よくわかる魔物学!
仲直りもして、俺らの関係はいつも通りに戻った。
「魔物にもいろんな生息地がありましてぇ、空を飛ぶもの、水を泳ぐもの……。それぞれに適した環境に住んでるんですね」
今は魔物学の授業だった。
魔物にももちろん、弱点があったり、習性があったり。それを知り尽くしていたら、こちらに優位に進められる。
ここは戦闘を主に教えるので、弱点を知っておいて損はない。
「魔物にも、人間の子供一人に敵わないような弱い魔物、人間を見たら逃げ出してしまう魔物もいれば、ものすごく強い魔物、プライドが高く人間とは戦おうとすらしない魔物もいます。人間と同じように個体によって強い弱いが違うんですね」
「ポケ〇ンみたいだね!」
「この世界でそのたとえはどうかと思う」
伝わらないっての。
まぁ、強い弱いが違うってのはそらそうか。俺だって元の世界にいた時にボクシングの世界チャンピオンに勝てるかって言ったら絶対無理だし、勉強で東大卒の先輩に勝てるかって言われたら無理。
強弱があるのは当たり前で、自分の持ち味を生かして自然界でどう生き抜いていくかってのが本質だと思う。
「例えばそうだなぁ。プライドが高い魔物と言ったらなんといってもドラゴンですね! 個体数が少ないですが、ドラゴン一匹一匹がそれぞれ絶大な力を持っています。人間を見下し、敵対心がなく、こちらから攻撃しなければ攻撃してこない。まず人間一人の力は無理ですね」
「やっぱドラゴンいんだ!」
「お、気になりますかへきるさん」
「もちです! ドラゴンなんて見たことないんで!」
「見たことがある人のほうがレアでしょうが……。ドラゴンは個体数が少なく、常日頃ナワバリを転々としておりますからねぇ。出会おうとして出会えるものじゃありませんし、敵対したら死を覚悟したほうがいいですね」
そんなに危険視されてるんだ。
「ですがかつての勇者の一人はドラゴンを調伏しともに戦ったと言われてます」
「ほえー」
ドラゴンを調伏……。それってきっとスキルだよな。そういうスキル。
絶大な力を持つドラゴンを調伏して魔王を討伐したんだろう。
「天竜ヘヴヘヴォス、地竜ランドローア、火竜フレアドン、水竜リヴィアス、雷竜ママラドラ、風竜エアルデア。これらの個体は人間に観測されておりますが、まだまだいるかもしれません。これ以外のドラゴンの個体の目撃情報はないので、目撃したら即殺されているか、本当にいないかの二択となります」
「ドラゴンかぁ」
「一説によるとドラゴンは魔力を好むらしいので、魔力が豊富だと自信があるなら探してみても」
「あ、俺いけるか?」
魔力なら自信がある。
これ以降、先生のドラゴン熱にスイッチが入ったのか、ドラゴンの話ばかりだった。ドラゴンはどうやらその強さで人々の脳を焼いているらしい。
先生の話し方がオタクそのものでちょっと早口だった。その熱量にクラスメイトがちょっと引いていた。
一人を除いて。
「ドラゴンかー! 会ってみたいな! ってか仲間にしたい!」
「なんかあったらまたろくでもない目に会いそうだから俺はいいかな……」
「え、なんで?」
「さっきの先生の話聞いてただろ。ドラゴンの力を手にした少年の話とか。体に鱗が生えて尻尾が生えてって竜人となったって言ってたじゃねえか。なんか、俺この世界に来て体改造されまくってるから……」
「あー、変身とか女の子になったりとか! そういうのに縁があるのかもね?」
「嫌だよそんな変な縁。断ち切らせてくれよ」
もうそこまで来たら何か別の意味で引き寄せられてるみたいで怖えよ。なんで俺こんな体を変にいじくられてんだ? 神様が俺で遊んでんのか?
日本には八百万の神様がいるっていうし、この世界でも八百万の神がいてそういうのを好む神がいるんだろうか。いたとしたら随分と変態性が高い神様だよ。
「でも私は会いたいのでドラゴンに会うフラグを建てます! ドラゴンなんて会えるわけないよねー!とか言ったらフラグになるでしょ?」
「お前、そのフラグは絶対折れないぞ。お前がそう言って逆のことが起きたためしがほとんどないし出会えないと思う」
「えーっ!」
「お前昔からそうじゃん……」
フラグ建築士ではないんだよな。フラグを折られないから。なんてたってフルメタル合金製のフラグだぞ。昔から。
へきるはマジのマジでポジティブだからわかりづらいが、運がないほうではある。運ゲーとか一番苦手とするタイプなのだが本人にそういう自覚はない。めっちゃくちゃポジティブだから。
俺も運はないほうだが、自覚はきちんとあるので運が絡まないような勝負とかしかしない。
「……ドラゴン探すかあ」
「学校に来た意味なくなるだろ。学ぶのを放棄すんな」
学びたくて来たんだよなお前。




