挨拶
「改めまして! オルフェリート王国勇者、志島へきるでぇーっす!」
「聖女の巻島 日和です」
クラスの転入も済ませた。
この学校はそれぞれの国でクラス分けされているらしく、俺たちはオルフェリート王国の貴族が所属するオルフェウスというクラスに割り振られた。
俺たちの席も用意されており、俺たちはそこに座る。
「うわ、うちの国の勇者? 初めて見たよ」
「まあ、基本的に長期休暇以外は帰っていないから当たり前だがね……。だがしかし、勇者と聖女が召喚されたとは耳にしていたが……」
「なんとも可愛らしいお方ですね」
周りの貴族たちが囲んでくる。
物珍しさ故だろうか……。
「はい、そこまでですわ。お二人も初めてですし、まずは自己紹介をいたしましょう。わたくしとハルト様はすでに紹介済みなので皆様方どうぞ」
「はい! じゃー、あたしから! あたしはリエリー・アスマルド! アスマルド伯爵のとこの次女だよ! って言ってもわかんないか! 貴族とか知らなさそうだもんね!」
「まぁ、あまり関わらない方が身のためではあるだろうね。ああ、僕はリヒター・アンデルセン。父の爵位は侯爵だ。よろしく頼むよ」
次々と自己紹介をしてくる。
自己紹介を聞くと次男や次女が多い感じだった。
「次男が多いという顔をしているね。まぁ、長男や長女は……この学校で学ぶ理由もない。僕たちは当主にはなれない貴族の集まりさ」
「ほえー……」
「カタリナ様はハルト王子との婚約をしているから例外だがね」
「ほえー……」
当主になれない貴族の集まりかぁ。
だから戦闘とか魔法とか学んで将来に役立てるって感じなのかな。貴族っていろいろしがらみがあるんだなぁ。
「だから僕たちには堅苦しくなくていいよ。最低限のマナーは守ってもらうが、気軽に仲良くしてくれると嬉しいね」
「そうだよ! あたしらは仲間になるんだから!」
「仲間……!」
へきるがじーんと感動している。感動する要素あったか?
へきるが感動を噛み締めていると、教室の中に汗まみれで半裸の男が入ってきたのだった。
周りの人は少し嫌そうな顔をしている。嫌われてんのか?
「お、お前らが噂の転入生か。勇者と聖女だったか……」
その男は鋭い目つきでへきるを睨みつけると。
「気に入らねえな。弱そうなお前たちが勇者だなんてよ」
「……あはは。弱そうかー。ま、仕方ないよね」
「ふん……。ガッカリだ」
そう言って男は席に座った。
「……で、誰?」
「ああ、彼はアギト・グリーム。グリーム公爵家の長男で現騎士団長の息子なのだが……。あの通り性格が厄介でね。気に障ったのなら彼に代わって謝ろう」
「別に謝る必要ねーよ。弱いやつに謝ったってしょうがねえだろ」
グリーム騎士団長……。エルゴさんの息子さんか。だいぶ性格違うな……。
エルゴさんは熱血漢って感じの人だったんだけど、息子はなんつーか感じ悪い。
「弱いかぁ。見ただけでわかるなんてすごいね」
「……弱いのか?」
「女が強いわけがねえだろ」
「うわ、男尊女卑」
こういう奴いるんだ……と思っていると。
「ま、手合わせしてみないと分からないよね。手合わせしよ!」
「……チッ。無駄だと思うけどな」
どうやら手合わせはしてくれるらしい。
男は中庭に出ろと告げて、中庭に舞台を移す。
アギトとへきるは木刀を構え、アギトは挑発するようにへきるをほくそ笑む。
「女だからって弱音吐いても聞いてやらねえからな」
「吐くつもりないよ! よし、やろっか!」
そういって、アギトは地面を強く蹴り、まっすぐへきるに突っ込んでいった。
そして、木刀を横に薙ぐ。へきるはその木刀を右手で掴んで受け止めた。
「……は?」
「捕らえた」
へきるは笑い、そのまま木刀を振り下ろす。アギトの右腕にあたり、右腕が変な方向に曲がった。
アギトは痛みに悶えていた。
「回復! やりすぎだよへきる」
「こういうのやりたかったぁ……!」
「お前なぁ……」
「うわ、あのアギトが手を出せないくらい……」
「これは……予想以上に強いね……」
クラスの貴族もドン引きしていた。




