誰も寝てはならぬ ①
志島へきるは男子寮に入っていった。
男子寮はとても静かだ。カタリナに連れられて、まずはハルト王子の部屋に向かう。ハルトも苦しそうにして、起き上がれないようなほどつらい顔をしていた。
「どうしたら……」
「まずはやれることをするのですわ! えぇと……動けるのはわたくしたちだけですし、まずはヒヨリさんの策を待つしか……ん?」
魔力を感じた。
女子寮から馬鹿でかい魔力が垂れ流れてくる。癒しの魔力。カタリナの周りをふよふよ浮く精霊が回復魔法だーと呟いていた。
回復魔法……その場にいないのに? だがしかし、回復魔法ならいい。
ハルトの顔色がよくなり、ハルトが起き上がった。
「なんだか俺は気持ちよく寝ていたような……?」
「ハルト様!」
「カタリナ?」
「……喜ぶのはあとです。今ものすごくやばい状況になっていますわ」
カタリナはハルトに状況の説明をしていた。
「なるほど。そのシックドラゴンとやらが……」
「はい。討伐をさせたいのですが……」
「わかった。とりあえず俺が指揮を執る。とりあえず残り二国の王子と連携を取ろう。勇者の出番だ」
「よし来た! 任せといて!」
その時だった。
外で轟音が鳴り響く。外を見ると、デカい鳥の魔物が同盟学校の建物にぶつかっていた。ぶつかった学校の一部が崩れ、瓦礫が下に落ちていく。
「魔物の襲撃か!?」
霧のせいで前が見えにくい。
だがしかし、轟音はいくつも鳴り響いた。この建物にもぶつかってきているようで、速めに避難しないといけない状況に。
ハルトはベッドから起き上がり、勇者たちの部屋に案内してもらって勇者たちをたたき起こす。
「ん、あ、おはようございます」
「おはようさん……。ふあーあ……」
「おはようじゃないよ! 重大事件!」
「「重大事件?」」
壬午と東にハルトに対して行った説明と同じことをもう一回話した。
「なるほど。緊急性を要するな」
「この時のための俺らだね。とりあえず回復役の美咲を……。いや、この広範囲の回復魔法、美咲のスキルだな……」
「……途切れないように回復魔法をかけてるとなると途切れたらやばい系じゃねえか?」
「だな。途切れたらまた再び症状が再発するとかかもしれない。かけ続けてなきゃだめなら前線には連れてけないね」
「俺らでやるしかねえな」
二人はやる気満々に立ち上がる。
三人は剣を持ち、とりあえずそのシックドラゴンというドラゴンを探すことになった。突如発生したシックドラゴンによる白い霧
どこにいるかもわからず、ましてや未確認のドラゴン。怖くないわけがない。だがしかし、やっと与えられた勇者としての使命。その使命に興奮を抱かないわけでもなかった。
「は、ハルト様ぁー!」
と、女子寮から神の子イルムが走ってやってきた。
「どうした?」
「聖女様たちからの伝言で、なるべく早くしてほしいということです。聖女様たちも人間ですからいつかは睡魔に負けて寝ちゃうかもしれないし、寝ちゃったら回復魔法が解けちゃうそうなので……」
「……調査する余裕もないな」
「あと魔物に襲われでもしたら対応はしきれないから護衛も少し欲しいと……」
「アギトに行かせろ! アギトをたたき起こしてでも護衛に回せ! 少しの護衛と残りの人材はドラゴンの捜索だ! 人海戦術でなんとしてでも早く見つけドラゴンを討伐せよ!」
「伝えてまいりますわ!」
「こんな最悪な目覚めはしたくなかったな……」
ハルト王子は頭を抱えた。
今、学園長が不在であるからこの同盟学校内での実力者は円卓の座に就く者たち。第一席は勇者へきる。
勇者へきるはドラゴンの討伐に向かうから他は聖女の護衛につかせることになった。
ほかの王子たちも続々と集まって、作戦会議が行われる。
「とりあえず聖女には意識を保っててもらう必要があるな」
「あまり好ましくはないが、少し乱暴をしてでも眠気を覚まさせるしかないか?」
「だとしても気絶させたら意味ねえだろ。もっと別の方法で……。いや……とりあえず俺らでも役割分担だ。避難誘導はラファエロの王子が、総指揮はハルトで、俺はドラゴン捜索の指揮を執る」
「わかった。そうしよう」
王子たちも三手に分かれ、それぞれ指揮を執る。
ドラゴン捜索がまず必須事項だ。どこにいるのかわからないまま、勇者を向かわせるわけにもいかない。多少の犠牲を出してでも、まずは迅速に見つける。同盟学校の領地は広いからすぐに見つかるわけがないが……。
「最悪の寝起きだ……。くそったれ」
アルスラーン皇国の皇子がそう悪態をついていた。




