グロ耐性がないひより
死体の数も含めて、乗客全員は発見できたようだった。
岩に潰されてしまった人、助けるのが遅くなって窒息死してしまった子供とか……3人が死体となって発見された。
聖女の力でケガや病気を治すことができても、命の蘇生は無理な話。こういう現代では考えられないような異能力でも、人知を超えすぎたことはできないようだった。
「おえぇ……」
帰ってきても、頭を潰された死体がフラッシュバックしてきて吐き気が止まらなかった。
ああいう死体は見る機会があまりないからきつい。平和な世界に暮らしてきていた分、そういう死体を見るダメージが思ったよりあった。
「吐くひよくんかわいー」
「なにそんな悠長なこと言ってんだよ……。お前この世界に適応しすぎだろ……。おえぇ……」
「適応しないと生きていけないでしょ?」
「それはそうだけどっ……」
「ひよくんって意外なとこ繊細だよね」
「むしろあんなグロイ死体みて気持ち悪くならねえほうがおかしいだろ……。平然としてるお前のほうがおかしいんだよ」
「そう? まぁ、私、バラバラの死体とか顔が酸で溶かされてる死体とか見たことあるし」
「……お前の家ヤクザだっけ」
「いや、おじさんがそういう殺され方してたの」
なんでおじさんがそうやって殺されてるんだよ。
「いやぁ、マジでびっくりしたよ。おじさんの家に行ったらいなくてさ、探し回ったら台所におじさんの生首があって。めちゃくちゃ叫んでさ」
「お前のおじさん何したの?」
「メンヘラ相手に浮気」
「えぇ……」
「もう一方はヤクザの人に借金しまくってそれで殺されたって感じ。風呂にどろどろの死体があってさ……」
「やめろみなまでいうな」
想像しただけで気持ち悪い。
その二つの死体を発見してるお前は何なんだよ。そういう星のもとで生まれたのか? とてもじゃないが現代日本の話とは思えなさすぎる。
「そういう死体を二回も見てるせいかもう耐性が出来ちゃって」
「お前のほうがレアケースだよ……。やっと落ち着いてきた……」
「でもひよくんだって腕を失くした人とか治してたんでしょ? 割とグロ耐性あると思ってたけど」
「そういうのは治せるってわかってるから別にって感じなんだよ今は。人の形が奇麗に保たれてる死体ならともかく、生首とか溶けてる死体とか、潰されてる死体とかは無理」
そういうのは本当に苦手が過ぎる。
生きているなら聖女の力で治せるから克服はできたけれど、そういう人間の形が変わっちゃうような感じの死体はマジで無理。
「でもこの先そういう死体を見る機会も増えてくんじゃない?」
「だよな……。聖女の力ってそういう現場に向かわせるに最適だもんな……」
生きていればどんなケガや病気も治せるのは一刻も争う事態において一番有効だと思う。
生きてさえいれば一瞬で治るんだから運び込まれて治すより、自ら行って治すというのが一番助かる確率が上がる。
発見してその場で治せばいいだけだからな。
「それまでに耐性を少しでもつけないと!」
「って言われても死体を見る機会はほとんどねえよ……」
「だねぇ。戦争もしてないしねぇ」
「とりあえずしばらく平和であることを望むよ……」
じゃないと俺の精神衛生上きつい。