豊穣祭 ③
アギトは意外と優しいリードしていた。が。
「…………」
「……お前、片割れと違って運動できねえな」
「うるせえ」
めっちゃつまづいたり、めっちゃ転んだりして目立ちすぎたので逃げてきた。アギトは俺の横で俺を鼻で笑っている。
俺は運動苦手なんだよ。体育の成績なんか出席してるから2もらってるだけで限りなく1に近い2だぞ俺は。自慢じゃないが運動はできないんだぞ。男の子が誰しも運動できるとは思うな……。俺は基本インドアだから動き回らないんだよ……。
「笑いたきゃ笑え」
「別に笑わねえよ。誰だってできねえことはあんだろ」
「……アギトってそういうのいうんだ」
「あん? 何だよ。笑ってほしかったのか?」
「いや……最初へきるに突っかかってたやつとは思えん発言だから」
「……その節は悪かったよ。女でも強い奴はいる」
アギトは照れながらも謝罪の言葉を述べていた。
「……俺、女にはあまりいい思い出がないから」
「なんかあったの?」
「……昔、女に殺されかけた。それもたくさん」
「えっ」
「俺はじいちゃんの隠し子だったから。父さんは快く受け入れてくれたけど、母さんとか姉さんは俺を許してくれなくて殺されかけた」
アギトはどうやらエルゴさんの実の子ではなく、エルゴさんの父が庶民とまぐわってできてしまった隠し子だったようだ。
その隠し子をエルゴさんは引き取ったがエルゴさん以外はよく思わなかったようで使用人の人にナイフを突きつけられて殺されかけたりして女が嫌になったという。
まぁ、気持ちはわからんでもない……。
「悪かったな。聞きたくなかったろ」
「いや……ま、理由があってよかったよ。なかったらちょっともうね……」
「……」
そこで会話は途切れる。
「……俺は戻ってる」
「俺はもうちょっと風に当たってるよ……」
アギトは中へ戻っていった。
俺は猫に変身してちょっと逃げることにした。猫に変化し、二階から飛び降りる。外も逃げてきた人たちや抜けて婚約者といちゃつく人たちも多かった。
俺はなるべく人に見つからないように茂みの中を移動していく。ああ、やっぱ猫に変身するのは面白いなぁ。なんて思いながら歩いていると。
「あ、猫ちゃんだー!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、神の子といわれているイルムがそこに立っていた。イルム……! なんでこんなところにいるんだ!?
いや、そういえばイルムは学校に通ってるんだったか……。いや、なんでこんな隅に?
「貴族様多くて慣れないけどぉ……。ふふ、猫ちゃんも逃げてきたのー?」
「にゃ、にゃん……」
「そっかぁ! かわいー!」
イルムはすりすりと頬っぺたをすりすりしてくる。
イルムに抱きかかえられ、俺は身動きが取れなくなっていた。
「でもこの猫ちゃん、魔力があるように感じる……。魔法かけられて……。まさか……」
「……」
気づいたか?
「呪いで猫の姿に変えられたお姫様……?」
半分正解。っていうか呪いで猫に変えられた姫って。
魔力を帯びてる猫って普通じゃないのか。というか、魔力を帯びてるとか普通の人は気づかないと学園長言ってたけどあれってガセ?
「でも安心して! 私のスキルはどんな呪いもどんな魔法も強制的に解くスキルなんだ! えいっとスキルを使えば……!」
と、スキルが使用されたのかそのまま魔法の効果が途切れた。
その瞬間、俺は人間の姿に戻る。
「……どぅえええええ!? マジで人だった! ってか……聖女様じゃん!」
「久しぶり……」
「なんで猫の姿になってたんですか!?」
「……その、そういう魔法で」
俺は秘密だぞといって、変身魔法について教える。
「そんな魔法が……!」
「喋んなよ? マジで。これはほんっとに秘密だから……」
「はい! このイルムは口だけは堅いんです!」
「心配だ……。絶対ドジって口を滑らせたりしそうで……」
「あらら、ダメなほうに信頼がありますね!」
「だってなぁ」
前がそうだったし。
イルムはめちゃくちゃ甘いサトーキビィを飲ませてとかわざとじゃないけど結果的に邪魔になってることをしてるっていうことがあるからな……。
本人は思いやってるつもりではあるがそれが裏目るからいつそうなるか……。
「ま、いいや。ばれたし戻ろ……」
と、言うと。イルムが腕をつかむ。
「ま、待ってください!」
「……なに?」
「……猫に変身してたのは自分の意思で、ですよね?」
「ん? ああ、そうだが」
「となると、いつでも猫になれる!」
「まぁそうだね」
「猫の状態が好き!」
「そうはいってない」
イルムは手を合わせて頭を下げてくる。
「お願いします! 猫になって私を癒してください!」
「……えぇ」
「私、昔から動物に避けられるんです! 猫は威嚇して触ろうとするとパンチしてきたりするし! 犬には吠えられて噛まれるんです! 不思議なことに! だから、普段から触れないんです! でも人が変身した猫なら! 人の意思なので拒絶されることはないと思うので!」
「お前もへきるタイプかよ」
へきるも動物に避けられるんだよなぁ。
多分、へきるの場合は動物の防衛本能が働いてると思うけど。
「わかったよ……」
俺は猫に変身する。
そして、イルムの頭の上に載せられた。
「それじゃこのままパーティにいってみましょー!」
「このままいくのかよ!」
「私結構な時間抜け出してますから! 不安に思った人が探しに来る時間だと思います」
えぇ……。




