元の世界
春の穏やかな木漏れ日が俺を照らす。
目を覚ますとカーテンが揺れ、冷たい学校の椅子に座っていた。
「あれ、ここは?」
「あ、ひよくん起きた〜」
「へきる?」
なんか声がおかしい。
俺の声が男のような……。それこそ元に戻ってるかのように。
俺は股間を触ってみる。そこには懐かしい感触があった。
「戻ってる……!」
「戻ってる?」
「いや……どうなってんだろ」
俺は自分の手を見る。
さっきまで俺は魔王様と話していたはずなのに。今の目の前の光景は違う。
俺が通っていた東京にある高校の俺のクラス。
壬午がいて、へきるがいて……。まるでさっきまで見ていたのは別世界のように。
「なぁへきる。お前異世界っていったことあるか?」
「異世界? 行きたいよねぇ〜」
「ないのな」
「どしたの? もしかして異世界に行く夢でも見たかぁ〜?」
夢……。そっか。夢か。
俺は異世界の記憶を思い出す。確かに鮮明に覚えていた。俺が女の子になっていたこと、とても平和な世界だったこと、ドラゴンと出会ったことなどなど。
今でも感覚として残ってる。あれは本当に夢だったのだろうか?
いや……現実的に考えてそれはあり得ないか。あれは明晰夢だったんだな。
「あぁ。そうみたい」
「ひよくん珍しく夜更かししてたもんねぇ。夢見るくらいまで眠りこけるなんて珍しい。先生カンカンだったよ?」
「げ、マジで? 夜更かしすんじゃなかったな」
随分と長い夢を見ていた。
俺はとりあえず席を立ち先生に謝りに向かう。先生に謝ると今度から気をつけるようにと釘を刺され、俺は教室に戻った。
そしてチャイムが鳴り響く。
授業が始まった。数学の授業。隣のへきるはポカンとした顔で聞いている。数学嫌いだもんなお前。
俺は俺で夢の内容をノートに書き出していた。
女の子になって蜘蛛の魔物に追いかけられたり、初代勇者と戦うことになったり、同じ世界から来た勇者たちと仲良くなったり、ドラゴンに出会い竜人になったり……。
まるで体験してきたかの如くスラスラと書ける。
いや……。明晰夢で片付けていい範疇なのか?これは?確かに経験した記憶がある。
夢というのは曖昧になり記憶に残らないと聞いた。けどこれは明晰夢というには明らかに記憶が残りすぎてるような気もする。
「へきる、今朝見た夢は?」
「え? あー、なんだったろ? 幸せな夢だった気がするんだけど」
「幸せな夢ね……。曖昧だな」
「そりゃ覚えてないよ夢の話なんて〜」
「だよな。それが普通だよな」
気になる。が、気になる止まりだな。
考えているとチャイムが鳴り、授業が終わって帰る時間となった。
帰りのHRを終え、俺はへきると共に帰り道を歩いていく。
「ひよく〜ん……。今日も宿題……」
「教えてやっから。またお前の部屋でいいんだよな」
「ひよくんは自分の部屋に入れてくれないしそれしかないよぅ」
「思春期の男の部屋には迂闊に入っちゃダメだ」
「エロ本あるから?」
「そうだけど」
「否定しなよ思春期なら!」
誰だってエロ本の一つや二つあるもんだろ。隠しておいても見つかるからもう堂々と置いてあるんだ。
隠すから後ろめたくなるのであって隠さなかったらもう堂々とできる。
俺はそのままへきるの部屋にお邪魔することにした。
へきるは部屋に着くと制服を脱ぐ。
「お前よく俺がいる目の前で下着姿になれるな」
「別に素っ裸じゃないからよくない?」
「男子高校生の性欲舐めてるなお前」
俺だってそういう欲はなくもない。
へきるは部屋着に着替えカバンの中から宿題を取り出した。俺も取り出し机の上に置く。
「それにしてもお前の部屋ラノベ増えたな」
「読んでると面白くってねぇ」
「異世界もの多くないか?」
「ここじゃない世界に行ってみたいからその方法を模索中」
「無理だろ」
「いやいや、意外とあるかもよ〜? 異世界に行ってチートスキルを持って無双する! とりあえずテンプレは全部起きて欲しい!」
「そう現実は上手くいくもんかね……」
異世界があることは否定しないが、行く方法は死ぬしかないだろ。
それかあれか? 転移させられるのを待ってんのか?




