お月見しましょ ①
俺は学校の授業が終わると賢者の書庫に篭るのが日課となっていた。
魔法というものは面白く、今までになかったモノ。何も知らない、面白いモノ。そんなモノに俺が惹かれないわけがなく。
学園長が言うように、魔法で面白おかしく生きていくというのも悪くないなと思ってきてしまった。
「学園長〜。この世界じゃ人によって属性とか決められてるんすよね」
「そうだね。君は雷だったか。あぁ、ちなみに私は水と風だよ」
「それって変えることのできない不変的なモノなんですかね」
「ふむ……。そういう性質だからな。変えるというのは何度も試みたことはあるが理論ができてないんだよ」
理論か……。
魔法もいわば理論で詰められる。数式と同じみたいな感じかな。
いわゆる魔法ってのは数式で、まだまだ未知のモノではある。人類が解明出来てるのはきっとまだ少ないのではないだろうか。
「いいねぇいいねぇ。ヒヨリちゃんも魔法に興味持ってきて先生嬉しいよ」
「考えてみるとちょっと面白いし、ありえない事ができるのはちょっと面白いんで」
俺も非科学は好きな方だった。
魔法はそっちの方だと思う。科学的ではないナニカ。それには俺を惹きつける魅力がある。
「学園長は変えることができると思いますか?」
「うーん。どうだろうねぇ」
「曖昧な返事はいらないんで」
「うーん、つっても曖昧にするしかないからねぇそれは。私の考えでは絶対ってことは絶対にない。だからある……と思うけど、先人たちは誰も発見にまで至ってないからね。理論もクソもない。魔法は普段から恩恵を得ているけれど、分からないことだらけだよ」
「質問を変えます。あってほしいですか?」
「そりゃもちろん。違う属性扱えたら面白そーだよね」
普段から恩恵を得てはいるが解明すらされず便利だから使われてる。
そういうのもいいんだけど……。俺としては理由づけが欲しいところだ。なぜ魔法は一人一人決まった属性だけなのかとかわからないことだらけ。
「ヒヨリちゃん、もしかしてその謎に挑むのかい? 大変だよ?」
「まぁ……深くまでは考えませんよ。気になってるだけです」
仮定……を立てるには魔法について知らなさすぎるんだよな俺は。
「私は君たちの世界の科学とやらが気になるがねぇ。どういうものなのかとか」
「肉が焼けるのは何故かとか、そういうのを突き詰めていったような学問ですよ。俺としてはそっちの知識の方が頭に入ってるんで魔法について驚きっぱなしですが」
「異世界人は変なとこに目をつけるんだねぇ」
「身近なところに役立つヒントがあるんですよ」
俺は本を閉じる。
少し疲れ目になってきたので自分に回復魔法をかけておいた。
そろそろ出ないとへきるが心配するな。時間的にももう夜になるぐらいだ。
「学園長、今日はこの辺で……」
「うむ、また来たまえよ〜……。いや、ちょっと待て」
ぐいっと服を引っ張られた。
廊下に出て窓の外を眺めろと言われる。窓の外を眺めると月が上がっていて、とても綺麗な満月だった。
「うわ、満月だ」
「こういう話を知ってるかい? 秋の満月の夜は魔力が跳ね上がると」
「……知らないんですけど?」
「秋の満月には人の魔力を増幅する力があるんだ。なぜかは知らないがね。それをみんなは月の魔力とか呼んでる。この日に魔法の練習すると所持する魔力量とか増えるって話なんだ」
「ああ、たしかに校庭でめちゃくちゃ練習してる……」
変なものもあるもんだ。
秋の満月といや、異世界だったらお月見か。へきるはそういう季節の行事が大好きだから付き合わされたっけ。いつも俺が団子を作って……。
……団子か。
「学園長、こう、水と混ぜるとモチモチするような粉ってあります?」
「おん? あるよ? スライム芋の粉」
「それってこの学校にあります?」
「あるある。私あれで作った餅が大好きでさー。ああ、食べたいのかい? 仕方ない、学園長が一肌脱いでやりますか」
「いや……俺それで作りたいものあるんで」
餅といえば餅か。
あるんなら作ってへきるにもってってやろう。第一席の仕事で疲れてるだろうし、お月見をして気分転換でもさせてやれたらいいな。




