仲直りと変身魔法
俺はトコトコと学園の土の上を歩く。
「マジでこの姿で散歩するんすか……? 魔力探知とかでバレないですか?」
「大丈夫大丈夫! 変身魔法のことはほとんど誰も知らないし、人間が動物になるなんて思ってる人いないから!」
「そういう問題ですか?」
そういう思い込みがない人にはすぐにわかるだろうがよ。
なんとなく不安がよぎる散歩だった。隣では学園長も犬になりきっている。
道ゆく人にいつものワンちゃんだーとか言われてるあたりマジでこの姿で散歩してんな。
「おや、君はいつぞやの犬ではないか」
と、歩いているとリヒターが話しかけてきた。
「今日もおやつをもらいにきたのか? だがすまないな。今日のおやつはチョコレートなのだ。チョコレートは犬に有毒とも聞いたことがあるし、今日はあげられん」
「わふぅ」
「ん? 今日は黒猫も一緒か。猫にチョコレートはどうだったかな……。やめておこう。生物に有毒なものを与えるのは好ましくない」
いやくれよ。こちとら猫だぞ。
いや、本物の猫にチョコレートはダメだけど。
「わふぅ……」
「欲しそうな顔をしているな……。なにかあったか……」
「……」
この学園長、物をねだるのが上手すぎる。与えられすぎだろ。
リヒターがカバンの中を探ってる様子を見ていると、背後から誰かに持ち上げられた。にょーんと俺の身体が少し猫のように伸びる。
「猫ちゃんだ!」
「おぉ、へきる君。君も動物好きかい?」
「大好きだよ! 可愛くてねぇ。あ、そだ! ひよくんに猫見せたら仲直りしてくれるかな!」
「……猫見せるだけで許してくれんのか?」
「ひよくん猫好きだからねぇ。猫アレルギーだから近づけてないけど」
「猫好きなのにアレルギーってなんか可哀想だね……」
うるせぇ。この世界じゃ克服したわ。
猫に近づくときは回復魔法をかけ続けてるからアレルギーによる発作とか起きないんだよ。
てかなんで東たちと一緒に。てかへきるいい加減宙吊り状態やめろ。
「学校の中に猫いるなんて珍しいねぇ。飼い猫?」
「首輪してねぇしちげえんじゃねえの?」
「この世界でも首輪すんの?」
「さぁ……」
え、首輪すんの?
「その猫妙に大人しいね? 知らない人に持ち上げられてるのに嫌そうなそぶりもないし」
「あ、たしかに。人慣れしてるってことは飼い猫かなぁー? 名前つけれないね。野良だったらひよりって名前にしよーとしたのに」
俺と同じ名前つけんな。ややこしくなるだろうが。
「よし、この猫をひよくんに見せて仲直りしよう! 協力してねー、猫ちゃん」
へきるは屈託のない笑顔をこちらに見せてきた。
うん、まぁ、こいつも反省してるし許してやるか。俺ももうどうでも良くなったしな。学園長のおかげで。
俺はもう正直へきるとの喧嘩よりこの変身魔法に興味が出てき始めた。
「いつまで抱いてんだよへきる。俺だよ」
「……ふぇ?」
「猫が喋った……?」
俺は変身を解いた。
学園長が少し微笑ましく見ている。
「えぇ!? 猫がひよくんになった!?」
「どゆこと?」
「なっ……!」
東たちとリヒターも驚いてこっちを見ている。
「ふっ……。仕方のないお嬢ちゃんだこと」
「え!?」
学園長も魔法を解いていた。
「君たちにも説明してあげよう! ただ、このことは秘密にな!」
「学園長!? なぜ……犬が学園長だったのですか!?」
「こんなところで解いてしまうとはね。うん、バレたからには説明しなくては! とりあえず人気のない私の部屋にいこうか」
そういって学園長は俺たち7人を学園長室に連れて行く。
そして、学園長が変身魔法について説明をしていた。古代の魔法であること、変身魔法を使うのを許可してるのは俺だけということ、普通はもっと苦戦することとか。
「なるほど、要するに自分のイメージ動物とか近しい人に変身を……」
「近しい人の場合はその人のことをよく知ってる必要があるけどね」
「なら……」
俺はへきるに変身してみた。
「うわ私だ!」
「やっぱへきるは幼馴染だから変身できんだな」
「同じ人間が二人……。たしかにこれはこれで悪用出来そうっちゃ出来そうだね」
「近しい人でないと無理ということはそういった心配はないのではないだろうか。そういう人間には傷つけたくない、利用したくないという心が湧くだろう」
「その通り! そういう制約なんだよ! 古代の人もそういう考えさ! 悪用などもってのほかだからね」
古代魔法は今のような攻撃に特化した魔法より、面白おかしく、便利な魔法に特化したのが多いらしい。
だが魔王が出現して、魔法は攻撃用に転ずるしかなかった。面白おかしく便利な魔法はそのおかげで衰退し、使えるものが少なくなってしまったというのが学園長が考えた説のようだ。
「古代の魔法使いは私のような魔力量がデフォだったから、消費魔力が馬鹿でかいんだ。まず常人には扱えない」
「俺は魔力量だけなら学園長よりあるからな。そこら辺は余裕」
「だから扱えるのも含めて今はヒヨリちゃんだけだね。だから私もやりたいとか思わないように! これは本来は秘密なんだからね!」
「……はい」
「お前ちょっとやりたいと思ってたろ」
「うん……」
「他者にはかけることができないのか?」
「自分の身体を弄るのと他人の身体を弄るのとでは難しさが段違いだ。まず不可能」
「そう……ですか」
「聖女なら誰でも出来たりとかは」
「無理だね。ミノリちゃんもミサキちゃんも魔力量が足りてない。変身できたとしてもごく一部だろうね」
「そっかぁ」
いや、出来るんじゃないか?
俺は変身を解いて二人に触ってみる。
「俺の魔力で変身とかは? 魔力共有なら出来るんじゃないか?」
「ん? あ、考えたこともなかった。魔力を共有するって……出来るのかな」
「どゆこと?」
「俺の魔力を使って魔法使えねえのかってこと。俺の膨大な魔力ならこういう消費魔力が馬鹿でかい魔法も使えたりしないかなって」
「出来ると思うが君が手を離した瞬間変身は解かれると思うがね」
「じゃ無理か……」
「だが面白い発想だ。君たちには特別なスキルがあるんだろう? その考えでいけばそのスキルは共有できるはずだ」
スキルの共有?
学園長は黒板に文字を書き始めた。
「まず君たちはどういったスキルだ? 教えて欲しい」
「私は……魔力回復が常人よりも段違いで早いってだけです」
「私は回復魔法を範囲で使えるってだけです」
「ほうほう。となると、例えばミサキちゃんがヒヨリちゃんに触れて魔力共有を行ったとする。これは憶測になるが、回復できる範囲は消費する魔力による……のかな? 回復魔法に必要な魔力に上乗せして消費する魔力で範囲回復を行う。その上乗せ魔力をヒヨリちゃんが補ったら?」
「……っ! すごい範囲で回復魔法を使える!」
「そう! で、そこにミノリちゃんの回復速度アップだ。これで何度も連発ができる。おおよそ、この方法だとまず魔力が尽きることはない。魔力タンクとしてヒヨリちゃんはとても優秀だからね」
なるほど。俺の魔力で上乗せした分、範囲をどんどん広げられるってことか。
こういうコンボあるんだ。この世界に。
「ヒヨリくんの魔力も無限大というわけではないから、尽きたときにミノリちゃんが魔力共有したらきっとすぐに回復すると思うよ」
「ほへぇ」
「そんなこと出来んだ……」
なるほど。手を取り合ったらめちゃくちゃすごいことになるってことですか。




