ネクロムさんの苦悩
俺は警戒されるくらいならと変身魔法をかけた。
猫になり、ネクロムさんに抱えられて魔王領を探索していた。
「驚いた。猫になれるんですねぇ」
「びっくりしました?」
「いえ……。わたくしは以前から人間が飼う猫という生物が気になっておりまして……。大変愛くるしいなと思い近づいたこともあるのですが怖がられて逃げられてしまい……」
「あー」
たしかにこの角度だとフードの中の顔が見えちゃうんだよな。ちょっと少しやっぱ怖い顔をしている。顔がドロドロに溶けたゾンビのような感じの見た目。
ネクロマンサーだというのだから仕方ないかもしれないが……。
「こうして猫を触れるのが初めてですよ。大変毛並みがよろしいですねぇ。手触りもとても愛くるしい……」
「猫のゾンビとか呼び出して……」
「生物には生物の良さがあるのです!」
不用意な発言をしてネクロムさんにへきるが少し怒られていた。
「私はね、ネクロマンサーという種族があまり好きではないのですよ。なまじっかわたくしに才能があったがゆえに魔王軍四天王という肩書になりましたが……。亡くなった方や魔物の亡骸を再びよみがえらせ自分の傀儡として戦う……。生命への冒涜もいいところなのです」
「たしかに……。死んじゃったら普通は蘇らないですもんね」
「ええ……。なのでわたくしはあまりこの種族が好きではないのですよね。見た目もこんなんなってしまいますし」
「大変ですね……」
「はい……」
ネクロムさんは魔王軍というにはめちゃくちゃ温厚だな……。
「ネクロムさんって今の魔王様を支持してるんですか?」
「しておりますとも。わたくしは人間との共存もできると考えておりまして、先代や先々代の考えはどうも納得できず……かといってそれは違うとはっきり言えば敵対者として殺される……。泣く泣く従うしかなかったんですが、今の魔王様は人間と共存しようと考えて動いており、実力でほかの魔族や魔物を黙らせてるんです。かっこいいと思います」
たしかに。俺もかっこいいと思う。
「ふふ、わたくしの話はつまらないのでもういいでしょう。せっかく魔王領に来たのですし、なにか名物を食べていってはいかがです?」
「名物ってなにがあるの?」
「魔貝の串焼きや魔魚の網焼きなどありますよ。見た目は少しグロテスクかもしれませんが味は保証します。そこに売っておりますので買って来ましょう」
そういってネクロムさんはお金を渡し魔魚と魔貝の串焼きを購入。魔魚は普通のヤマメのような体にデメキンのように目玉が飛び出している。
魔貝のほうは普通にはまぐりとかそういった二枚貝の中身を取り出し串で刺して焼いたような感じのものだった。俺はネクロムさんに食べさせてもらう。
「うん! うまい!」
「ほんとだ。塩味がいい塩梅で効いてて美味い。身も柔らかいし、皮がぱりぱりだ」
皮がぱりっと、中はほろほろと噛んだだけで崩れていく。
味としてはイワナに近いかな。魔魚すごい美味い。肉より魚のほうが好きな俺にとって割とこのみな味だった。
俺は魔貝のほうも食べてみる。
「んー、これはなんつーか、苦いな……」
「ほろ苦くてうま~……」
「サザエみたいな味だな」
これもこれでうまい。
砂抜きもきちんとしてある処理の丁寧さを感じ取れる。
「魔貝、魔魚はともに魔力を多く含む生物なので、魔力回復にもなるんですよ」
「そうなんですね」
「ひよくんはいらないよね?」
「全回復って言ったら結構食べる必要があるし、そもそも量が多いから使い切ることは稀だし」
「さすが聖女様ですね。ささ、次の場所に行きましょう。魔王領は観光名所が多いんです」




