怪しいイルム
「はいワンツーさんし、ワンツーさんし……はい止めー! いいじゃないいいじゃなぁ〜い! モノになってきてるわぁ!」
聖女の舞を初めて2週間。
やっと踊れるようになってきた。体力のなさを感じるとともに、成長できてる実感が湧いてくる。
汗を拭い、休憩に入った。
「お疲れ様です、聖女様!」
「ありがとう……」
飲み物を渡してくるイルム。
毎日のように練習を見にきては飲み物を渡してくるイルム。その隣にはハルト王子もいた。
「毎日大変ですね……。とてもお辛そう……」
「まぁ辛いわな」
飲み物をゴクっと飲み干し、そうぼやく。
聖女の舞は激しい動きこそないが、俺の体力を削るには充分な動きだった。
「ハルト様……。聖女様大変辛そうです……。あの……差し出がましいのですが……。私が代わってあげることは出来ませんか……?」
「いや、代わってもらう必要はない。俺もやっと掴めてきた」
「ですが……」
「お気遣いどうもありがとう。でも大丈夫。俺の仕事なら最後まできっちりやるさ」
俺は自主練をすることにした。
それにしても……ハルト王子がなぜこの場にいる? 婚約者を連れずにイルムと一緒に見に来たってのがどうも怪しい。
もしかしてそういうつもりなのか……? いや、下手な勘繰りは良くないとは思うが……。
「ハルト王子は何考えてんだ……。二人で一緒に見にくるなんてそういうことだとしか思えんぞ」
本人に直接聞いてみるしかないか……?
いや……。もしもそういうことなら素直に言うだろうか。俺だったら言わない。婚約者を差し置いて他の異性と二人で見にくるなんて裏切り行為とまでは呼べずとも、背けたい行為は誰にも秘密にしておきたいはずだ。
そもそも、劇場などの人が雑多な場所ならともかく、俺と講師の人しかいない空間に二人きりで来るということはそういうことはないってことなのか……?
わからん……。真意が読めない……。
「ん……?」
なんか急に眠くなってきた。
疲れてんのかな。ならば回復魔法……。
回復魔法で疲労を気休め程度に飛ばし、俺は再び練習に入る。
振付を思い出しながら踊っているとイムルの顔がチラッと見えた。イムルの顔はおかしいというような顔をしていた。
「……もしかしてさっきの飲み物になんか盛られてたりするかな」
試してみよう。
俺は自主練を止め、イムルさんに近寄る。
「イルムさん。さっきの飲み物ありますか?」
「えっあっ……ただいま作ってきます!」
「お願いしまーす」
飲み物を作ってくれと言ったら少し嬉しそうな顔をしていた。
イルムが部屋を出ていくと、ハルト様はため息を吐く。
「ハルト様……。流石に異性と二人きりで見に来るのは……」
「すまない。ただ……どうも怪しくてな」
「怪しい?」
「あぁ。さっきの発言といい、学園での言動といい……。どうも怪しくてな。怪しい動きしてないか監視してるんだ」
「そうなんすね……」
「なんかさっきの飲み物とかに違和感はなかったか?」
「あー、あれ飲んで動くとめちゃくちゃ眠くなるんですよねぇ」
「……毒盛られてないか?」
「多分……」
「調べてみる必要がありそうだな。もらったら俺に寄越してくれ」
「わかりました」
という会話をして俺はイムルを待った。
イルムはコップを手にして歩いてくる。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう……。でもさっきへきるから飲み物もらっちゃって。作ってもらって悪いんだけど……」
「なら俺が飲むよ。勿体無いしな」
「えっ……は、ハルト様は……」
「ごめんね。ハルト様……すいません……」
俺はハルト様に飲み物を渡そうとすると。
「だ、だめーーっ!」
と、イルムが横に入りコップを叩き落としたのだった。




