イルムの目的
床に広がる液体。
そして、イルムの体を調べて出てきた謎の白い粉。もう言い逃れはできないような状況に陥り、イルムは黙秘を貫いている。
「前々から君の行動は気になっていたんだ。俺の婚約者に対する態度とかな……」
「……」
「答えろ。神の子であろうとも聖女や俺の婚約者にしでかした罪は問うからな」
めっさキレてる……。
「……くて」
「……なんだ?」
「ただただ疲れを癒してあげたくて!」
「……?」
意味が分からない。
「聖女様も、カタリナ様も毎日忙しそうで……疲れを癒してあげたかったんですぅ……。それは……疲労回復効果のある薬草を粉末状にしたもので……」
「どれ……あっま! これ何の薬草だ?」
「サトーキビィという薬草です……」
「これ砂糖じゃねえの……?」
甘い。
「あ、甘いもの食べたら回復しませんか!?」
「……するのか?」
「さぁ……」
訳を聞いてみると、ただただ本当に疲れを癒してあげたくてドリンクを用意したんだという。回復効果を高めたくてこの甘ったるいサトーキビィという薬草を入れていたとのこと。
このサトーキビィという薬草、副作用として強い眠気があるらしい。糖分の取りすぎで眠くなる感じ? どんだけ甘いんだよコレ。
「カタリナ様にも毎日あらゆる手段で疲れを癒してあげようとしてたんです! でも……」
「それが裏目ると」
「私めちゃくちゃドジで!」
だろうな……。
今気づいたんだが……。
「なんとなくわかるわ……。お前、服の前後反対だし……」
「あ、本当だな」
「えっ」
「お前本当に疲れを癒す目的だったのか?」
「……あわよくば、聖女様とカタリナ様を私の部屋で介抱してあげたいなーと……。可愛いですし……」
「……悪意ではないんだな?」
「悪意ではありません! 人を貶めるのは人としてダメな行為! もちろんそこは弁えております! 神に誓って!」
どうやら本気で疲れを取ってあげたかったらしい。
うーむ。ややこしいんだよお前……。聖女の舞を代わる発言とか普通に私のほうがふさわしいっていう感じのノリだろうが。
「本当にごめんなさいです……。その……さすがに褒められない行為で癒そうとしていたので、後ろめたくて……」
「悪意がないなら俺は別に……」
「カタリナにも説明するか……。まったく。怪しんでいた俺がばかばかしい。言っておくけどな、お前のその発言が嘘か真かは俺は知らん。が、婚約者は一切変えるつもりはないからな。取って代わろうとは思わぬように」
「はい! 寝取る趣味はございませんので!」
そういって王子様はため息を吐いて出ていった。
「せ、聖女様もごめんなさい! ひっそりとやりたかったんですが……」
「陰ながら支えたかっただけ?」
「はい……。縁の下の力持ちって言葉が大好きでして」
あぁなるほど。
「まぁいいよ……。俺は自主練に戻るから」
「頑張ってください……!」
俺が自主練に戻った時だった。
背後からすごい音が聞こえてくる。思わず振り返るとさっきこぼしてしまったドリンクに足を滑らせてイルムが転んで滑っていた。掃除用具入れのところに突っ込んで気絶している。
「縁の下の力持ちがこういうドジして迷惑かけてんじゃねーーーーっ!」
俺は急いで回復魔法をかけた。
「何事だ!」
さっき出ていったハルト様と、カタリナ様が駆けつけてくる。
へこんだ掃除用具入れと気絶しているイルムを見てため息を吐いた。
「さっきこぼしたドリンクに足を滑らせてこのまま掃除用具入れにぶつかりました」
「ドジっていうのは本当のようですね……。というか、ドジのせいで余計な災害が起きておりませんこと……?」
「普通に備品壊すレベルだな……。そういや、最近よく学園の備品壊れていたな?」
「あぁ……」
こいつのドジは物を壊すらしい。本人に悪気はないがなんとはた迷惑な。




