対聖ラファエロ王国勇者戦 ①
アギトは先日の一件以降、へきるを軽視するような発言は無くなっていた。
いつも朝早くトレーニングしてから来るようで、前の敗戦が堪えてしまったのか、少し苦々しい顔をしている。
「はい、長期休暇も明けてすぐではありますが、実戦演習が始まりましたね〜」
「実戦演習か……」
「魔物が出るここ、シザリオの森でやるんだ。弱い魔物しかいないが、相手は魔物。気をつけていきたまえよ」
リヒターが説明してくれた。
この魔物が住む森に、星のキーホルダーみたいなものを隠したから探してこいという。
もちろん魔物との戦闘は避けられないし、素材とかは各自で売ってお金にするのも良しとか。
星を多く見つけてきた人には何やら賞品があるらしい。
「ではみなさん、死なないように〜」
担任のミーナ先生がそう言って、演習開始。
今回は個人戦ではあるが、俺はへきると一緒に行動することにした。へきるは方向音痴だから一人にすると永遠に帰って来れなくなる可能性あるし……。
「私たち、何気に魔物と対峙するの初めてじゃない?」
「あー……あの崩落事故あったろ」
「あ、あったね。でもひよくんは初めてでしょ。生き物殺せる?」
「……多分」
この世界に来て、俺は生き物を殺してない。
魔物であろうとなんだろうと、何かの命を奪ったという記憶はない。
初めての実戦ってことになるな。俺は。
「ま、なんでもいいだろ。俺は星一つでいいし、一つ手に入れたらあとへきるでいいよ」
「わかった!」
「とりあえずあっちかな……」
どこに星があるか分からないからな……。
俺は先へと進んでいくと、俺らのクラスではないアルスラン皇国か聖ラファエロ王国の生徒であろう人が魔物と交戦しているのが見える。
この演習は合同で行うからいるのは当たり前だけど……。
「妨害有りなんだよな」
他人を妨害する行為は認められている。
世の中、足を引っ張ろうとするやつも少なからずいるわけでそういうのに目をつけられると非常に面倒なことになる。
俺たちはとりあえず他人の妨害行為はなしにしようと話し合い、進んでいくと、木の上に不自然な黒い玉があるのが見えた。
へきるは木を蹴り、その玉を落とす。地面に落ちた衝撃で二つに割れて中からは星が出てきた。
「まず一つ目。なるほど、こんな感じで配置されてるのか……」
となるとフィールドをくまなく探す必要がある。
目立つところに置かれてるわけではなく、目立たなくポツンと置いてあるようだ。
俺が星を手に取り、ポケットにしまおうとした時、火の魔法が俺に直撃した。
不意で放たれたその魔法は魔力で防ぐことすらできず、俺は引火した服の火を消し、火傷を回復魔法で治した。
「あっつあっつ!」
「不意打ち……! あっちから……!」
「奪うために遠距離から魔法を撃ったんだな……。魔力を纏っておくの忘れてた」
俺は魔力を纏う。
へきるは剣を握り締め、力を込めて振り払う。へきるの剣から斬撃が飛び、森一帯の木を薙ぎ倒した。
「おいおい、環境は大事にしておけよな」
「うわぁ……」
現れたのは一組の男女。
この国の人ではない……。顔立ちがモロ日本人だった。ってことは勇者で確定。
アルスラン皇国の勇者は壬午と宇和島だ。となると。
「聖ラファエロ王国の勇者か!」
「ご名答! オルフェリート王国の勇者たちだろ? 気になってたんだよお前らのこと」
「……告白!? きゃーっ!」
「話が飛びすぎだお前。かっこよく宣戦布告しようとしてんのに台無しだろうが」
へきるが告白と勘違いし、相手がそれにつっこんだ。
割とまともな人か?
「とりあえず、お前たち名前は?」
「志島へきるでぇーす! 勇者やってます!」
「巻島 日和」
「俺は東 理人。あっちでは高校二年生だったぜ」
「私は……西宮 みのり……。よ、よろしく……」
「よろしく! みのりちゃんはあっちでは男の子とかだったりするカナ!?」
「え、普通に女の子……ですけど……」
「あー、やっぱひよくんがレアケースなんだね」
「ミツとかは俺と同じだったろ」
俺たちの質問に疑問を抱いたのか、東は剣を置いて問いかけてきた。
「どういう意味だよ」
「いやぁ、ひよくん、元々あっちの世界じゃ男の子でさー。あっちで男だったのにこっちじゃ女の子になるケースもあるから……」
「……マジ?」
「マジ!」
「じゃあ俺が聖女に選ばれてたら俺が女になるとこだったのか……。…………」
「理人……今悪くないって思ったでしょ……」
「……正直羨ましいぞこの野郎!」
俺に怒鳴ってきた。知らんがな。
「俺はなりたくて女の子になったわけじゃねーんだよ……。で、やるんだろ? 対戦カードは俺と西宮さんでいいのか?」
「そうだな。勇者と勇者、聖女と聖女で行こう。お互いタイマンだ。最後に立ってた方がさっきお前さんたちが手に入れた星を手に入れる。もちろん、殺しはなしだ」
「オッケー。そのルールでいこう」
へきるは剣を構えていた。
西宮さんもやる気満々のようで、さっき放ってきた火の魔法を再び放つ。




