伝説の魔物の噂
豊穣祭もつつがなく終わり、いつもの日常に戻った。
俺は猫の姿になり、カタリナ様に抱かれながら同盟学校周辺の町を歩く。同盟学校に近いところでは賑わいを見せており、はしゃいで走り回る子どもとか、根切をしている奥さんとかがいた。
「ふふ、猫を連れて散歩は一度やってみたかったのですわ」
「付き合わせてすまないな。ヒヨリさん」
「いえ……」
嬉しそうに笑顔で歩くカタリナ様。その後ろを微笑みながらついていくハルト王子。仲がとてもよろしいことで。
「それにしても最近冒険者の姿がとても多いですわね?」
「そういやそうだな。言われてみれば」
「なにか魔物の大量発生の報告とか会ったのでしょうか……」
「いや……俺は特に何も聞いてないが」
たしかに街を見渡してみると剣や斧など各々の武器を携えて歩いている人が多い印象だった。ここは同盟学校だし、冒険者ギルドはここにはなく、依頼は基本学校のほうに来る。
冒険者がここに来る理由はない。そう考えてみると多いな。
「すまない、同盟学校の調査員のものなのだが、貴殿は冒険者殿と見受けられる。なぜこの町に来たのですか?」
「そりゃおめえ、この町にいるっつー伝説の魔物を探してんだよ」
「「伝説の魔物??」」
「そうさ! この同盟学校周辺には伝説の魔物がいるっつー話! そいつを見つけてたおしゃ一攫千金っていう報酬が帝国から出てんのよ!」
「帝国から? 妙な話だな」
帝国って……。
「アズマーン帝国のことですわね。そこは勇者を追放して国力が著しく落ちたという噂がありますの。なんかありそうですわね」
「ちなみにその伝説の魔物の特徴は?」
「尻尾が蛇で頭がライオンのバケモンだったらしい。ま、お前さんも見つけるなら早いほうがいいぜぇ! 帝国の冒険者はみーんな気が短えし金に飢えてるからよぉ、取り合いになるぜぇ」
そういって、男の人は捜索の続きだと言って去っていった。
「帝国がそのような噂を国民に広めている……? なんのためだ?」
「とりあえずこれは報告事項ですわね。今の帝国の国力はうちより低いと言えど、何考えてるかわからない不気味さがありますわ」
「そうだな……。俺が報告しておく。同盟学校領にいる伝説の魔物なんているわけがない。いたとしてもろくでもないだろう。魔物だからな」
「そう、ですわね。帝国にはとりあえず学園長に手紙を送ってもらうことにして……。一応ラファエロとアルスランにも共有はしておきますわ」
「そっちは頼んだ」
そういって、カタリナ様は俺を抱きかかえたまま、同盟学校に戻りほかのクラスの王子と呼ばれてる人たちに連絡を取っていた。
アルスランは3年、聖ラファエロは2年生に王子が在籍しているらしい。
「帝国が? なんだってそんな噂を。戦争でもやるつもりか? 不可侵の条約を結んでるはずだろ」
「それは昔の話です。王が移り変わっていく中、その約束を守らないバカも出てくるはずでしょう」
「そうだな……。わかった。とりあえず手を打つしかねえよ。噂の出どころは? 伝説の魔物はでたらめか?」
「いるわけがないとハルト様が……」
「いや……そうとも言い切れん」
アルスランの皇子は顎に手を当てて考えていた。
「俺たちは全世界の魔物の情報を知っているわけではない。知らない魔物だっているはずなのだ。いないと頭ごなしには否定できない」
「……そうだな。伝説の魔物か。特徴は?」
「来る道中に伝説の魔物の特徴とかは?」
「へびの尻尾とライオンの頭らしいですわ」
特徴がもろキマイラと呼ばれる魔物なんだが……。
「そんな魔物いるか?」
「いや……聞いたこともないな。だがいる可能性はある」
「でもそんなのいるんだったら図鑑とか伝記や文献にいち早く記されてるだろ。文献は小さい時から読んでるけどそんなの見たことねえぞ」
「ラファエロがいうのならいない可能性のほうが高いな……」
なんかめちゃくちゃ大事な話をオレを目の前にして行われてる。凄い疎外感。俺はこの同盟学校の歴史とかほとんど何も知らないし、帝国についてはミツたちが召喚された国ということしか知らないが……。
なんていうか、聞く限り厄介な火種らしい。どうか面倒なこと起きませんように……。こういう願いはつくづく叶った記憶がないが。




