豊穣祭 ④
イルムの頭の上に乗っかりパーティに戻る。
イルムはどうやら俺の先輩のようで2年生らしい。歳上なのか……。
「イムル様……。このような場に動物を連れてくるのはいかがなものかと……」
「え、ダメでした!?」
「流石に……」
初手クラスメイトらしき人から注意を受けてた。
そりゃそうだ。現実でも飲食店に猫とかいるのはやだって人いるし……。
「で、でもこの子大人しいので!」
「そういう問題では……」
引き下がれよ。
さてどうしたものか。俺がここで動いたらダメな気がするしこいつは引かないし……。
俺が頭を悩ませていると。
「ああ、すまない。私が許可したんだ。許してやってくれ」
「学園長!」
「その子は大変大人しいから大丈夫だよ」
と俺の方を見てウインクしてくる学園長。
助け舟のつもりかな……。俺はため息を吐く。ここで変身を解いたらダメだししばらくこのままだな……。魔力はまだ死ぬほどあるし魔力切れで途切れる心配はないかも……。
心配なのは俺の変身魔法を知ってる人だ。
「イルム様。楽しんでおられますか?」
「あ、カタリナ様〜!」
「イルム? その猫は?」
「あぁ、外にいたんです! 野良猫なのかなぁ?」
「へぇ……。少し抱っこさせていただいてもよろしいかしら?」
「いいですよ!」
お前が決めんなよ。
俺はイルムからカタリナ様の手に移される。カタリナ様は俺を抱えながら背筋を撫でる。ちょっと気持ちよく感じてるのは内緒だ。
「ふふ、毛並みがとてもよろしいですわね。野良猫にしては大変綺麗すぎますし……誰かの飼い猫でしょうか」
「そうだな……。立派な黒い毛だ。まぁ……パーティが終わったら名乗り出るだろう。それまではどこかに放して見ておくか」
誰かの飼い猫って話になってますが。
すると、ハルト王子たちの後ろからへきるたちがキョロキョロとしていた。
「ねぇアギト〜。本当に外に行ったの? いなくない?」
「行ってたぞ。嘘はついてねえよ」
「どうだかね……。ああ、これはハルト殿下。失礼ですが聖女様は……」
リヒターと目があった。
リヒターは俺の変身魔法と猫の姿を知ってる。リヒターはなんとなく察し、言葉を続けていた。
が。
「あ、いた!」
「……」
へきるが「ひよくーん!」と言いながら俺を抱き抱えた。
「……へきるさん」
「えっ?」
「ひよくん? ひよくんってヒヨリ様のことですわよね? その猫の名前なのですか?」
「うん! ひよくん!」
「……ヒヨリ様と同じ名前はややこしくありませんこと?」
「え、だ」
と、言いかけた時。
「実はこの猫はへきるさんがヒヨリさんと喧嘩した際に仲直りするために練習相手としてひよくんと呼んでいたのですよ。それがクセになってひよくんという名前で呼んだら反応するようになりまして」
「そうなのか……。その名前を自分の名前だと」
ナイスフォローだリヒター!
へきるがリヒターに腕を引っ張られて小声で「ヒヨリさんが変身魔法を使えるのは秘密だと言ってただろう」と釘を刺していた。思い出したようにへきるはそうでしたと反省している。
「ひよくんって呼ばないと反応してくれなくて! ね、ひよくん!」
「ニャア」
「そうなのか……。仲直りは済んだのか?」
「もちです! もう仲良しです! ねー?」
反応を求めんな。
へきるお前隠し事は昔からできないタイプだよな。だからお前にバレたくなかったんだが。
「その猫のことはどうでもいいだろ。ヒヨリを探すんだろ?」
「え、あ、それはもう済んだ!」
「…………」
「済んだのか? 見つけてもいないのに?」
「えっ」
ハルト王子が不思議そうにへきるを見ていた。
そこは探す体を装うんだよバカ!
「え、えと……。リヒター!」
「僕に振られても困るんだが?」
「アギト!」
「なんだよ」
二人が困ってる。
ハルト王子は何かを考えているようだった。そして、ある考えに辿り着いていた。
「変身魔法か?」
「知ってるの!?」
「やっぱりか」
「……ハルト様? 変身魔法というのは?」
「古代魔法の一種だ。そういう魔法があるというのは聞いたことがある。そういえば以前、賢者の書庫に出入りしていると聞いたからそう思ったのだが……」
「…………」
「その猫がヒヨリさんなんだな?」
「…………」
俺は目を逸らした。
もうこいつには秘密ごとを話さねえ。
「……どういうことだ?」
「とりあえず秘密ということだ。僕も不可抗力で知ってしまったから口止めされていたが……」
「わかった。まぁ……ほどほどにしておけよ」
「うす……」
「本当にヒヨリ様なのですわね……。……ヒヨリ様、もう少し撫でさせていただけませんこと?」
「うす……」
俺はへきるからカタリナ様の手に渡されまた撫でられる。慣れた手つきでなでやがる……。
「ひよくん気持ちよさそー……」
「黙れポンコツ」
「ひぐっ」
へきるが俺の口撃で怯んだ。




