後悔先に立たず
戦場と化した村。
小野瀬は自分のスキルを使っていた。
「へきちー!?」
へきちーの片手にはぐったりとしたボロボロの日和の体。小野瀬のスキル”韋駄天”で素早くへきるから奪い返す。
そのへきるはというと、様子が変だった。
ポカンと目と口を開いたまま、動かない。そして。
「あ、あぁ……あ゛?」
頭を抑える。
小野瀬はへきるを睨んだ。
小野瀬自身、日和が好きだったというわけじゃない。だがしかし、いつも仲良く話していたへきちーのいつも近くにいて、へきちーも日和が好きだった。
好きな人を自分の手で殺したというのは小野瀬にとってもそこまで愉快なものでもなかった。
「ひ、ひひ、ひよくん……?」
へきるは日和に駆け寄っていく。
小野瀬はやっと元に戻ったと安堵したが……次に心配だったのはへきるだった。
「ひよくん? ど、どうして寝てるの……? う、嘘だよね? か、回復魔法使えるでしょ?」
「へきちー……。へきちーが殴り飛ばしたイルムちゃんって子を庇うために全部使ったんだよ」
「嘘! 嘘嘘嘘……! そんなの違う! 私は殺してないッ!」
へきるは理解してしまった。
自分が殺してしまったということを。小野瀬もすでに日和が息をしていないことはすでにわかっていた。肉体がもうすでに冷たくなっている。
心臓すら動いておらず、血液が巡っていない……。すでにこれはもう日和の見た目をした肉塊でしかなかった。
「やめてよ……! そんなの私に突き付けないで……! 私はただ……楽しく過ごしたかっただけなのに……!」
「その結果が今のこの事態を招いたってことなんでしょうが!」
「ごめん……ごめんっ!」
へきるはそう言って立ち上がる。
「何するつもり?」
「やらなきゃ……」
「何をするつもり?」
「あいつらを皆殺しにする……。私にできることはそれだけだし、私もあいつらを殺してひよくんの後を追う」
「……そっか。じゃ、まずは私からやるのね?」
「なかちーは……友達だから」
「そう。やってくれないの」
へきるは剣を取る。
頭の中には後悔の念が巻き上がっていた。どうやっても晴らすことはできない。自分の手で日和を殺してしまったという最大の後悔は一生消えそうにもなかった。
だからせめて、後悔して迷惑かけた分は自分で尻ぬぐいするつもりでいた。
ひよくんが最後に私を呪ったのは目覚めて自分でケリをつけろとかそういうことなんだと自分なりに解釈して。
自分はもうこんなことまでしでかした。オルフェリート王国には戻れない。
「いた! へきるだ!」
「へきちゃん……」
「志島!」
「お、お覚悟……」
アルスラン皇国、聖ラファエロ王国の勇者である壬午たちと東が現着。
だがしかし、へきるの様子がおかしくないことに疑問を抱く。すると、宇和島が背後に横たわる日和の死体を目にした。
「えっ!? あっ!?」
「どうした?」
「あっ……」
「日和!」
聖女である宇和島とみのりが日和の死体に駆け寄った。
壬午と東は口を開き茫然としている。
「日和……? 死んでるのか……?」
「死んでる……。回復魔法でももう無理だよこれ……」
「いったい誰が……」
「私が殺した」
へきるは淡々と事実を述べる。
「私が弱いばかりに、洗脳なんかされちゃって殺しちゃった」
「志島……」
「だからもうどうでもいい。退いて。私はあいつらを殺す。それだけ」
「もう元に戻ったんだな?」
「そんなのもうどうでもいいんだよ」
東は戻ったかどうかの確認を急いだ。
壬午たちの隣を素通りするへきる。へきるの険悪な雰囲気に何もできずただただ見送ることしかできなかった。
壬午は急いでへきるに追いつく。
「待てよへきる」
「なに?」
「あいつらに復讐すんだろ? 話は聞いた。俺もやる」
「いいの? クラスメイト殺して」
「元からアイツら嫌いだったんだ。いい機会だろ。俺の親友も間接的にアイツが殺したようなもんじゃねえか。ぶっ殺す」
「そう」
へきるは壬午が加勢しようがしまいがどうでもよかった。
自分にはもう道がないのだから。
き、きちんとハッピーエンドで終わらせる予定ですからねエ!




