お疲れへきる
数日後には回復魔法をマスターしていた。
失った身体の再生、病気の治癒。なんとなくコツはつかんで、それからというもの習得は意外と早かった。
オーテムさん曰く、この短期間でここまで覚えるのはすごいらしい。俺ってすごいようだ。
「ひよりちゃん、今日も頼むわ!」
「これはまた結構派手にやりましたね」
「ああ! 強敵だったんだ。勝てなくてよ、腕失いながら命からがら逃げ帰ってきた。いやー、まじで死ぬかと思ったよ」
「の割にはめちゃくちゃフランクに話しますね。もうちょっと焦ってもいいと思うんですけど」
「ひよりちゃんの治療があるから大丈夫だと思ってるんだ」
なんだこいつ。
俺は一応回復魔法は賭けてやった。失った腕がにょきにょき生えてくる。ちょっと見た目がグロテスクだが、数秒後には元の腕に戻っていた。
聖女の力が知られてからというもの、俺のもとにはものすごいたくさんの重病患者が運び込まれて毎日大忙しだった。
「オーテムさん、俺もうへきるんとこ戻りたいんすけど……」
「むぅ。貴殿がいれば仕事が早く終わって楽じゃったんじゃがの、もう教えることもないし仕方あるまいか……」
どうやら俺が言い出すまでこき使うみたいだったらしい。なんてじじいだ。このじじい意外と腹黒い説あるぞ。
まぁ、聖職者なんて気取っていても人間何考えてるかわからねえしな……。
俺は馬車に乗り込み、王城へと帰っていくのだった。
王城内の自分の部屋に帰ってきた。ようやくというべきか、意外と早かったというべきか。まぁなんにせよ、俺の心配の種はいつもへきる。
へきるは無事か? めちゃくちゃしごかれて大変な目にあってないといいが……。と考えていると。
「ただまー……。おひさー……」
「へきる! 大丈夫か!?」
ふらふらーとした足取りで入ってきたへきる。
そのままベッドになだれ込むように寝そべっていた。へきるはものすごく疲れた顔をしている。が、それでもふざける余裕はあるようで。
「ほら……女の子と一緒のベッドだね……」
「お前疲れてるんだろ。寝ろよ」
「一緒に寝よー?」
「いいよ。俺まだ眠くねえし……」
「そんなこと言わずに」
と、へきるは俺の腕をつかみ、ベッドに引っ張り上げてきた。
隣に寝かせられる俺。こいつ意外と力が強い……いや、強くなっているのか? 俺が虚弱になったからこんな風に簡単に引っ張られるんだろうか。どっちもか。
もう男としての尊厳ないぢゃん……。
「あー、ひよくん妹みたいでかわいー……」
「へきる、胸当たってるけど……」
「当ててんのよ」
こいつ。
まぁ、疲れてるし大目に見てあげようか。こいつもこいつで強くなろうと必死に頑張ってる分癒しが欲しいんだろうしな。俺が癒しになれるんならいいか……。
俺はゆっくりと目を閉じる。そして、うとうとーとしてきた時だった。
「今夜は、寝かさないよ♡」
「おわっ!?」
こいつ!
耳元でいきなり囁いて来やがった! ASMRじゃねえんだぞ!
「お前寝かかってるときに耳元でささやくなよ! びっくりすんじゃねえか! 無駄にエロい声しやがって!」
「ひよくんの反応が面白いからつい……」
「お前昔からほんとそういうのやるよな……!」
昔から耳元でよく囁いてくるんだよこいつ……。