豊穣祭 ②
リヒター・アンデルセンがリードしながら、志島へきるは踊っていた。
「つかぬことを聞くのだが」
「ん、なぁに?」
「君はマキシマ・ヒヨリのことが好きなのか?」
リヒターは突然ぶっこんだ。
へきるは思わず手を止めてしまう。
「えっ!?」
「いや、不躾な質問で済まない。だがちょっと気になってるのだ。君のヒヨリさんへの態度は他と違う……ともに異界から来た仲というのはあるだろうが、それでもまたほかの女性と対応が違うような気もするのだ」
「……」
へきるは考えたこともなかった。
自分が誰かを好きになるなんてことは頭にない。毎日何も考えずにのほほんと生きていたから、○○ちゃん好きとかそういう感情はあれど、それはあくまでLikeのほう。
へきるは特に恋愛的な意味では何も意識したことはなく、なにも考えてないように生きていた。
「うーん……どうなんだろ」
「わからないのか?」
「考えたこともなかったなー……。昔からの幼馴染だしお互いがお互いめっちゃ理解あるし……。好きなのかなぁ?」
「……なるほど。無意識か」
「え、納得したの!?」
「あぁ。すまない。不躾な質問をして」
再びダンスを始める二人。
へきるはダンスに集中はできなかった。自分は多分考えてみればヒヨリのことが好きだったんだなぁと考えるばかり。
でも……。
「……女性と女性が付き合うのってありだと思う?」
「生物的には生殖活動ができないからアウトではないか?」
「いや、法律的に……」
へきるの心配はそこだった。
照れるわけでもなく、法律が邪魔するかどうか。
「法律……? いや、特にそういう規制はないが……」
「え、じゃあ同性婚ありなんだ!」
「そこまで考えが及んでないからわからない」
もし結婚するなら日和のほうがいいとへきるは考える。
自分のことを良く理解してて、迷惑をかけてもかけられてもいいと思えるような相手は今のところ日和だけだった。
でも、ひよくんはこの世界に来て女の子になっちゃって……。日本じゃ同性婚は禁止だった。それぐらいはへきるも知っていた。
だがこの世界では。
「ふふん、同性婚ありか」
「だが前例は……」
「前例がないなら作るっきゃないでしょ! 前例作らなきゃ誰もできないって!」
へきるの無駄な行動力。
「大人になったらプロポーズしよ!」
「……応援しておく」
へきるは猪突猛進。
特に何も考えず、自分たちが結婚できる歳になったらプロポーズしようと考えていた。多分日和のほうからはしないと考えてもいた。
「ひよくんは昔からこういうのは奥手だからねぇ。私がガンガン行かないとねぇ」
「そうか? 結構男勝りなところはあるからそういう気が合ったらガンガン来ると思うが」
「ちっちっち。甘い甘い。うちのひよくんは肝心なところでチキンだから無理無理。告白は絶対先延ばしにするタイプなんだよ。というか、好きな相手がいてもその好きな相手が違う人に恋してたら潔く身を引くタイプのひよくんだしね」
「そうなのか。意外だな」
リヒターは意外な側面を知った。
へきるは今からどうプロポーズしてやろうか考えようと踊りながら考えている。
(ひよくんは昔から慎重だからなぁ。私がリードしてやらないと……)
「次、私ひよくんと踊る!」
「……そのヒヨリくんが見当たらないが」
「えっ!?」
さっきまであそこにいたのに!




