ありがとう
足に少しの火傷を負った人や燃えている瓦礫をどかすために物を持ち上げて腕が焼けただれてしまった人もいて、結構ひどい規模の火事だった。
俺は回復魔法を使い、村の人たちを治していく。すると、騎士の人に縋りつく女の人がいた。
「娘がまだあの建物の中にッ! お願いします! 娘を……」
女の人がさすのはひどく燃え盛っている家屋。
たとえあそこにいたとてもうこんな火の中じゃ助かりようも……。騎士もそれを察しているのか、あまり動けずにいる。
すると、へきるはバケツ一杯の水をかぶっていた。
「お母さん! 大丈夫です、私が助けに行きます!」
「へきる! あぶねえぞ!」
「大丈夫! 私勇者だから!」
勇者だからってこんな火の中に突っ込んでいく馬鹿がいるかよ!
へきるを止めようと思ったが、へきるは止める間もなく向かって行ってしまった。燃え盛る家屋の中に入っていくへきる。
クソ、これ無茶するとへきる自身が死ぬじゃねえか!
……へきるが無茶するんなら俺だって考えがある。
俺もへきると同様、燃え盛る家屋に突撃することにした。
回復魔法は自分にも使える。俺が生き残るためには自分に常時回復魔法をかけ続ける。壊れたそばから治していけば故障しない理論だけどどうだろうか。
魔力量は俺は格段に多い。行けるはず……!
燃える家屋の中に入り、身が焼けるほど暑いが、回復魔法で治して言っているので感覚以外は問題ない。
中はまだ無事な部屋とかもあり、これはまだ生き残ってる可能性もあるような気がしてきた。
俺が中に入り、へきるともども捜索しているとへきるがひどく肌が爛れた子供を背負っていた。
「あれ!? ひよくん!? どうしてここに!? 危ないよ!?」
「お前もだろうが! 俺は今全力で自分の体に回復魔法をかけ続けてるから壊れないの!」
「それってやばいことしてない!?」
「お前こそ元気ぴんぴんじゃねえか!」
「んー、なんかこういうの平気っぽい? なんか熱くも感じないしね!」
「そうかよ! ま、見つけたんだな!? 出るぞ!」
「おっけー!」
俺らは全力で外に駆けだしていった。
熱い。熱くて普通に死ぬ。俺は自分の体に回復魔法をかけ終わり、今度は爛れた女の子を見る。お母さんが泣きついており、子供の死を……。
「お母さん、まだ死んでないですよ! 息は残ってます」
「でもこんなケガじゃすぐ……」
「なんのための聖女様がいるんですか」
「……そういうこと」
へきるは多分、生きていたら俺が治せると思って突っ込んだんだ。
生きているかは怪しいっていうか、生きてない可能性のほうが高かったのにな。少しでも生きてる可能性に賭けてつっこんだ。無茶なことすんなお前……。
「俺が治します」
「あ、ありがとうございます!」
「でもひよくん魔力大丈夫? 全力でかけ続けてたんでしょ? そろそろ魔力切れが……」
「いや、俺の魔力量はまだある。全然切れそうにない」
「え、すご」
俺は女の子に回復魔法をかけた。
焼け爛れた肌が戻っていき、少しの火傷の跡もないきれいな肌が露わになっていく。呼吸器もやられてるだろうけど回復魔法でそれも回復し、呼吸が安定してきたのが伝わってくる。
もうこれで死ぬ心配はないだろう。俺は回復魔法を止め、安静なところで寝かせておいてと指示を出した。
「ありがとう……! 本当にありがとうございます、聖女様……!」
「お礼は助けに向かった勇者様に言ってください。俺も半ばあきらめてましたし」
「いいんですよ! 困ったときはお互い様ですから!」
「本当にありがとうございます……!」
母親は泣き崩れ、何度もお礼を言ってくれていた。
こういうのちょっと嬉しいな。
「村人は全員避難完了したようです!」
「そうか! では鎮火作業開始だ!」
「みなさん離れててくださいねー!」
魔法使い部隊の人がたくさん杖を構えていた。
そして、水魔法が発射される。村の火災はすべて消えていったのだった。




