石化の不思議
魔王領にいつまで滞在するかは特に決めてなかったので、へきるが帰りたいと言い出すまではとりあえずこの魔王領に居座ることにした。
居座る間、俺はへきるが寝たのを見計らいギャンブルをしに向かう。字面でいうとあれだが、仲間内で少量の掛け金でやってるからまだ娯楽という部分はある。
「はい、フルハウスです」
「あー、ブタだ俺!」
今日はポーカーだった。
この世界にトランプというものはなかったため、職人の人を紹介してもらい、トランプを作ってもらった。数個作ってもらったのでへきるたちとババ抜きとかそういう遊びもできる。
「へきる殿は運が良いのですね……」
あとこのギャンブル遊びにアイナさんが参加していた。
昨日、またここに来ようとした際見つかってしまい紹介して遊んでいるとこういうスリル満点の遊びに興味を示し、参加したいと言い出した。
アイナさん自身の任務はミツたちの監視であり、俺らをとがめることじゃないとか言い訳していたが普通は止めるべきだと思う。こんなうら若き乙女がギャンブルするなんて。
「ふふ……。私はストレートフラッシュですよ!」
「んなっ!」
「今回はスキュラの総どりだねぇ」
俺は泣く泣く支払う。
まだゲームは続いていく。スキュラさんたちとはこのギャンブルを通して割と仲良くなった。
「ねぇ、バジル」
「なんだい?」
「バジルってバジリスクなんだよね?」
「そうだねぇ」
「ってことは石化させる能力もあるってこと?」
「あるねぇ」
「死なないならちょっと経験してみたい」
ちょっと興味がある。
石になるってどんな感覚なんだろうと。バジルさんは笑っていいよおと告げてきた。そして、ポーカーを中断し、俺に石化能力をかける。
紫色のビームがバジルの口から出て、俺に当たる。俺の足元からだんだん石化していったのだった。
「うおっ、足が重い……。徐々に石に変わってく感じなんだ……」
「メデューサのようにすぐに石化させる能力じゃないからねぇ。じわじわとゆっくり石化していくんだ」
「でももう胸のあたりまで……」
「ヒヨリちゃんは小柄だからすぐに石化するねぇ」
「大きさとかかんけ」
言いかけた時口が石化していく。
そして、視界が暗くなっていく。いや、暗くはなってない? 石化されてはいるらしい。動けないのがその証拠だろう。
でも、視界はきちんとあるし思考もできる。死にはしないんだ。砕かない限り。
「今は視界があるパターンで石化させたよぉ。そういうのは選べるんだよねぇ。相手によって」
そうなんだ。
「意識はあるのですか?」
「あるよぉ。喋れないけど頭ではきちんと考えられてるはずだね」
「となると軽い拷問とかに使えそうな能力ではありますな」
「そうだね。そういう使い方を良くしてる。あと、石化した場合……」
バジルさんは思い切り俺の胸の辺りをぶん殴った。
俺の体が砕け散っている。
「なにしてるのでありますか!?」
「感覚もないけど、生きてるんだよばらばらになってもね。引っ付けて元に戻したりしたら普通に戻るんだけど……。こういうのもできる」
と、俺の頭が動けるようになった。
首だけが石化したままで、俺は地面に転がりながら。
「え、なんで俺これで生きてるん?」
「という風に、部分的に解除もできるし、破壊された部分を戻さない限り首だけでも生きてることはできるんだよねぇ」
「なかなかにグロテスク……」
首から下の感覚はないが普通にしゃべれるし見聞きもできる。
結構石化って不思議が多いな。
「どうなってんだ?」
「手も動かせるでしょ?」
というと、手も破壊された根本だけは石化が解かれていなかったが手を動かしてみると確かに動く。
「うわ、気持ちわりぃ」
「どういう仕組みなんですかこれ……」
「さぁ? これに関しては不思議が多いんだよねぇ。血さえ出なければ生きてる判定になるんじゃない?」
「曖昧過ぎるだろ……」
それでいいのかよ。
というか、破壊されてなお生きてるし、なぜか手を動かせて這いずって移動させることができるしどうなってんだろうな。
「こういう使い方は最近初めて知ったからねぇ」
「むしろ知らなかったんだ」
「うん……。じゃ、もどそっか。ちょっと顔とか持ちあげるよー」
と、バジルが俺の顔に手をやってきたその時だった。
扉が開かれる。
「魔王様ぁ。ひよくんがこの部屋にっ!」
「良からぬことでもしてるのか貴様ら……ああああああ!?」
「やべ……」
魔王様とへきるが俺の姿を見て目を丸くしていた。
部分的に再生して動かせるってこわ……




