勇者の器
「っつぅ〜……」
東が殴られた頬を摩り、目を覚ました。
「魔力で防いで回復魔法かけられてもまだ痛えぞ……。どんなゴリラパワーしてんだよ」
「あはは。アレでまだ本気じゃないよ」
「「え、マジ??」」
東は俺に耳打ちしてくる。
「こいつ日本でどんくらいのパワーだったんだよ」
「知らん……。けど昔からなんか重いもんをよく持ってたし部屋には女子らしからぬダンベルとかいろいろあったな……」
「見た目は可愛いのに趣味がゴリラだな……」
ひどい言われよう。でも否定できないのがちょっと悲しいかな。
俺も日本にいた時のこいつのパワーは知らん。へきるは運動部の助っ人によく行ってたのは知ってたし、助っ人では頼りになり過ぎて全国に導いたケースもある。
こいつ普通にバケモンか……?
「……理人、その女の子といい雰囲気じゃん」
「あっ……いや、こいつは元男だろ?」
「元男でも付き合ったりしちゃう例はあるんだよ……!」
「す、すまん!」
みのりちゃんはギロリと東を睨む。
「……ヤンデレ?」
「の気質があるんだ。ごめん」
「大変だなお前も」
東は起き上がりみのりのところに向かった。
「さて、勝負しかけて悪かった。受けてくれてありがとう。これ、勝った賞品としてやるよ」
と、投げ渡してきたのは星のアクセサリー。
今回集めろと言われているものだった。
「始まってすぐに見つけた。勝つつもりで挑んだから言わなかったけど、負けちまったしやるよ」
「いいの!?」
「おう。敗者に選ぶ権利なし。負けたら何か渡すのはゲームでもよくあることだろ」
東は笑う。
「ま、これからは仲良くしようや。ただでさえ死が身近にあって家族も仲が良かった人もいねえこの世界。同郷から来た奴ら奴らがいれば少しは心強い」
「だね。私たちもちょっと寂しいところだったんだ」
「戦争になったら敵になるかもしれねえけどな!」
「その時は……お互い、抜けて国を興してみてもいいかもね」
「建国って大きく出てんなぁ」
建国の方が険しい道だろうがよ。
「じゃ、死ぬなよ! あと頑張れよ!」
「うん!」
「また」
「ええ、また」
俺たちは東と別れる。
「同郷から来た友人か……。良い人だったね!」
「少なくとも、アレはお前と同じ脳筋タイプだから話が合うんだろ……」
「だね! めっちゃ鍛えてそうだったし!」
「鍛えてる奴が鍛えてるやつに負けたんだ。あっちはあっちで相当悔しいんだろうな……」
負けて悔しい。されど同じ世界から来た仲間。
悔しさと嬉しさが混じり合って複雑な気分に違いないだろ。少なくとも俺はそうなる。
あいつの言う通り、この世界は殺傷が当たり前。魔物に殺されるし、魔物を殺す。人と人とも簡単に傷つけ合う。
日本よりも死が身近にあるのは恐怖でしかない。
同じ境遇がいれば少しは和らぐってもんか。
「でも、あっちも次は相当鍛えてくるだろうし、私にはずるいチートスキルもらってないからもっと鍛えなきゃね!」
「その圧倒的なフィジカルは十分ズルだろ」
へきるも何度か攻撃は喰らってるはず。でも傷一つ見当たらなかった。
となると……。やっぱ並大抵の攻撃じゃびくともしない身体か。溶岩ですら風呂感覚のこいつにダメージを与えるのは相当苦労するこったろう。
こう、俯瞰してみると改めてわかる。
ずば抜けた戦闘センス、恵まれたフィジカル。それら全ての才能を併せ持ったこいつのほうが勇者に相応しいのだと。
勇者にこいつが選ばれるのはいわば自然の摂理。はなから俺は勇者の器じゃなかったってこった。
「なに? ひよくんじっと私見てるけど」
「……お前がいなかったら俺がこの世界来ることなかったんだなって思って」
「あ、私のせい!? ごめん!」
「いや……」
俺には幸い、魔法センスはある。
シャルさんのお墨付きだ。そこは自信を持てる。けど、それでも俺はこいつに届くかどうかわからない。
元より、俺は人より魔力が多いチートをもらってそれを頼りに魔法を使ってるだけだ。もしそれがなかったら?
「……ま、お前のせいか」
「ごめんねぇ……」
「いいよ。気にすんな」
俺はこいつに劣る。
その事実をなんだか突きつけられた気分だった。
今更なんですが作者、旧Twitter(現X)とブルースカイもやってます。
同じ名前でやってますので、いつでもフォローとかお待ちしております。なお運用頻度はそこまでないです。たまにツイートしたりしてます。




