誰も寝てはならぬ ③
天竜ヘヴヘヴォスがシックドラゴンを攻撃していた。
シックドラゴンにのしかかり身動きを拘束したのち、口から青白い炎を吐き出しシックドラゴンを焼き尽くさんとばかり。
炎のブレスは俺らに当たることはなかったが、ここからでも温度が伝わるくらいものすごく熱い業火だった。
「よくも! 私の娘に! 手を出そうとしたなッ!」
なんだろう、言葉が聞こえる。
変な言葉。いや……ヘヴヘヴォスの言葉か?
「その罪を思い知るがいい馬鹿なドラゴンめ!」
……もしかして俺、ヘヴヘヴォスの言葉が分かるようになったんだろうか。
いや……気のせいだろう。ドラゴンが言葉を話すはずもない。話したとてわかるはずが……いや、俺は今竜人だし、ヘヴヘヴォスの血がこの中に入ってる。わかってもおかしくはないの、か?
いや待て待て待て。それだったとしても娘つってるんだぞ。俺はあのドラゴンの娘なわけないし違う……。
ヘヴヘヴォスはこっちを向いた。
「大丈夫か! 私の娘よ!」
「……おれぇ?」
「そうよ! 血を上げたじゃない!」
「それで娘認定されんの?」
血を入れられたら血縁関係になるんですか?
っていうか、本当に言葉分かるようになってんだな。うん、まぁ、もうつっこまないが。
「この馬鹿なドラゴンは私が殺しておくからね! 安心してね娘!」
「……うん」
ヘヴヘヴォスはシックドラゴンを足でがしっとつかんだかと思うとそのまま上空へ高く飛び上がり、そのまま放したかと思うと、すごい速度でシックドラゴンに突っ込んでいき、地面にたたきつける。
叩きつけた際の衝撃が俺らを襲った。シックドラゴンもさすがに耐えきれなかったのか、口から霧を吐き出すのをやめる。その瞬間、霧がどんどん晴れていった。
「霧が……」
「治まっていく……」
「え、か、勝ったの?」
みのりと宇和島も驚いて固まっていた。
ヘヴヘヴォスは俺らの前にのそのそと歩いてくる。先生方が警戒し武器を構えているがそれもお構いなしに俺に顔を近づけてきた。
「愛しい我が娘よ……。私はいつでもお前を見守ってる。困ったら助けよう」
「あ、ありがとう?」
「ふふ。可愛い。そうだ。私の鱗をやろう。人間世界ではドラゴンの鱗は貴重なものなんでしょう? 売ってもいいし鎧にしてもいい」
そういって、ヘヴヘヴォスは体をゆすり鱗をぽとぽとと落としていく。
「それじゃあ、またね。愛しい娘」
「……お、おう」
ヘヴヘヴォスは翼を大きく広げ、飛び去って行った。
ぽかんと呆ける俺たち。俺はとりあえず落としていった鱗を拾うことにした。純白な白い鱗はつやがあり、俺の顔を反射していた。
「あれ! シックドラゴンいないしもう霧がないよ!?」
「え、討伐したんですか!?」
「どうやって?」
「いや……その、なんだ。俺が説明する。と、とりあえず……シックドラゴンの脅威はなくなった……」
先生が何とか言葉をひねり出していた。
俺は鱗を抱える。一つ一つが俺の顔ぐらいある鱗は結構な数落ちており、めちゃくちゃ重い。これ売ったらいくらになるんだろうか。
そう考えるくらい、さっきのことが受け入れられなく、考えるのをやめた。
ヘヴヘヴォスの秘密
娘大好きおばさん




