誰も寝てはならぬ ②
ずっと振動が走っている。
俺たち三人は手をつなぎながら、窓の外の様子を眺めていた。白い霧ではっきりとは見えないが、魔物が多数押し寄せてきているようで、魔物が建物にぶつかり、強引に壊している。
「やばい……! なにかとてつもなくやばい事態が……!」
「ここも危ないな……。どこか移動しよう! 安全なところに……」
俺たちは一緒にいないと今は危険だ。
常時回復魔法を発動してないと命が危ない。俺たちは手をつないだまま移動するしかないんだが……。
すると、鳥の魔物が窓を突き破って中へと入ってきた。魔物はこちらに目をくれず、壁をぶち壊して去っていく。
「ここは危ない! さっさと逃げましょう……!」
立ち上がり、移動することにした。
輪になりながらゆっくり歩いていると、アギトと先生方が駆けつけてくる。
「どこにいくんだ?」
「安全なところへ! 今は回復魔法を解くわけにはいかないから……」
「ならこっちだ! 学校の体育館ならこの寮より頑丈にできているから魔物もそう簡単にぶち破ることはできん!」
「手は離せないのか!?」
「離したらみんな動けなくなります!」
「ちっ、じゃゆっくりと急ぐぞ! 道中は俺らが守ってやる! お前らは回復魔法をかけ続けろ!」
アギトが剣を構えて俺の後ろに立った。
建物から出て、俺らは外の光景を目の当たりにする。わかる範囲でも建物が崩れ落ちており、瓦礫の山で散乱していた。
街が壊れていく……。いったい何なんだこの災害は。
「お前ら意識は保てよ! 寝るんじゃねえぞ!」
「わかってる!」
「根性みせるときがきたよみのり……頑張れ……!」
「何日もつかな……」
俺らが意識を保っていなければこの町の住人が全員死ぬ。
回復魔法をかけ続けてなきゃへきる以外は動けなくなっちゃう。へきるたちがそのシックドラゴンってやらを倒してくれなくちゃ始まらない。
だが……相手はドラゴンだ。勝てるのだろうか。
俺らが体育館まで移動しようと学校の校舎につくと、一人の男が扉をたたいていた。
「誰か! 誰かいないか! 動ける奴はいないか!」
と、叫びながら必死にドアを叩いている。
その形相は焦りの表情を浮かべていた。小柄で、ボロボロの鎧を見にまとった冒険者らしき男はひたすら呼びかけている。
だが、学校には誰もいない。先生がどうしたと聞きに行っていた。
「大変なんだ! 僕たちが……僕たちが変な白いドラゴンをおこしちまって……!」
「なんだと?」
「誰か助けてくれ! 僕たちはただ伝説の魔物を狙ってただけなんだ……! 誰でもいい、強い奴を……!」
「そのドラゴンのもとには案内できるか?」
「できる! 道は覚えてる……」
冒険者の男は疲れを見せながらも、教師の服をつかみ、必死に訴えていた。
だがしかし、現実は時として非情なものである。俺たちの耳に、突如馬鹿でかい咆哮が聞こえてきたのだった。
どんな魔物よりも迫力のある大きな咆哮。それはドラゴンのものだった。デカくて白いドラゴンが小柄な冒険者の男……俺たちの目の前に降臨していた。
「あ……あ……」
「最初から標的になってたのかこいつ……!」
「獲物をおってきやがったわけだ……。アギト! 今すぐここに勇者を呼んで来い! 聖女たちは先生方が全力で死守する!」
「わかった!」
「お前には聞きたいことがわんさかあるから必死で逃げてろ!」
「た、助かるなら何でも話すよ! だから助けて……!」
目の前のドラゴンはぎろりと俺のほうを向いた。
ドラゴンは俺のほうを向いたまま動かない。だがしかし、俺に好意を向けているというわけではないのはすぐに理解できた。
少しフリーズしたかと思うと、俺めがけて大きな爪を振り下ろそうとしてくる。先生が剣ではじこうとしても防ぐことはできなかった。
「死ぬ……!」
誰か助けて……!
その時、とてつもない衝撃が目の前によぎった。恐怖のあまりつぶってしまった目を開けると、そこには以前魔力を分け与えた白いドラゴンがシックドラゴンを攻撃していたのだった。




