どうか悪夢でありますように ②
王都の中もひどい有様だった。
建物が崩れ、戦った跡だけが残る。
「俺はこんなになるまで寝ていたのか?」
「うん。一週間ほど……」
「そんなに!?」
「魔力を全部使ったからだね。魔力が完全に枯渇すると回復まで眠るんだよ。だから基本みんな全部使わない」
そうなんだ……。
「でも前全部使ったときはこうなりませんでしたけど」
「それは無意識にリミッターをかけてるからさ。死を覚悟した時、そのリミッターが外れることがある。きっとそれで一週間も眠ったんだよ」
学園長がそう説明してくれた。
無意識のリミッターか……。要するに俺は火事場の馬鹿力を出してその反動で一週間も寝込んだって言うことなんだろうか。
「本来は1日2日程度なんだけど……ヒヨリちゃんは魔力の量が量だからね」
「なるほど……。っていうかこの道でいいんですか?」
「ちょっと遠回りだよ」
「なんで遠回りを?」
「最短の道にいくとまだ帝国兵多いんだよね。王都もほとんど壊滅状態となった今、もうここは王都としての機能はないんだけど、帝国の奴らはハイになっちゃって市民を見つけたら殺しちゃおうゲームというのを始めてる」
「……趣味が悪すぎる」
それに出くわさないためにこうして遠回りをしているってわけか……。
俺自身も今、王様に見つかるわけには……と思ったが、王都としての機能が今はないんだったら見つかっても平気かもしれないけど……。
「一週間程度でこうも……」
「普通の戦争はもっと時間がかかるけど、あっちにはへきるちゃんのような厄介な能力を持つやつが大量にいるからね。スキルも何もない私たちはただただ蹂躙されるだけ……。もちろん抗ってはいるからこそ、全滅こそしてないけど。っと、ここだ。秘密の隠れ場所。地下に王都の人たちが避難してるんだよね。入り口は限られた人しか知らない」
「ですね、学園長殿」
「……っ!」
学園長の首に剣を突きつけられた。
剣を突きつけたのはリヒターとリエリーだった。
「リヒター……」
「聖女様。無事だったのか。……だがしかし、無事であることがこうも喜ばしくないとは」
「……俺は何もしてない。本当に」
「だろうね」
「だよねぇ」
と、剣を降ろした。
「ここに入る前に事情を聞かせてくれたまえ。なぜへきるは我が国を裏切った?」
「裏切ったっていうより……あっちに洗脳を得意とする奴がいて」
「なるほど。洗脳されて自我を失ったわけか。厄介なことこの上ないな……!」
リヒターはすぐに理解を示した。
「洗脳を解く手段はあるのか? へきるさんがあっちにいる以上、こっちはじり貧だ」
「ある。イルムの力があれば」
「神の子イルム……。そうか、そういった能力なら能力で対抗を……!」
「どゆこと?」
「イルムさんの能力は魔法、能力の無効化。あらゆるスキルも彼女の手にかかれば解かれる」
「あーなるほど!」
「神の子イルムはこの中だね? 入るよ」
「ああ、許可する」
リヒターは剣を再び握りしめ、どこかへと向かっていった。
私たちは地下へとつながる階段を降りていく。一歩、また一歩と降りていく。
「大丈夫ですわ。きっと必ずこの戦争は終わります。帝国の好きにはさせません」
「落ち着け。みんな大丈夫だ」
と、知った声が聞こえてきた。
俺はその二人の名前を呼ぶ。
「カタリナ様とハルト様……」
「……聖女様か」
「嬉しいやら悲しいやら。学園長と一緒ってことはこの国を裏切ったわけではないんですのね」
「むしろこっちから探していたんだよ。裏切ったわけじゃないのなら応えられるだろう。勇者殿があっちについたこと」
「洗脳」
「「なるほど……」」
これで納得するのか。
「となると……」
「わ、私の出番ですね!」
と、イルムが手を挙げた。
イルムはやる気満々のよう。俺が言うのもなんだが今のへきるに近づくのは相当危険なんだが。死ぬかもしれないのに。
「早いところさっさと戻してくださいませ」
「そうは言いたいんだけどどうやって近づくか……」
「お前は近づけないのか?」
「俺は一度へきるに殺されかけてる。多分俺も殺害対象には入ってるから……」
「難しいってことか……」
「なら俺がデコイになってやるよ」
分厚い鎧を着こんだアギトが階段を降りてきた。
「俺のこの鎧と学園長の魔力があればあいつの攻撃は防げるだろ。今実際一番の脅威となってるのはへきるのやつで、洗脳であっちについてるんなら再びこっちにつけたほうが勝てる可能性は格段と上がる」
「だな。だが……死ぬかもしれないぞ」
「もとより俺は騎士となる男だぞ。国のために命を捧げる覚悟はとうの昔にしている。今更死を恐れるもんかよ」
「そうか。なら任せた! 一刻も早く勇者殿の洗脳を解くのだ!」
俺らは再び階段をかけあがり悪夢のような町を再び目にする。




