帝国勇者軍の侵攻 ②
伊地知 治人。
高校時代のクラスメイトでよく騒がしかった。学校に何しに来てるんだって言いたくなるようなぐらいとてもうるさく、へきると一緒に帰ってるからといって馬鹿にされることもあった。
中学時代は人をいじりすぎて、いやになった人もいたと風の噂で聞く。ともかく人を馬鹿にするのが好きな男子高校生だったのは確かだ。
「志島ちゃんこの世界に来てたんだぁ。奇遇だねぇ。俺たちも来たんだよ」
「そーなんだ」
「あれ? 日和クンは? 一緒じゃないんだ」
「ひよくんは……」
「へきる、俺は別人ってことにしておいて。面倒だから」
「わかった。ひよくんはその……死んじゃって」
「ああ、ひょろかったもんな」
馬鹿にしたように笑う。
誰がひょろいだボケ。普通の男子高校生の肉付きだったわ。
「日和クン死んじゃったんだ……」
「あ、なかちー」
「久しぶりー♪」
クラスメイトが続々とへきるの周りに集まっていく。
「へきちー、この子は?」
「魔族……じゃないよね? 人間だ」
「えと……」
「私はアメストリアといいます。よろしくお願いしますね」
「アメストリアちゃん! 私は小野瀬 真奈花っていうんだ。よろしくね」
「よろしく!」
とりあえず適当な偽名を名乗っておく。
アメストリアってのは俺の好きなアニメの女の子の名前だというのは秘密で。
「で、へきちーはなんでこんなところいるの?」
「魔王領に遊びに来てた」
「そうなんだ。でもごめんね。魔王領は潰せって言われててさ」
「帝国の国王様にですか?」
「そう。へきちーたちも戦えるんなら協力してほしいなぁ、なんて……」
というと、へきるは剣を抜き笑顔で小野瀬に突き立てた。
「へ?」
「ごめんね。私こっち側なんだ。魔王は今、人間と友好的な関係を結ぼうと頑張ってる最中なんだよね。私は魔王様のこと好きだからこっちについてるよ」
へきるは笑いながら小野瀬に剣を突き立てる。
小野瀬はだくだくと冷や汗を流していた。すると、へきるの手を伊地知がつかむ。
「てめえ、魔王の味方をするってのはどういうことかわかってんのかよ」
「うん。でもよくない? 頑張ってるんだからこっちも歩み寄らないとね」
「人間の恥が! こいつも魔王の手先だ! 殺さずとも叩きのめそうぜ!」
「そうだな!」
周りの賛同が飛ぶ。
へきるは俺のほうを向いた。
「殺しはするなよ」
「りょーかい」
へきるはすばやく地面を蹴り、相手との距離を詰める。思い切り剣の峰でぶったたいていた。叩かれた同級生の一人は口から血を吐いて吹っ飛んでいく。
へきるは近くにいた二人目もぶちのめし、どんどんぶちのめしていった。
「ひ、ひぃ!?」
「なんだ!? 志島の強さ異常だぞ!?」
「経験の差だね……」
「この野郎……!」
同級生の一人が巨大な魔法をへきるめがけて放った。
俺はその魔法に俺の雷魔法をぶつけ相殺する。そして、俺も死なない程度に威力を調整した雷の魔法を放った。
雷がクラスメイトの胸を貫き、感電していく。バタバタと倒れていくクラスメイト達。
「残りは……」
「嘘だろ……全滅……?」
「チートスキルだってあるのに……?」
「肩慣らしにもならないね。なかちー、伊地知くん。降伏するなら今だよ」
「こ、降伏します! 私はもうしないから許して……!」
小野瀬は俺の後ろに隠れた。
すると、伊地知が俺の髪をつかみ、剣を首筋に突き立ててきた。
「誰が降伏するもんかよ! アメストリアってやつがどうなっても知らねえぞ!」
「首切ってみなよ」
「あ!?」
「同じ人間を殺す勇気もない臆病者がなに剣を握ってるの? ほら、斬りなよ」
「しょ、正気かてめえ!?」
「見本を見せてあげようか」
すると、へきるは俺のほうを向き、頷いた。俺は仕方ないので常時回復魔法を発動しておく。へきるの剣が奇麗に俺の首を刎ねた。
小野瀬に俺の返り血が飛び散る。生首となった俺は、そのまま回復魔法の効果で体を再生したのだった。
「えっ……」
「これの難点は服とかないからすっぽんぽんになることなんだよね。だから首刎ねてみろとかいったのに」
「え、ええ……」
「なにそれ……」
小野瀬は地面にへたへたーと座り込んだのだった。
伊地知はぽかんとただただ呆然と立ち尽くす。
「ま、でも、人質を取る戦法はちょっとムカついちゃったな。伊地知くん、私の手をつかんだりしてたよねぇ? 元の世界でもひよくんを馬鹿にしてくれちゃってさぁ。私、君のこと嫌いだったんだよ」
「へきるがそういうなんて相当嫌ってたんだな」
「だから死ぬかもしれないけど伊地知くんには強めの一撃を上げる」
へきるは握り拳を掲げた。
伊地知の顔が恐怖に染まっていき、そして。
「死ねぃ!」
「へぶぉ!?」
思い切り頬をぶん殴っていた。
防御魔法か何かかけたのか肉体が千切れたりとかはしてないが、それでも変形はしていた。




