もう何も見たくない
目の前の光景が変わっていく。
俺はもう何も見たくなかった。へきるの姿の者をこの手で殺してしまった。俺は……。
目を瞑り、そしてまた目を開く。
「ん〜〜」
「……なにしてんの?」
「あ、ひよくんおはよ〜!」
キス顔のへきるが目の前にいた。
「ひよくんお目覚めだねぇ。やっぱ自力で起きると思ってたよ!」
「……なんでキスしようとしてたんだよ。俺は今女の子とはいえ男だぞ」
「眠り姫を起こすのは王子様の口付けって相場が決まってるじゃん!」
「王子の立場は普通俺なんだけどなぁ……。って、自力で? お前眠った要因知ってんの?」
「私から説明しようカ。このバカな魔族が夢語草という強制的に眠らせ永遠に夢を見させる毒草をお菓子に入れていたのダ」
「……へぇ」
魔族は鎖で縛られていた。
俺は夢の中のことを思い出す。おかしいと思った。あの世界は、どうもおかしかった。
痛みもあった。感覚もあった。それは現実に等しいような世界。だけど、どこか違和感があった。それの説明は出来ないが……。違和感を感じていた。
それが毒によるものだった。
「なぜこんなことした?」
「……ケッ、人間に言う義理はねぇよ」
「答えろ」
俺は魔力を貯める。
圧倒的な魔力量に気押された魔族は口を開いた。
「もともとは魔王を狙ってたんだよクソッタレ。魔王が失脚すりゃ人間の街襲い放題だからよ」
「人間の客人が来てると知り、私のところに来たと知っテなお出したソウダ」
「なら酌量の余地はないな」
俺はそのまま魔法をぶっ放した。
鎖で繋がれた魔族の顔が歪んでいく。そして、断末魔の叫びを上げて感電し焼き焦げて力尽きる。
魔族とはいえ初めて人を殺した。感覚としてはこんなもんなのか。
「ひよくん……? ひよくんが殺すなんて……」
「…………」
「なんかあったの?」
「別に……」
「夢語草は夢から覚める際に究極の選択を迫られることが多いのだ。起きたら原因を探り怒り狂うこともある。きっとそのせいだな。究極の選択で取りたくない方を選ばされたのだろう」
「ひよくんが怒るほどの選択って……」
腹立つ。
こんなことしやがったこいつに腹が立つ。俺はお前を治してやらねぇぞ。
「おおよそ……大事な人を殺してきたのだろウ。私も眠った時には自分の母上を殺してきたものダ」
「……大事な人?」
「自分の身近な人……。母上や父上、恋人や好きな人とかだナ」
「へぇ。ひよくん私を殺してきたんだ?」
「だれもお前を殺してきたなんて言ってねぇだろ」
「……違うの?」
「……母さんだったよ」
「そんなっ……。私とはお遊びだったのね!」
へきると面と向かって言えるわけがない。
流石にそういうことならこの場でへきるを殺してきたなんて恥ずかしくて言えねえよ。へきるの目の前でへきるを殺してきたって言うんならそれはもう告白みたいなもんだろ。
「まぁ、夢語草は一度経験したら耐性を持つようになる。二度目飲んだら今度は良質な睡眠が出来るゾ」
「へぇ〜。睡眠薬みたいだね」
「初っ端が一番精神的に来るんだよ……。それに目覚めない可能性もあったじゃねえか」
「良薬は口に苦し!」
「初っ端でまず生きるか死ぬかの瀬戸際だから良薬とは言えないだろうが」
俺は夢だと気づけたから……。
「ってかへきるは眠らなかったのか?」
「んー、そうみたい」
「……あのシックドラゴンの霧を吸い込んでも元気だったから当たり前か」
へきるの身体は強い毒耐性もあるようだ。
どうやったらこのフィジカルの化け物殺せるんだろうな。




