになっていることに気がついた。私は正気に戻った気がした。だが勢いが止むことはなく、私が布教しなくても、勝手に広まるようになった。
とうとう私は世界の指名手配になった。私は死刑覚悟で自主した。日本の警察に出頭しに行った。でも、捕まらなかった。なぜならその警官も私の信者だったからだ。裁判で自分を訴えても、無罪判決を言い渡されるだけだった。もう私は死にたくても死なないし、自分の罪も償えなくなった。
私の信者たちは、国連が私を指名手配したことに対し、猛抗議を行った。私の各国の信者たちが、一斉に猛抗議した。そのせいで世界は神教宗派とそれ以外に別れた。さらにどこかしらの国では内戦が起きた。そのせいで、いろんなところで戦いの火蓋が切られ、核戦争が起こった。見事に人類は滅んだ。勝戦国も敗戦国もあったもんじゃない。勝敗の垣根を越え、人類は滅んだのだから。それはそれは滑稽だった。自分の思想を武力で押し付けるつもりが、滅ぼしてしまい自分までも追い込んで最終的に死んだから。私は世直しに失敗した。
神は言った。
「人類は厄介だった。自分の考えを押し付け、それを他人にも広める。集団になって、同じ思想ではない人間をリンチする。全て統一しようとする。その結果がこれ。まあ、人類滅んだし、世の中はよくなっただろう。人類がいなくなったから世界はややこしくならずに済むんだから。」
私は人類を滅ぼさせるように仕向けられた、神の奴隷だった。本当の神などいない。あの神だって結局は人類が滅ぶことを望んでいたし。ああ。こんなんになるんだったら、いっそのこと天国で人々の暮らしを見てたらよかだな。