勇者祭、その後・・・
勇者祭は今年は開催できずに終わった。
王都の復興を急ぎ、初代勇者たちの手で理不尽にも殺されてしまった王都の人たちに祈りを捧げる。初代勇者が生きており、この国を乗っ取ろうと画策した事実は広まってしまい、勇者祭はやるべきじゃないという声も出るようになった。
一つの行事が終わりを迎えてしまったな。
結局、あれだけ練習した聖女の舞は誰にも披露せずに終わるってわけだ。
「で、マジでやるの?」
「自分の検証のためにね!」
今、俺たちはオルフェリート王国の南にある活火山に来ていた。
溶岩が流れる洞窟。へきるは溶岩を目の前にして立っている。
へきるはごくりとつばを飲み込んだ後、そのまま溶岩に足を付けていた。俺はへきるに回復魔法をかける準備をしながら様子を見守る。
だが、へきるの肉体は燃え尽きることも溶けることもなく、ただ溶岩の中に足を突っ込んで立っていられるようだ。
「あ、すごい! ちょっと熱めのお風呂みたい!」
「そうなんだな」
「ひよくんもおいでよ!」
「俺は無理だよ。ここですらすでに熱く感じてんのに」
へきるの肉体は溶岩にすら耐えられるように強化されているらしい。
肉体強度の底上げ……。人間が耐えられる限界すら超えているらしい。壬午とか、文吾もそうだったが異世界に来るには何かしらスキルか、秀でた能力がある。
こいつの場合、スキルとかなしに、自分のフィジカルを限界突破させることこそがチートだったんだな。
「普通に浸かれる……。きもちー。整うー」
「溶岩浴ってのは漫画でしか見たことねえな」
「強者の証!」
へきるは溶岩の中から上がってきた。素っ裸で。
「あ、服燃えてる」
「そりゃそうだろうよ。ちょっと熱に強い服だからって溶岩の中じゃ溶けるわ。お前の肉体は耐えれるようになってるけど衣服とかは無理だろ」
「だねぇ……。あ、ひよくんほっぺになにか」
「あづっ!」
へきるの手が頬に触れる。
へきるの体にこびりついていた溶岩が頬に触れ、俺ははげしくのたうち回った。地面も熱く、俺は急いで外に出る。
頬っぺたに触れると、肌が溶けて歯がむき出しになっていた。俺は全力で回復魔法をかける。
「ひよくん大丈夫!?」
「お前溶岩の中に入ったんだからやめろ! 触れんな! 死ぬかと思ったわ!」
「ごめん……」
へきるは外で体についている溶岩を冷まし、固まったところで体からはがしていく。
服を着せて、へきるは泉の前で座り込んだのだった。
「ねぇ、ひよくん」
「なんだよ」
「この世界も案外悪くないね」
「そうか? 俺は女になったりさんざんな目にしかあってねえから悪くないとは思えねえけど」
「えー! 女の子楽しいじゃん!」
「俺は男のままがよかったんだよ。だったら……」
この世界でもへきると楽しんでゆくゆくは……なんてことを想像しなくもない。
「そっかー。ひよくんはまだ満足しないかー。ま、そりゃそうだよね。まだ王都から出てないし!」
「……でるのか? 王都を。旅でもすんの?」
「いやぁ、正直、今の王城暮らしを捨ててまでやることじゃないよねぇ。旅って」
「お前、ぬくぬく育ちすぎだろ」
温室育ちもどきになり始めやがったな。
「……ひよくん!」
「なんだよ」
「同盟学校、行こう!」
「は? しばらく行かねえとか言ってなかったか?」
「そうだけどね! 異世界ってこういう学園ものもメインじゃん? 悪役令嬢が追放されてーとか、乙女ゲームの世界に転生してとか! そういうのも憧れてんだよねー」
「どっちも令嬢って柄じゃないからありえないけどなそういうの」
「いいの! それに、この世界の知識とかまだ全然足りてないからね! 生きてくんだったら学ぶことも大事」
「お前それっぽいことを急に言うなよ」
それに関してはへきるの言う通りだ。
同盟学校か……。勇者と聖女である俺らには通う資格があるとハルト王子とカタリナ様が言ってたし、行けるけれども。
「私は行くよ。ひよくんはどうする?」
「……お前が行くって言ってんのに行かないって選択肢はないだろ」
「さすが! 一心同体だね私たち!」
「そうかね?」
無駄に行動力があるへきる。
俺としては、へきるがいない日々なんてそこまで考えたくないので、へきるが行くんならどこにだって行く所存だ。




