誰も知らない賢者の書庫
俺は学園長に連れられて、賢者の書庫と呼ばれる場所にやってきていた。
ここは学園の地下深くにあり、この書庫の存在は学園長と一部のものしか知らないようだった。ここには禁書や異世界の本など、様々な書物、知識がある場所らしい。
「こんな大事そうな場所に俺を連れてきてよかったんですか?」
「いいんだよ。君はいずれ私と並ぶ賢者になるさ。それに、君にはある魔法を覚えてもらいたいからね」
そういって一冊の本を手に取っていた。
本に書かれてるのは転移魔法と変身魔法というものだった。
「なんですかこれ」
「古代魔法の書物さ。転移魔法のやり方と変身魔法のやり方が描かれている」
「これを覚えてほしいと?」
「ああ」
ということらしい。
転移魔法はその名の通り、自分の行きたい場所に転移する魔法。遠ければ遠いほど消費魔力は大きくなっていくようだ。
そして、変身魔法は自分の体を作り変えて、ほかの人間や動物になる魔法。
ざっくりと目を通してみたが、魔法の理論がちょっとぶっ飛んでいてよくわからん。
魔法というのはイメージ。それは大前提のものなんだけど……。なんだろう。オノマトペで説明されてる感じがする。
ひゅっとしてばっとかそういう感じで説明されてると同じような感じで意味不明。
「わからん……」
「では手本を見せよう」
そういうと、学園長は魔法を唱えた。
学園長の姿がどんどん変わっていって、学園長は俺の膝ぐらいの大きさの犬に変身した。犬種はゴールデンレトリバーかな。
「これが変身魔法だ。これにも欠点があり、自分と近しい人間にしか変身できないこと、動物は一種類しか変身できない。私は犬だった」
「へぇ。誰にでも変身できるってわけじゃないんですね」
「ああ。でも、覚えたら面白おかしく過ごせるぞ。たまに犬に変身して遊んでもらってる」
「なにしてるんすか学園長」
一体何してるんだよ学園長。
変身魔法の存在は周りは知らないそうなので一部の教師以外にはばれてないらしい。むしろ一部にはばれてんのかよ。
「ってかそれ俺に伝えていいんすか? そもそもなんで俺がこんな書庫に連れてこられて……」
「ふふん。だから君が次世代の賢者になるからだよ。ここはそういうところなんだ。魔法の才覚が誰よりも優れていて、悪用はしないであろう人物……。これでも私、人を見る目は確かなんだ。一目見てわかったよ。君は私よりの人間だってね」
「……?」
「魔法を使って面白おかしく生きていきたい。そんな人間だ。今は異世界に来た不安とかあるけれど、絶対楽しむようになるよ」
「そうですかね」
「そうさ。君のことはオルフェリート王国の国王様とかからも聞いてるからね。命を奪うことを良しとしない。心優しき聖女……ってね」
「誇張しすぎだと思いますけど」
あくまで俺自身が手を下したくないっていうだけ。優しさとはまた違う。ただビビってるだけだと思う。
「だからね? 賢者になる前に、知っておいて遊ぼうよ! 違う生物に変身してみる世界は楽しいよ」
「……」
そういわれるとちょっと気になるんだよな。
俺はもう一度、変身魔法を読み込んで、ダメもとで唱えてみた。すると、俺の体が変化していき、黒い猫のような姿になる。
「おお、一発で出来たね! センスあるなぁ! 黒猫か。可愛いね」
「そうですね。あ、でも変身してる間は魔力減り続けるんだ」
「そ。魔力がなくなったら強制的に変身が解かれるよ。でも、君の魔力の量なら一週間は軽く変身できるんじゃないかな。もちろん、その姿で寝たら魔力は回復するし……永遠に猫のままでいることもできそうだね」
「いやさすがにずっと猫のままは嫌ですけど」
俺は魔法を解く。
学園長も魔法を解いた。犬と猫から人間の姿に戻る。
「じゃ、転移魔法だね! 転移魔法も覚えたら便利だよ? 自分が行ったことある場所ならすぐにいけるからね! 私は君たちの年齢の時、ずっと旅ばかりしてたから割とどこにでも行けるんだ」
「なんで旅してたんすか?」
「自分探し」
「あー」
なんか自分探しで旅する奴いるよな。




