魔族三人
魔族たちが目を覚ました。
魔封じの腕輪がつけられて魔法が使えず、俺らも一応、逃げ出さないように警備として配置されていたので逃げる余地もなかったのか牢屋でおとなしくしている魔族三人。
俺らが牢屋で座っているとエルゴさん、シャルさんが真剣な表情で歩いてきた。
「や、お目覚めかな」
「なんだお前ら……!」
「静かにしろ貴様ら」
エルゴさんは床に思い切り剣を突き刺した。
その威圧感で黙らせる。魔族たちは思わず声をつぐみ、息をのんでいた。へきるも初めて見るオーテムさんのその剣幕に押されて黙り込む。
「お前らの目的はなんだ?」
「目的……? ハッ……んなもん決まってんだろ。人間の淘汰だよ!」
「人間の淘汰ねぇ……。それは魔族の総意? それとも君たち個人の判断かい?」
「魔族の総意だ! 人間はこの世界に必要ない……!」
「ふーむ。だがしかし、君たちの長である魔王様にはそのような意思はないようだが? 魔族たちにとって、魔王が王であり従うべき主君だろう」
「その魔王様の指示だ」
「なんと」
魔王様の指示……?
いや……あのヴォルテさんが今更そんな指示を出すだろうか。俺はまだ表面的とはいえヴォルテさんのことはちょっと走ってるつもりだし、そんな指示を出すような人には見えないが……。
どこまで本当のことを言ってるんだこいつは。
「ふむ、弱ったな。魔王にこちらとの敵対意識があると?」
「ああ!」
笑顔で認める魔族たち。
エルゴさんたちは表情を崩さず尋問を始めていた。だがしかし、どんなに聞いても魔王の指示だから詳しくは知らないだとか、魔王様の命令だとか。
魔王に罪擦り付けたいあまりめちゃくちゃ魔王を連呼している。これ逆にシロだろ魔王様。
ただ、これを一方的に嘘だと決めつけるわけにはいかない。
魔王は友好的で交友してると言えど日が浅すぎる。
魔王の人となりを全部知ってるわけじゃないから判断するには尚早だ。もしかしたら表面上は仲良くしようとしてるけれど裏では……。というのは俺たちがいた日本でもよくあることだった。あんないい人がまさか……ってことと同じ。
「私らは魔族でも下っ端だ! ただ上にこき使われてただけだ!」
「人間の罰は少しは受け入れるが、魔王が黙ってないぞ!」
「魔族は仲間意識が強いからこのことを知ったら魔王様がお怒りになるぞ!」
「へぇ」
オーテムさんは不敵に笑う。
すると、後ろからものすごい魔力の圧を感じた。思わずそっちのほうを見てしまう。
「へェ……? 私が誰に怒るっテ?」
真打登場。
魔王ヴォルテさんがものすごく怒っているように見えた。魔族の彼女らはそれにめちゃくちゃ汗を垂れ流している。
この反応……。味方であればビビることはほとんどないだろう。
「オルフェリート国王から手紙をもらってみれば貴様らガ……!」
ものすごい魔力の圧。
シャルさん、エルゴさんも思わずその魔力の圧に圧されている。
「私の意思は変わっておらヌ。人間と友好的な関係を。さすれば魔族の国は長続きするト。私が求めるのは安寧と平和。魔族も納得していル。それなのニ、人間の村を焼き払い、それをあたかも私の指示だト……?」
「ち、違うんです魔王様!」
「何が違ウ。言ってみロ」
「いや、それは……」
「答えられぬのカ? 貴様らにとってはこの魔王であるヴォルテの指示なのだろウ? 魔族としての誇りがあるのなら、しっかりと私の顔を見て私の指示だと言えるはずダ」
「も、申し訳ございませんでした……」
全力の土下座。
さっきまで魔王の指示だとか息巻いてたのが滑稽に見えるほどきれいな土下座だった。
「その程度で足りると思うてカ? 貴様らのせいで余計な不信感を与えてしまったのは事実ダ。そんな薄っぺらい謝罪程度で許してはおけぬナ」
魔王は手のひらに魔力を貯めていた。
さすがにそれを食らったら死ぬんじゃないか……!? まじのガチギレ……!?
「ま、魔王様! さすがにダメです!」
「なぜ止める聖女。これは私ら魔族の問題ダ」
「ここで使うと建物が……」
「む、そうだナ」
それらしい理由を付けて止めたのだった。