帝国勇者軍の侵攻 ①
黒こげの魔族の死体を足蹴にし、魔王は頭を下げた。
「申し訳なイ。我が魔族も一枚岩ではなく、まだ統率がなっておらぬのダ……」
「あ、頭上げてください魔王様! もっとどかんと威厳を保ってないと!」
「どかんとってどういう意味だ?」
へきるってたまにわからない単語を使うよな……。
とまぁそれはさておき。俺自身の鬱憤が晴れた……というわけではないが、少しは楽になったと思う。初めて人型の生物を殺したが、不思議と罪悪感はなかった。
「魔王様! 大変ですぅ!」
「どうしタ!?」
「勇者が攻めてきました!」
「「はぁ!?」」
俺と魔王は顔を見合わせる。
勇者が攻めてきたって……どういうことだ?
「勇者って……ここにいるへきる殿と、別室にいるブンゴ殿、そしてアルスラン皇国と聖ラファエロ王国の……皇国と王国の勇者カ!?」
「いえ……帝国が召喚した勇者だという話であります! 現在、魔王の配下たちが交戦しておりますが相手にはそれぞれ不思議な力がある模様で……!」
「帝国!?」
帝国の勇者は文吾のはずだろ!?
俺はへきるのほうを向くと、へきるは呆けた顔をしていた。へきるの肩を叩く。
「行くぞへきる! 勇者を名乗る変な奴をぶっ倒すんだ」
「オッケー! でも勇者って変だよねぇ? 勇者ってことはまた異世界から召喚されたってことでしょ?」
「……ありえないだろ。俺らがこの世界に来たのはあの魔王が誕生したからだ。古の女神の契約だかなんだかで。だけど新たな魔王が誕生してない今、この世界に来る術はないんだよ」
「そうかなぁ。でも、私たちは召喚されたんだよね?」
「ああ」
「召喚されることができるって言うなら頑張ればあっちの世界につなげられるってことじゃないの?」
「……たしかに」
へきるってたまに鋭いことを言うな。
たしかに召喚ができるんなら多少なりとも元の世界とつながっているはず。それを何らかの方法で扉をこじ開け連れてこられるんだとしたら。
俺たちの世界の人間が無理やり連れてくることも理論的には可能なんじゃないか?
だって俺らが来てるわけなんだし。
「不思議な力ってチートスキルのことでしょ? 十中八九私たちの世界の人たちだよ」
「そっか……。この世界にはチートスキルなんて言葉……あるのか? 知らないけどスキルの存在は知らないんだったな。王国の人たちも不思議なスキルみたいなことを言ってたし、神の子イルムのようにこの世界でもたまに持って生まれてくるやつもいるようだけど……」
「でも私たちが出会ったのはその一人だけで複数人いるはずないよねぇ」
「複数? 複数いるってわからないだろ」
「いや、報告の人はそれぞれって言ってたじゃん。複数いないと使わんくない?」
「あ……」
たしかに言ってた。
俺たちが話し込んでいると、目の前には惨劇が広がっていた。返り血に染まる黒髪の日本人と、積み上げられた魔族や魔物の死体の山。
勇者たちは俺たちを見つけ、ぎろりとにらむ。
すると、あっちの勇者が大きく声を上げた。
「おー! 志島ちゃんじゃん! 久しぶり!」
「……知り合い?」
「んー? あー!」
へきるが驚いた顔をしていた。
「私たちの高校のクラスメイトだよ!」
「あん!? クラスメイト!?」
俺はよく顔を見てみると、たしかにそこには高校の時同じクラスだったクラスのチャラい男の伊地知 治人が剣を片手に立っていたのだった。
帝国に召喚された勇者ってクラスメイトかよ。




