猫と国王
精霊へと転生。
再び地上へと舞い降りた俺はさっそく体に違和感を感じていた。体が少し変な感じというか……変身後の猫の姿になっている。
黒猫の姿で、俺は見覚えのある剣の近くに立っていた。
へきるの剣、だよなこれ。
俺はへきるの剣に宿ったんだろうけど、へきるの剣がなんでこんな人気のない部屋の中にあるんだろうか。
あと人間に変身はできるが、ずっと変身しっぱなしだと疲れてきたので猫の姿に戻る。どうやら俺は猫の姿がデフォになったらしい。人間時代と真逆……。
「それに窓の外の景色……。ここオルフェリート王国だよな? 戦争後とは思えないほど復興してる。あんなにボロボロだったのに」
すると、扉が開かれた。
メイドさんがモップを片手に入ってくる。
「先輩、ここどういう部屋なんすか?」
「ここ? かつてここに住んでいた勇者様たちの部屋だよ。許されざることはしたけど国王様も先代国王様も仕方ないことだと言ってて戻らせることはできないけど剣がここに保管されてるから掃除しとけってこと」
「ほえー」
「ここに住んでいた勇者たちって俺らのことか」
国王様、先代国王様……?
不穏な単語が聞こえてきた。俺はメイドさんたちの前に姿を現すが、今の俺は精霊だし、女神様もまずは見える人を探さない限り誰にも見えないとか言ってたな。
カタリナ様なら見えるはず……! と思って離れるが、100mぐらい走ったときそれ以上体が前に行かなくなった。
「あ、物に宿ってるから離れられないのね……。結構移動距離あるけど」
うーむ。
ここにカタリナ様が運よく来る以外方法はないんじゃないかな。一生見えないままだったらどうしよう。へきると再会することもままならんぞ。
ここにきて最初の課題。まずはカタリナ様を呼び……まて。カタリナ様は本当にいるのかな……。聞こえてくる単語からして少し日時が経過してるのではなかろうか……。どんぐらい経過してるかは知らんけど……。
とりあえずカタリナ様と念じてみることにしたのだが。なにもなさそう。
「どーすっかなぁー」
と頭を悩ませていた時だった。
「国王様!? 今ここは掃除中でして……」
「王妃様も……埃っぽいので……」
「いや、いい。カタリナ、何かいるのか?」
「私の精霊がここに来るよう促してましたけど……。あら、猫がおりますわ」
「猫? あ、いつの間にいたんだ?」
あ、なんか来た。
精霊がこっちを見てグッジョブと親指を立てていた。
俺は猫から人間に変身する。
「えっ!?」
「あ!?」
「ほへ?」
「猫ちゃんが人間に?」
この場にいる四人がびっくりしていた。
「ふぅ! やっと認識されるようになった。すいませんね、カタリナ様。ご迷惑を……」
「ひ、ヒヨリ殿……?」
「ひ、ヒヨリ様?」
「はい。聖女ヒヨリ、精霊となって帰ってきました」
俺はピースサインをして微笑んだ。
カタリナ様とハルト王子はよく帰ってきたと涙を浮かべていた。そして、近況を話してもらうことにする。へきるの場所とか知りたいし。
「まずは……あの戦争から5年が経った」
「5年!? そんなに!?」
「ああ。決着までは速かったんだ。勇者へきるが自我を取り戻し、一夜にして帝国を滅ぼしたんだ」
「へきるこわ……」
ここ5年で王も交代し、ハルト王子がハルト国王になったこと、カタリナ様と結婚しカタリナ様が王妃となったこと、第一子をすでに授かっているという情報も来た。
そして、へきるはというと。
「へきるが姿を消した……?」
「ああ。生きてるかどうかすら……」
「いや、それは心配ないんだよ。生きてるのは確実だしね」
俺はへきるが死ぬと自我を失う。
自我を失ってないということはへきるはまだ生きてるはず。
「多分、洗脳されていたとはいえ、この国を滅ぼしかけた罪悪感、自身の手でヒヨリ殿を殺してしまった後悔……いろんな感情があったんだと思う」
「だろうなぁ……。元に戻ってほしくて最後大好きだったとかほざいたし」
「国民のことを考えると国を滅ぼしかけた者を勇者ですと再び迎え入れるわけにはいかないし、罪とがは許すことはできんが……俺個人としては酌量の余地はある」
「はぁ」
「だからこんな形で申し訳ないが……指名手配のような形をとり、騎士たちにも捜索させる。君も捜索に加わってほしいが……女神の話を統合するとその場からあまり離れられないんだろう? へきる殿の剣を携帯していれば動けるのか?」
「この宿り木が動いたら動ける」
「わかった。騎士の一人に携帯させよう。国を挙げてとは言わんが、冒険者ギルドにも発見情報を提供するよう促しておく」
何から何までありがたい。
今へきるはどこにいるんだろうな。俺は生き返ったと今一度伝えてやりてえのに。剣を置いていきやがって。




