頭おかしいんじゃねえの!?
背中に激痛が走る。
俺はあまりの痛さにその場に膝をついた。
「ひよくん!」
「おっと」
男は何か魔道具を取り出し、へきるの方に向けた。
へきるは縛られたように絞められている。
「よーやく隙を出してくれたな。ここまで魔力が尽きないとはバケモノめ」
「……誰だよお前」
「俺か? 俺はラファンクラスのハイコーだ。オルフェリートの聖女サマ」
こんな身近にいたのか……。
くそ、油断した。あの魔道具……きっと誰か一人を拘束するもんだ。一番拘束すべきへきるに使うために俺が消耗するのをずっと待ってたんだな。
「ひよくん動けない!? 回復魔法で回復しちゃって……」
「そりゃ出来ねえよ? 回復魔法を使うのは知ってる。だから出来ないように手の届かない位置にナイフを刺したんだろうが」
「……そういうこと。それに、痺れてる。ナイフに毒塗ってある」
「死ぬような毒じゃねえからな。殺すのはルール違反で俺が処罰されちまう。死なねえ程度の傷だ。すぐに治せる。引っこ抜いたらな」
それを織り込んで手の届かない肩甲骨のあたりにナイフを突き刺しやがった。
俺が治すにはへきるにナイフを引っこ抜いてもらうしかない。
「くそ、この程度の魔道具……」
「俺が近くにいる間は拘束出来るんだよ。もらってくぜ。俺が遠くに離れたら解除されるからその時抜いてやれよ」
そう言って星をぶんどっていくハイコー。
そして、意気揚々と歩いて去っていくハイコー。残り時間はあと少し。逃げ切られる……。
「俺が弱かった……」
「……いや、まだ勝つ方法はあるよ」
残り2分くらい。
タイムリミットは太陽が全て落ちるまで。この距離じゃのらりくらりとかわされてしまう。
それに、俺の傷もあるしナイフを引っこ抜く隙があるから無理だろ……。
「ああいうやり方ムカつく……。視認できる位置にいるのは良かったけど」
「お前、あと2分で届くか? あいつは俺を殺さないように離れてるけどよ……。俺も正直、意識がやばい……」
「大丈夫。近づくのはひよくんだから。私は近づいたら拘束されちゃうし」
そういって、ある程度の距離が取られて、へきるはやっと解放された。
へきるは俺の首根っこを掴む。
「……何するつもりだ?」
「ひよくんをぶん投げる」
「いや、バカ言うなよ!? あと1分弱だぞ!? 俺だってそれなりの重さあるしいくらお前でもぶん投げるなんて……」
「だったら軽くするよ」
そう言って、へきるは俺の首を刎ねた。
そしてすぐに投球モーションに入る。
「行ってらっしゃい!」
「このバカ!」
俺はすぐに回復魔法をかけた。
やることが脳筋すぎるだろうが! 俺を頭だけ切り取ってぶん投げて回復させるってアホじゃねえの!?
俺の身体がすぐに回復し、素っ裸で勢いよくハイコーに突っ込んだのだった。
慣性はそのままなんだな……。じゃなくて。危うく死ぬとこだったじゃねえか! 首刎ねられたときにはなんとなくやりたいことは理解したけど少し間違えたら俺死ぬじゃん! アホじゃねえの!?
「もらい!」
「おま……! 頭おかしいだろ! 普通、仲間の首を刎ねてぶん投げるか!?」
「あいつ頭おかしいから……。死ぬかと思った」
「死なねえテメェもテメェだよ!」
ハイコーから星を奪い取り抱える。
ハイコーは頭のおかしいへきるに文句を垂れていた。俺も文句言いたいよ。あのバカに……。
そして、完全に太陽が落ちる。
その時、森の上から声が聞こえた。
『お疲れ様でーす! みなさん、よく頑張りました! 召集の魔道具でみなさんを一箇所に集めるのでじっとしていてくださいね!』
「えっ、今!? 待て!」
俺は素っ裸のまんま、転移させられたのだった。




