俺は性別変わってんの!
助けてくれた……で間違いないんだろうけど、こいつ俺のことを聖女とか言わなかったか?
俺はとりあえず警戒しながらいつでも逃げれるように構える。
「失礼。俺は危害を加えるつもりはありません。聖女様を助けに来たのです」
「だからなんなんだよ聖女って。俺はそんな高尚な存在じゃないぞ」
「とりあえず話は場所を変えましょう。あなたのお連れ様が王城にいるのです」
「お連れって……へきるか?」
「はい」
へきるもこんな訳わからないところに来てるっていうのか。
とりあえずは信頼して一緒に行くしかない。
俺はこの優男と一緒に馬車に乗り込み、王城とやらに向かう。
王城に入ると、王冠を被った老齢の男性の前にへきるがにへらっと笑いながら雑談していた。
「へきる!」
「はいはーい……って誰ぇ?」
「俺だよ!」
「俺っ子? この世界には俺なんて使う子がいるのかぁ。属性萌えだね!」
「言ってる場合か! 俺だよ! 日和!」
「えっ、ひよくん!?」
「そうだよ!」
へきるは俺の姿を見て驚いていた。
俺も驚いてる。さっきまで死にそうだったから考える余裕もなかったが、なぜ俺は女になってんだ。
「なんで女の子になってんの!? しかもちょっとロリ系な……。もしかしてそういう趣味? 引くわー……」
「じゃねえよ! 俺の趣味嗜好は女子大生……てのはおいておいて! 俺も何で女の子になってるんだか……」
へきるは驚いて目をまんまるくして、ずっと俺を見ていた。
老齢の男性はこほんと咳払いをする。
「そろそろ話しても良いだろうか」
「え、あ、はい」
「誰?」
「こくおーさまだって。偉い人だって」
「こくおー……国王!? ってことはここ王の城って書いて王城?」
「らしいよ」
なんでそんなとこ。てか日本国は王権制じゃねえだろ。
「まず、すまなかった。貴殿らがこの世界に来たのは我々の昔の契約である」
「…………というと」
「はるか昔、悪い魔王が人間の国を攻撃した。それに対抗するために、異界から勇者と聖女を呼び出す契約を神に誓った」
「ふんふん」
「魔王は見事勇者に討ち取られた。が、契約の内容が魔王が出現した際、二人の異界の者を召喚するという内容での……。その時限りの契約ではなかったのだ」
「つまり?」
「この世界に魔王が出現してしまった結果、古の契約に基づいて貴殿たちが召喚されたというわけだ」
なるほど。はた迷惑な。
要するに神と契約したはいいが、契約終了期限を決めなかったから永続的に効果が続いてるってわけかよ。それで召喚と。
つまりここは異世界というわけだ。国王と名乗る老齢の男性は異界と言ったしな。
「勇者としてこの志島へきるという女性を。聖女として召喚されたのが貴殿という訳だ」
「……聖女として?」
「あぁ。女性二人が召喚されたのは昔にもあったそうだ」
「ちょっと待って。俺、あっちの世界じゃ男の子だったんですけど」
「???? そうなのか!?」
「そうなんすけど!?」
「なるほど。聖女って言うからには女の子になるのですね。なまじっかへきる様に勇者の資質があったせいで仲が良かった貴殿が聖女となってしまったのでしょう」
国王の隣に立っていた眼鏡の男性が説明してくれた。
どうやらへきるには勇者の資質が物凄くあるらしい。このアホ面浮かべた女が勇者だと言う。
で、聖女は勇者の一番身近な仲良しの人が選ばれるらしく、それが俺だった。
聖女というからには女の子でなくてはならず、俺の性別が女に書き換えられてしまったというのが考察。多分あってると思う。
「えへへ。勇者だって」
「俺が聖女……」
「まぁ……仕方ありません。あなたたちの住む場所は王城に用意しましょう。我々が招いた種、きちんと面倒は見ます」
「その方が助かります……。で、元の世界に帰るにはどうしたら?」
「…………」
俺がそう聞くと国王と眼鏡の男性は目を背けた。
それを見て嫌な予感が俺を襲う。
「……もしかして、一方通行?」
「……だから面倒を見るのですよ」
「魔王を倒したら帰れるとかそんなのはない?」
「今代の魔王は人間に友好的であり討伐する理由はありません。むしろ、交友しているので討伐するのはもっての外であり……」
「ふざけんなよマジでよ」
勝手に異世界に連れてこられて、勝手に性別変えられただけじゃねえか。
「日和、そんな怒らないの。可愛い顔が台無しだよ?」
「呑気にしてる場合か! 俺らは何も問題がないのに異世界につれてこられた挙句、俺は性別変わってんの! 怒るだろ普通!」
「可愛い女の子になれてよかったじゃん!」
「よかねえよ!」
俺は男なんだよ!