戦争の種
帝国勇者軍は駆けつけてきた魔王軍の人たちに捕縛されて縄で縛られ牢獄に入れられていた。
ぶん殴られ、顔が変形するぐらいの重傷の伊地知もなんとか心臓だけは動いており、息はしているようだ。気に食わないが、俺は一応最低限の回復魔法だけはかけておく。
「帝国の勇者たち……? マジで?」
「僕たちだけじゃなかったの?」
文吾たちにもそう話す。
文吾たちもこのことは知ることもなかったようで、実際に牢に囚われているクラスメイトを見せると、日本人だと呟いていた。
「どういうことだ? 帝国はあっちの世界に繋がる技術を手に入れたってことなのか?」
「そうかも……。現にやってきたやつは俺らのクラスメイトだったわけだし」
「つまりまだ勇者が召喚される可能性があるということ?」
「あるかも。まぁ、話を聞いてみなくちゃわからないけどね。ね、小野瀬さん」
「うん……何でも話すよ……」
小野瀬さんは一人だけ縮こまっていた。
一人だけ牢に囚われてないのは気絶してないからだ。話を聞くべく、魔王の前に連行してきたわけなんだけど……。
「えと、その前にさ……。君たちも日本から?」
「おう。桐島 文吾。お前らと同じ帝国に召喚されただけの勇者だ」
「明智です……。その、文吾に同じく……」
紹介を終えた。
魔王は玉座に座り、肘をついて小野瀬を問い詰める。その威圧感はすさまじく、隣に座っている俺もちょっと怖いぐらいだった。
小野瀬もその威圧に当てられ、言葉に詰まっている様子。
「それで? 帝国に召喚されて私を倒しにいってこいと」
「は、はい」
「私は帝国にも友好的な姿勢を見せていたのだがな。帝国はなんでこんなことをした」
「そこまでは……。わ、私たちはある日突然こっちの世界に連れてこられて魔王とほかの悪に染まった国を倒して来いとしか……」
「……国?」
「アルスラン皇国、聖ラファエロ王国、オルフェリート王国の三つ……」
「この大陸の国すべてをか」
魔王がそう言っていた。
この大陸にはその四つの国しかないのか。意外とないなと思う反面、帝国はその三つを潰しにかかってるという事実もこれで明らかになったわけなんだが……。
「どうして我らだけならまだしも人間の国を潰そうとしておるのだ?」
「そこまでは……」
「なんだ。お前たちはそこに何の疑念も抱かずのこのこ私たちを潰そうと来たのか。つまらん奴らだな」
「それに関しては同意……」
「アメアストリアちゃん……」
「でもまぁ……わからなくもないよねぇ。私も異世界だと認識して自分にそういう力があるんだって知って魔王を倒して来いって言われたらウキウキでやると思うもん」
「お前なぁ」
たしかにへきるならやりそうなんだが。
「同族同士でのいさかいが絶えないのは私らと同じだということはよく知れた。同じである分わかりあえるのだな」
「すっげーポジティブ」
「そう捉えるんだね……」
「私が知ってるのはそこだけです。本当にごめんなさい……」
「謝っても私の同胞がたくさん殺された事実は拭えんがね」
「…………」
「だが……私たち魔族としてもこれで帝国は見過ごせん存在となったわけだ。戦争も視野に入れんとな」
「「「戦争!?」」」
へきると文吾とミツが驚いていた。
「そんなに意外か?」
「あっちが半ば仕掛けてきたようなもんだからもうほとんど始まってるに等しいけど」
「い、いや……なじみ深くなくてさ」
「日本で暮らしてたから……」
まぁ日本で暮らしてたら馴染み深くはないか。
戦争なんてほとんど今は無縁だしな。歴史の授業では日露戦争とか日清戦争とかあったけど。
「まぁ何にせよ、帝国は我が魔王軍に明確な敵意を剥き出したのは確かだ。このまま何もしませんよで終わらせられるわけもなかろうて。オノセとか言ったな? 貴様ら勇者はしばらく捕虜となってもらう。構わぬだろう?」
「……拒否権は?」
「ない。拒否するとあらば殺す。生かす手段を与えているだけ温情だと思うが良い」
「はい……」
「でも実際、不思議な力を持ってる奴らをずっと捕らえたりできるんすか?」
「難しいな。奴らの能力がわかれば良いが……自分の能力は話したりせんだろう。情報を与えんことが大事だからな。だがしかし、この国には私がいる。みたところ全員強さはそうでもないものばかりだ。私が直に見ていれば逃げ出す愚か者はおらんだろう。少なくとも、無事では帰れん」
魔王はニヤリと笑った。
「まぁなかちー。魔王様こう見えて良い人だから」
「いや、今は小野瀬は敵国の立場だから厳しくすんだろ」
「あ、そっかあ。ひよくん賢い!」
「ひよくん?」
「えっ?」
「今アメストリアちゃんのことひよくんって言った?」
「あ」
おい。いやいいけど。
「悪い小野瀬。俺が日和」
「えっ……えぇーーーー!?」
小野瀬は一番大きな声を出していた。




