どうか悪夢でありますように ①
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前には小野瀬とミツが座っていた。
「あれ……俺は何を……っつぅ……」
思い出した。
へきるにぶん殴られて殺されかけた……。
「へきるは!?」
「その……落ち着いて聞いてね」
小野瀬は神妙な面持ちで口を開いた。
いうより見たほうが早いとミツはいう。俺は窓の外を見させられたのだった。窓の外には砲弾が飛び交い、まるでそれは悪夢のような光景が目に映る。
「なんだよこれ……!」
「へきちーがあっちについちゃってから一気に天秤が傾いてね……。帝国が聖ラファエロ王国、アルスラン皇国、そしてオルフェリート王国……この大陸の三つの国に宣戦布告をして攻めてきたんだ」
「んでそんなこと……!」
俺は立ち上がる。
なんとなくわかった。へきるはあっちについてる。どうにかして目を覚まさせなくちゃならん。俺らでも止められるうちに。へきるは日々強くなっているから……。
俺は部屋を出ていこうとすると、小野瀬に止められた。
「ダメよ! あんたは今王国でも重要人物となってるの……」
「はぁ!?」
「あっちにへきちーがついたのを知られてね……。日和くんもグルなんじゃないかっていう話が出てる」
「なんだよそれ……」
俺は何もわかってないのに。
俺もグル……? ってことはここは隠れ家的ななにかかよ。王国にも今は入れず、かといって帝国に従うつもりも毛頭ない。
俺は……。
「隠れ家だとしてもここはちょっとわかりやすすぎるよぉ」
「この声は……」
「やっほー。大変なことになってるね、ヒヨリちゃん」
学園長が窓ぶちに座っていた。
二人は武器を構える。
「あ、私はそういうことしに来たわけじゃないから。むしろヒヨリちゃんはこういうことをしないって私はわかってるからねぇ。魔王も必死に弁解しに行ってるけど国王様は疑わしきは罰せよって人だから。とりあえず私は味方だよ」
「そういう人ほど味方じゃないっていうフラグあるんですよ」
「うーん……。マジに味方なんだけどなぁ。私もね、ちょっと気になるんだよ。へきるちゃんはあっちにつくような性格じゃないし、ほぼひっついていたヒヨリちゃんとこうも離れ離れになるようなことをするとは思えないんだよね」
学園長は苦笑い。
「それに……私も今のヒヨリちゃんの処遇には納得してない。仮にも私が認めた女の子なのにこんな目にあうなんて許せん」
「信じていいんですか?」
「もち。で、なんでああなったの?」
「それは私が説明します」
小野瀬は口を開いた。
「私の同郷からきた人の一人に洗脳スキルがありまして……」
「洗脳スキル? ああ、異世界人か」
「はい。へきちー……へきるはそのスキルのせいで……」
「ほほーん。厄介だね。ま、たしかに洗脳を簡単にできるのはちょーっと厄介だな。解く方法に目途は? 洗脳を解くなんて楽な作業じゃないよ」
「解き方までは……」
洗脳スキル……。
「それに、へきるちゃんは毒が効かないのに洗脳は効くの?」
「あっちの首謀者の伊地知ってやつが言うには……」
「へきるは身体能力こそスキルで底上げされてるけどそれはあくまで身体に限った話。メンタルとかそういう攻撃は普通に通るってことだろ。俺もだいたいは予想してた。けど俺はあっちに洗脳使いがいるなんて知らなかったし聞いてもねえ」
「それはごめん……。私はいろいろと魔王様に尋問されてたから注意する暇もなかったし、当日もほんっとにぎりぎり間に合わなかったんだよね……」
「別に怒ってない……。でもショックだな」
洗脳してたということは俺を本当に殺しに来てた。
へきるが俺を殺しに……。その事実が俺を傷つける。
「洗脳を解くにはその洗脳をかけた人以外は無理なんじゃないかな」
「かもねー……」
「……いや、一人心当たりがいる」
「「えっ!?」」
小野瀬とミツは声を上げた。
「学園長、イルムはどこに?」
「彼女は王都の中で避難してるとは聞いたよ。迎えに行こうか」
「待て、そのイルムって子が心当たりの子?」
「そうだ」
「なにか特別な力があるの?」
「イルムは神の子っていう呼ばれ方で国に保護されてるんだ。イルムもこの世界の人ながらスキルがあるんだよ」
「この世界の人にスキル……!? ありえなくない!? スキルは女神さまが干渉して生まれるようなもんだって思ってたけど……女神が干渉せずとも生まれるの!?」
「そればかりはわからないけど……。ともかく持ってるんだよスキル」
「どういうスキルなの?」
「すべてのスキル、魔法、呪いの無効化」
「わぁピッタリ」
うってつけ。
イルムにへきるの洗脳を解いてもらう以外勝ち目はほとんどないと思う。
「迎えに行くんだったら急いだほうがいい」
「そうですね! 行きましょう!」




